それでも俺が好きだと言ってみろ

星野しずく

文字の大きさ
8 / 96

それでも俺が好きだと言ってみろ.08

しおりを挟む
「・・・今、植松君は猪俣君に仕事を教えている。だから、日によって仕事量が違うから、・・・その、残業がない日は植松君が桜庭君の相手をすることになるだろう」

 つまり、これまで、基本的に植松さんが桜庭の相手をして、それ以外の日は桜庭のセフレと都合を合わせて何とかなっていたのだろう。



「・・・それで・・・、こんなこと、とてもお願いできることじゃないことは分かってる。だから、君が選んでくれていいから・・・」

 三村さんは申し訳なさそうに・・・、だけど、それは暗に和香の代わりはいくらでもいると言われているのに等しい。



 この仕事を辞めたくない。

 昨日も今朝も、自分にそう誓ってきた。

 こんな条件がいくら理不尽なことだろうと・・・。



「私、辞めません・・・」

「ほ、本当に・・・?いいのかい・・・」

 三村はてっきり断られると思っていたらしく、信じられないといった表情で和香のことを見つめる。

「はい・・・」

 和香は絞り出すような声で答えた。



「そ、そうか・・・、それは・・・。とても助かる・・・。竹内君には申し訳なくて、僕からは何と言って言いか分からないが、本当にありがとう」

「いえ・・・」

 この場合、何を言われても状況は変わらない。



「あっ・・・、ひとつだけお願いがあります」

「な、何だい・・・?」

「桜庭さん、私の出身大学が二流だから、私のことを二流と呼ぶっておしゃるんですけど・・・。できたら、それは辞めてもらえたらと・・・」

「わかった、その件はしっかり桜庭君に伝えるから。ちゃんと竹内君と呼ぶように僕からお願いしておくよ」



 こんなことも、三村からの命令ではなく、お願いになってしまうのか・・・。

 この会社の上下関係はいったい・・・。



「・・・じゃ、じゃあ、そういうことで、よろしく頼むよ・・・」

 三村はホッとした表情で所長室へ引っ込んだ。



 和香は自分のデスクに腰をおろすと、マニュアルを取り出してもう一度おさらいをした。

 今日からは実際に依頼者からの検体を分析するのだ。

 ミスは許されない。

 そう・・・、自分が望んだこの仕事が出来る喜びに比べたら、桜庭とのことなど一瞬だけの我慢ですむのだから。

 和香は気を許せば湧き出して来てしまう、諸々の感情に蓋をして目の前の仕事に集中した。



 ほどなく、社員がぞろぞろと出社してくる。

 朝のミーティングで、今日の依頼分が伝えられ、それぞれに振り分けられる。



「今日は珍しく数が少ないから、頑張れば残業はなしでいけそうです。では、よろしくお願いします」

 三村の話が終わると、みなそれぞれ割り当てられた検体の入った段ボールを抱えて別室に移動すると、仕事に取り掛かった。



「桜庭君ちょっといいかな」

 三村はオドオドとした態度で桜庭に話しかける。

「はぁ?何すか?俺忙しいんですけど」

「すぐ終わるから、ちょっとだけ」

「・・・三分で終わらせくださいね」

「分かった分かった」

 三村と桜庭は所長室に入っていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...