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それでも俺が好きだと言ってみろ.73
しおりを挟む寝室に入る前に、スマホの録音機能をONにしておいたから、伊沢との会話は全て録音済みだ。
和香はその足で、桜庭のマンションへと向かった。
インターフォンを押すと、すぐにドアが開けられた。
桜庭は、和香が来るのを今か今かと待っていたのだろう。
もちろん、和香自身をではなく、和香が持っているスマホの中身を、だけど。
「ちゃんと話し出来たか?」
「はい、一応・・・」
和香がスマホを差し出すと、桜庭は奪い取る様にして受け取ると、伊沢との会話を再生した。
桜庭は真剣な表情で、その声に聞き入っていた。
いつも桜庭の頭の中はとても理解不能で、何を言い出すか分からない。
随分長い時間話せたけれど、桜庭が聞きたい話なのかは見当もつかない。
話し始めの伊沢さんの声は、まだ疲れた様子だった。
話している時は気がつかなかったけれど、こうして聞いてみると、話が終わる頃には、声色が随分明るくなっていることに気づいた。
和香はチラッと桜庭の表情を盗み見た。
桜庭は何だかホッとした表情をしていた。
喜怒哀楽が激しい桜庭が、ホッとした表情というのは、なかなかに珍しいものだった。
それでも、それがどういう気持ちから出てきたものなのかは分からないけれど。
「・・・よかった」
桜庭の口からそんな言葉が飛び出した。
「・・・えっ」
「伊沢さんは、また仕事するんだな」
「・・・たぶん」
和香に聞かれても分からないが、答えないと叱られそうで、適当に返事をした。
「あの男は・・・、どうだった」
「・・・その、・・・ごく普通でした。赤ちゃんを抱っこして、・・・私にも親切にしてくださいました」
「ハッ!何が親切だ!!」
桜庭は握りしめた拳がブルブルと震えている。
しかし、それで和香を殴ったりしないことは、これまでの桜庭の行動で何となく感じていた。
真の時もそうだった。
毒舌で、セックスに関しては暴力的なくせに、本当に殴ったり、蹴ったりする暴力は嫌いなようだ。
セックスや暴言も決して良い訳ではないけれど・・・。
「まあいい、今日はもう帰れ・・・」
桜庭は和香が伊沢のところに行っている間、随分気を揉んだのか、疲れた様子でソファに身体を投げ出した。
「はい・・・、お邪魔しました」
和香は何とも言えない不完全燃焼感を抱えたまま家に帰った。
桜庭はいったい何がしたかったのだろう・・・?
そして、これから一体どうしたいのだろう。
全く理解できない。
ただ、今日よかったことと言えば、あまり悪態をつかれることなく無事に帰って来られたということくらいだ。
桜庭さんは伊沢さんとどうなりたいんだろう・・・。
セックス依存症になるくらい、セックスが好きなら、きっと伊沢さんともそういう関係になりたいんじゃないだろうか。
だったら、旦那さんが不倫をしたことは、桜庭にとっては嬉しいことなのではないだろうか。
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