それでも俺が好きだと言ってみろ

星野しずく

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それでも俺が好きだと言ってみろ.51

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「あの日はさすがにびっくりしたけど、僕も少し頭を冷やしたんだ。何も聞いてないうちから疑っちゃいけないって。だけど、聞きたいことが色々あって、だから箇条書きにしてみた」

 真面目な真らしく、本当にA四の用紙に質問事項を書いていた。

 ローテーブルの上にそれを置くと、真は一つ目から和香に質問を始めた。



「まず、あの人は本当に君の上司?」

「・・・うん、直属の上司」

「そう・・・、で、彼から告白されたの?」

「ううん、されてない」

「・・・されてない」

 真は次の質問の前に深呼吸をした。



「で、彼とは、その・・・、あの日そういうことしたの?」

 真はセックスとはハッキリ言わない。

 いや、多分言いたくないんだろう。



 どうしよう・・・、どこまで本当のことを話せばいいの・・・?

 さじ加減が分からない。

 というか全否定すべきなのだろうか。



「あの・・・、あの週は仕事の山場を無事終えて、それでお祝いにって桜庭さんが飲みに連れて行ってくれて・・・、つい飲みすぎて終電なくなっちゃたから、うちが近かったからそれで泊まってもらっただけで・・・」

 ああ・・・、もう完全に嘘だらけだ。

 やっぱり、とても本当のことなど言えない。



「そうだったんだ・・・」

 真は和香の言葉を信じてくれただろうか。

 こんなにわか仕込みの作り話を。



「で、あの人が言った、その、せ、セックスは・・・、したの?」

 やはり、今の和香の答えでは肝心の部分が明らかになっていないため、真なりに勇気を出して聞いたのだろう。

 両手が膝の上でギュッと握られている。



「ううん、あの人ブラックジョークが好きで、誰にでも結構きつい冗談言うんだ。ホント困っちゃうよね」

 和香は作り笑いで何とかこの場を乗り切りたかった。

「・・・それ、信じていいの?」

 真は真剣な表情で和香の事を見つめた。



「・・・まあ君は、私のこと疑うの?」

「・・・そういう訳じゃないけど、和香ちゃんが・・・、たとえ上司とは言え、男の人を気安く家に泊めるなんて・・・、ちょっとびっくりしたから」

「・・・それはゴメン」



「本当になんでもないんだね?」

「何にもないよ~。だいたい、まだ入社したばっかりなのに、そんなことあり得ないよ~」

 それがあり得るから困ってるんだよね。

 でも、とても言えない。



「そ、そうだよね~。ああ~、よかったぁ。まさかとは思いながらも、やっぱりあの場面はショックで・・・」

 真は和香の言葉を信じたようで、ようやくホッとした表情を見せた。



 だが、これで和香は真に対して完全に嘘をついたことになる。

 真とは反対に、和香はさらに苦しい立場に追い込まれた。

 桜庭との関係を続けながら、真とも付き合っていかなければならないのだから。
 


 こんなことがいつまで続けられるだろう。

 いや、自分は真との関係を続けたいのだろうか・・・。

 もう、自分の気持ちすらわからない。

 だけど、桜庭との関係は本当に身体だけのものだ。

 しかも、もし会社を辞めればそれでおしまいになる。

 そんな脆いものなのだ。
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