9 / 96
それでも俺が好きだと言ってみろ.09
しおりを挟む
和香は下手に動いて桜庭に叱られるのが怖くて、そのまま自分の席でマニュアルを読んでいた。
「竹内・・・」
聞き覚えのある声で突然後ろから名前を呼ばれ、和香はついビクッと反応してしまう。
そこに立っていたのは、不服そうな顔の桜庭だった。
今、竹内って・・・。
「仕事始めるぞ」
「はいっ」
いったい何と言って桜庭を口説いたのか・・・。
三村はちゃんと約束を守ってくれたようだ。
和香の呼び名は二流から竹内に昇格した。
三村さんが言った通り、昨日もらったマニュアルを読めば、仕事の方はさほどつまづくことなくこなすことが出来た。
そんなわけで、まだまだスピードは遅いものの、和香に任された仕事は何とか終えることが出来た。
桜庭は自分の仕事を終えると、和香のところにやってきた。
桜庭が近づくだけで、和香の緊張感はMAXになる。
「今日分析したのはいくつだ」
「・・・三件です」
「のろまめ・・・。やっぱり二流だな」
「・・・っ、すみません、明日はもっと早くできるよう努力します」
「さぁ、努力してどうにかなる類のもんなのかねぇ」
桜庭は和香のことをバカにしきっている。
その時、スタッフルームの横の廊下を、植松さんが横切った。
「桃代、今日は?」
「・・・ああ、今日は残業ないよ」
「じゃあ俺んちで」
「わかった」
植松さんは、まるで仕事の会話をしているのかと勘違いしてしまうほど、普通にその話をしていた。
もう周知の事実なのか、社員の誰もそれについて関心がないようだ。
和香は、昨日とは違い、退社してすぐ家に向かう道を歩いていた。
途中スーパーに寄って、家に着いたのは八時を少しまわったところだった。
昨日の事がまるで嘘みたいに思える。
夕食を済ますと、昨日返事ができなかった真に電話をした。
まだ、帰ってないかもしれないな・・・。
真の会社は大手製薬会社で、新入社員の真は覚えることがとにかく沢山あると悲鳴をあげていたから。
程なく真が電話に出た。
「もしもし、まあ君?今どこ」
「まだ会社なんだ」
少し声を潜めている様子がうかがえる。
「じゃあ、すぐ切らないとね。とりあえず何とかやってけそうだから、心配してくれてありがとうね」
「そっか、よかった。そうだ、週末会えるかな?」
「うん、大丈夫」
本当は全然大丈夫なんかじゃない。
だけど、真に打ち明けることなんてできるはずがない。
「また、連絡するよ」
「わかった」
「じゃあまた」
「うん、無理しないでね」
「ありがとう」
そう言って電話は切れた。
お互いまだ慣れない生活で、自分のことで精一杯のはずなのに、真はいつも優しい。
そんな真に心配をかけたくない。
とりあえず、今日はこうして無事に家にいるのだ。
和香は、今はとにかく早く仕事を覚えて、一人前になることだけに集中しようと思い、マニュアル片手にパソコンで勉強に勤しむのだった。
「竹内・・・」
聞き覚えのある声で突然後ろから名前を呼ばれ、和香はついビクッと反応してしまう。
そこに立っていたのは、不服そうな顔の桜庭だった。
今、竹内って・・・。
「仕事始めるぞ」
「はいっ」
いったい何と言って桜庭を口説いたのか・・・。
三村はちゃんと約束を守ってくれたようだ。
和香の呼び名は二流から竹内に昇格した。
三村さんが言った通り、昨日もらったマニュアルを読めば、仕事の方はさほどつまづくことなくこなすことが出来た。
そんなわけで、まだまだスピードは遅いものの、和香に任された仕事は何とか終えることが出来た。
桜庭は自分の仕事を終えると、和香のところにやってきた。
桜庭が近づくだけで、和香の緊張感はMAXになる。
「今日分析したのはいくつだ」
「・・・三件です」
「のろまめ・・・。やっぱり二流だな」
「・・・っ、すみません、明日はもっと早くできるよう努力します」
「さぁ、努力してどうにかなる類のもんなのかねぇ」
桜庭は和香のことをバカにしきっている。
その時、スタッフルームの横の廊下を、植松さんが横切った。
「桃代、今日は?」
「・・・ああ、今日は残業ないよ」
「じゃあ俺んちで」
「わかった」
植松さんは、まるで仕事の会話をしているのかと勘違いしてしまうほど、普通にその話をしていた。
もう周知の事実なのか、社員の誰もそれについて関心がないようだ。
和香は、昨日とは違い、退社してすぐ家に向かう道を歩いていた。
途中スーパーに寄って、家に着いたのは八時を少しまわったところだった。
昨日の事がまるで嘘みたいに思える。
夕食を済ますと、昨日返事ができなかった真に電話をした。
まだ、帰ってないかもしれないな・・・。
真の会社は大手製薬会社で、新入社員の真は覚えることがとにかく沢山あると悲鳴をあげていたから。
程なく真が電話に出た。
「もしもし、まあ君?今どこ」
「まだ会社なんだ」
少し声を潜めている様子がうかがえる。
「じゃあ、すぐ切らないとね。とりあえず何とかやってけそうだから、心配してくれてありがとうね」
「そっか、よかった。そうだ、週末会えるかな?」
「うん、大丈夫」
本当は全然大丈夫なんかじゃない。
だけど、真に打ち明けることなんてできるはずがない。
「また、連絡するよ」
「わかった」
「じゃあまた」
「うん、無理しないでね」
「ありがとう」
そう言って電話は切れた。
お互いまだ慣れない生活で、自分のことで精一杯のはずなのに、真はいつも優しい。
そんな真に心配をかけたくない。
とりあえず、今日はこうして無事に家にいるのだ。
和香は、今はとにかく早く仕事を覚えて、一人前になることだけに集中しようと思い、マニュアル片手にパソコンで勉強に勤しむのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる