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御曹司のやんごとなき恋愛事情.20

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「頼もしいな・・・」

 行成は笑みを浮かべた。

「佐竹君、俊介のフォローを頼む」

「かしこまりました」



「佐竹君がいるから、安心して休める」

「俺は?俺もいるんだよ親父」

「冗談だ。俊介、急なことですまんが、しばらくの間会社を頼む」

 そう言うと、行成は目を閉じた。

「お疲れなんです・・・。行きましょう取締役」



 本社に向かう道すがら、俊介はデザイン会社の社長に電話で事情を説明した。

 今は繁忙期でもなく、多少の迷惑をかけることになるが、休みをとることが出来た。



「今日から本社で仕事だ!頑張るぞ」

「珍しいですね、取締役が仕事を頑張るなんて」

 優子はチクリと嫌味を言う。

 俊介は頭は切れるし、人当たりもいい。

 それにあぐらをかいて、精一杯努力するということがない。

 俊介に社長になるとして、足りないのは尊敬されるだけの人格だろうか。



「だってさ、毎日優子に会えるんだもん!俺、俄然やる気が出てきた」

 優子は心の中で大きなため息をつく。

 先が思いやられる・・・。



 検査結果は明日には出るそうだ。

 しかし、少なくとも一週間は安静が必要であるということだった。

 朝礼でその旨を社員に伝えた。

 俊介は、さっそく優子から社長が行うはずだった業務の説明を受ける。



「優子と社長室で二人きりか~」

 優子の説明を聞いているのか聞いていないのか、俊介は完全に浮かれているようにしか見えない。

「社長代理!今日もスケジュールは一日中びっしり詰まっています。すぐに出かけますよ」

「え、どこへ?」

「今申し上げました」

「えっと・・・、どこだっけ」

 優子は大声で怒鳴りたくなるのをグッとこらえた。



「高松物産です」

「ふうん」

「午後からは交流会、夜はセミナーに参加していただきます」

「うへえ、休む暇ないじゃん」

「当たり前です」

「せっかく優子と一緒なのに・・・」



 俊介と距離を置こうとした途端の、このアクシデントだ。

 優子にしてみれば、せっかくの苦労が水の泡になってしまったようなものだ。

 これでは、以前よりもっと長時間一緒にいることになってしまう。

 優子は、断腸の思いで決断したというのに・・・。

 なぜか俊介の望んだとおりになっていく気がして怖い。



「さあ、ではさっそく出かけますよ、桑原取締役」

「はぁ~い」

 行きのタクシーの中で俊介がそっと優子の手に触れてきた。

 振り払えば運転手さんにそのことを気付かれる恐れがある。

 優子は黙ってそのままにするしかなかった。

 俊介はしてやったりと上機嫌だ。

 優子は俊介に触れられた喜びと、自分の気持ちを諫めなければならない苦しさを同時に味わうという苦行に朝から苦しめられるのだった。
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