ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.11

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「本当に送っていかなくていいの?」

 シャワーを浴びて身支度を整えた慶子に、聖夜は尋ねた。

「ええ、お堅い職業ってこういうとき不便ね。どこで誰が見てるか分からないから」



 医師であること、そしてとんでもなく真面目な慶子の性格上、結婚しているわけでも付き合っているわけでもない男性と朝帰りなど考えられなかった。

「そっか。俺、もう少し先生と一緒にいたかったんだけど、仕方ないな…」

 そんな後ろ髪を引くようなセリフを言わないで欲しい。

 男慣れしていない慶子は、こんなにも優しくされて身も心も聖夜に奪われてしまいそうで、ひどく混乱しているというのに。

 そんな慶子だったが、部屋を出ようとして、ふとホストクラブでお金を払った記憶が無いことに気付く。



「あ、あの、私、聖夜さんのお店でちゃんとお金払いましたか?酔っぱらってて覚えてなんです」

「今回の分はツケでいいよ。また今度来た時にまとめてで」

 えっ…、ホストクラブに来るのは今日だけのつもりだったのに、どうしよう…。

 だが、仕方ない。

 自分で蒔いた種だ。



「じゃあ、ホテル代は払っておくから、聖夜さんはゆっくりしてって」

「ああ、それはもう俺が払ったからいいよ。先生持ち合わせあるか分かんなかったから」

「ご、ごめんなさい。それも合わせて今度払います」

 病院では聖夜のことを厄介者扱いしていた自分が、今日は失態をさらしまくって、穴があったら入りたいくらいだ。

「ホテル代は俺持ちでいいよ。先生の初めてもらっちゃったし」

 聖夜の言葉に慶子の顔は一気に熱くなる。

 そんなこと言われたら何て答えればいいの…。



「じゃあ、下まで送るから」

 そう言うと、聖夜は慶子の手を握って一緒に部屋を出た。

 エレベーターの中で聖夜は名残惜しそうに慶子に口づけた。

 今日だけで何度したか分からない口づけ。

 だけど、慶子はその度に体中が熱くなってしまう。

 こ、こんなこと、いつもしてるのかな…?

 ホストという職業はどこまでが仕事で、どこからがプライベートなのか慶子には全く分からない。

 ホテルの前に停車していたタクシーに乗り込むと、聖夜に見送られて慶子は自宅に向かった。



 家に着いたのは午前四時だった。

 もう一度寝るにも起きるにも中途半端な時間だ。 

 自宅兼クリニックである慶子の家は、一階がクリニックで二階が自宅になっている。

 キッチンに行くと冷蔵庫から水を取り出して飲んだ。



「なんでこんなことに…」

 慶子はさっきまで聖夜とまぐわっていたのがとても現実とは思えなかった。

 ただホストクラブに行っただけなのに。

 聖夜と関係を持ってしまった。

 それも初めてだったのに。

 今さら相手が誰だろうと、気にする年齢でもないのが悲しい。



 だが、これは想像の域を出ないのだが、恐らく普通の女の子がこんな目にあったらもっとひどく狼狽しているだろうことは想像に難くない。

 しかし、慣れというものは恐ろしいもので、医師という職業上、こういった緊急事態にも動揺しないように散々訓練を受けてきた。

 そうでなければ、医師などと言う職業は務まらないのだから仕方ないのだけれど…。



 だからこそ、聖夜が自分のことをしきりに「可愛い」などと言うのが不思議でならなった。

 普通の女の子だったら、もっと泣いたりわめいたりと喜怒哀楽を激しく表現するだろう。

 しかし、慶子の場合はそういった反応は絶対的に少なかったはずで、可愛げのない女だと思われるのが普通なのに…。

 慶子は聖夜の考えていることが全く理解できなかった。



 ただ、普段の聖夜とホストの聖夜のギャップにはかなり動揺したという自覚はある。

 彼はホストという仕事が天職なのだろう。

 ホストをしている時の聖夜は紳士的で優しくて、どんな女性も虜にしてしまう魔性の魅力がある。

 慶子にしたことは、いつも他の女性にも普通にしていることなのだろう。

 それは当たり前のことなのに、モヤモヤした気持ちが消えない。

 この年までまともに恋愛もしてこなくて、初めて男性に触れられたのだ。

 今の自分は普通じゃないのだろう。

 時間が経てばきっといつもの自分に戻るだろう。

 慶子はそんな風に考えてこの動揺を落ち着かせるしかなかった。
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