ヤンチャな御曹司の恋愛事情

星野しずく

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御曹司のやんごとなき恋愛事情.44

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 そして、いよいよシンガポールに出発する日を迎えた。

 志津子は、慈善団体のご婦人たちと一緒に行動するため、俊介と優子は自然と一緒に行動することになる。

 俊介は優子が伊波と同居し始めてからも諦めることなく、優子と会うチャンスを狙っていた。
 
 しかし、デザイン会社で働いている限り、それはほぼ不可能に近かった。

 そのため、俊介の優子欠乏症はもうとっくに、限界を超えていた。

 デザイン会社を辞めることと引き換えに、優子に接近できるチャンスは劇的に増えることになった。



「優子、久しぶりだな。元気だったか」

 俊介は嬉しさを抑えきれない。

「はい。副社長もお元気そうで何よりです」

 俊介はデザイン会社を辞め、正式に桑原商事の副社長に就任したのだ。

 それも手伝ってか、優子は俊介と少し距離をとっているのが感じられる。

 しかし、日本を出発してしまえば、他人の目を気にする必要もない。

 俊介の期待は否が応でも膨らむのだった。



 機内に乗り込むと、ご婦人たちは近くの席にまとめられていた。

 そして優子と俊介は少し離れた席で隣同士だった。

 実は、俊介が栗本に頼んで、社内の事務員の女の子にそういう席順にしてくれるようにしておいたのだった。

 今では、栗本は俊介の一番の理解者である。

 彼女は優子との恋を応援してくれているようだ。

 窓際の席に腰をおろした優子の隣に、俊介は何食わぬ顔で座った。

 しかし内心は久しぶりに至近距離で優子を見られるという嬉しさを抑えることで必死だった。



「・・・っ!」

 優子は俊介の方を見ることはしなかったが、明らかに動揺しているのが見て取れた。

 伊波と同居、そして結婚という言葉まで口にした優子だが、こんな風に俊介を意識するといことは、やはり自分に対して特別な感情を持っている証拠だと俊介は分析する。



「どうした?俺が隣じゃまずいのか」

「い、いえ・・・。そう言う訳ではありませんが・・・。副社長はビジネスクラスにいらっしゃるとばかり思っておりましたので」

 それは栗本が不思議がる事務員を説き伏せて手配させたからだ。



「俺はまだ社長じゃないからな。社内では俺の実力でいったら平社員レベルだろ?だからエコノミーで十分だ」

「えらくご謙遜なさるんですね」

「なんて・・・、本当は優子の隣に座りたかっただけだよ」

「・・・」

 ストレートな物言いはかえって優子の心を閉ざす場合がある。

 だから、こうして身動きが取れないときに集中的に使うのが有効だ。



「優子・・・」

 俊介は優子の膝の上に置かれている手に、自分の掌を重ねた。

「・・・っ!」

 声をあげることも、逃げることも叶わない。

 ここは機内なのだから。

 ただし、あまり過剰にやりすぎれば、優子の機嫌を損ねてしまう。

 その加減が難しいところだ。



 自分の気持ちを最大限伝えつつ、優子を困らせすぎないこと。

 日本からシンガポールまで、約七時間。
 
 優子は俊介の手中にある。

 重ねられた掌から、優子はそっと自分の手を抜きだそうとしている。
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