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理不尽な要求.12
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「ところでさ、あいつ、高柳のことなんだけどさ。」
「うん。」
夏希は今度は何を言われるのかと少し身構える。
「米屋の健司の嫁さんがさ、お前んとこのショッピングモールにお気に入りの雑貨屋があって、よく行くらしいんだけどさ、けっこう頻繁に高柳のこと見かけるらしいんだ。それも、お前の店の辺りで。」
「ふーん。」
夏希はこの話題が出ると変なボロが出ない様、細心の注意を払わなければならなくなるため、非常に疲れる。
「で、やっぱりお前のところにはよく来るのか?」
「うーん。他のお店と変わんないんじゃない?まあ、うちはやっと軌道に乗ったばかりだから、彼も気になるんだとは思う。だから、経営方針なんかで相談に乗ってもらうことはあるけど。」
「相談に乗ってもらうのは、経営のことだけか?」
幸助はやけに真剣な表情で尋ねる。
「当たり前でしょ。他に何を話すのよ。」
「お前なー、ほんとそういうとこ鈍いんだから。あいつ、絶対お前のこと狙ってるぞ。」
こういうところが妙に鋭いのが困る。
「ばっかじゃないのー。あんな大企業の社長がなんで私なんかの事相手にするのよ。ああいう人はそれなりにふさわしい人とお見合いかなんかして結婚するに決まってるでしょうが。」
実際には愛人なんていう、とても人には言えない関係(しかもかなり異質な)にすでになっているなんて、想像もしていないであろう幸助を前に、夏希はとても胸が痛い。
(こんなに心配してくれてるのに、私ったら嘘ばっかりついて…。でも、家のためだもん仕方ない…。)
「ふん、どうだか。あいつは、変わり者だからな。まあいい。お前の身が安全ならそれでいい。」
夏希は何と答えていいか分からず、口ごもった。
「ついでに聞くけど、お前今付き合っているやついるの?」
これまた突然の展開だ。
たった今まで高柳君の話をしていたというのに…。
「い、いないよ。私、忙しくてそれどころじゃないし。」
こんな話になるとは想像もしていなかった夏希は、もう早く帰りたくなってくる。
「ふーん。そう言ってもな、俺もお前も25だ。そろそろ身を固めるのも悪くない。」
一体何を言い出すのかと、夏希はキョトンとした顔で幸助を見つめていた。
「それで、なんだ、その…。お前、俺と結婚しないか?」
幸助は顔を真っ赤にして、真剣な表情で夏希の答えを待っている。
突然のプロポーズ!付き合ってもいないのに。
長い付き合いだが、幸助がこれほどまでにぶっ飛んでいるとは想像していなかった。
「な、なに?私たち付き合ってもいないよね。なのにどうしてそういう話になるの?」
しかし、そんなタイミングで豊子が階段を上がってくる音が聞こえた。
「遅くなってごめんね。お茶とお菓子持ってきたから。」
そう言うと豊子はドアを開けて部屋に入ってくる。
「むさくるしい部屋に来てもらって悪いわね。」
「何言ってるんだよ、俺の部屋なんて綺麗な方だぜ。一人暮らしの男の部屋なんて、とんでもなく汚いんだからな。」
幸助は母の前だからだろう、少し子供っぽく拗ねた表情になる。
夏希はそんな二人のやり取りを微笑ましく眺めていた。
「じゃあ、ゆっくりしてってね。」
豊子はそう言うと、お茶と菓子をテーブルの上に置いて部屋を出て行った。
「まったく、母親ってのは、こんな大きくなった男をいつまでも子供扱いするんだから嫌になるよ。」
豊子が来たおかげで、さっきのとんでもない告白が宙に浮いた状態になっている。
こう言っては何だが、幸助の気持ちには薄々気付いていた。
嘘のつけない性格のため、どうしても話の端々でそういう気持ちが漏れ出してしまうのだ。
それでも、夏希は幸助に対してそういう気持ちを抱いたことがないため、幸助が何もアクションを起こさない限り、知らないふりで通そうと決めていたのだ。
しかし、なぜかこのタイミングで、しかも突然結婚してくれという飛躍した話になり、夏希の頭の中は完全にパニックだ。
「でさ、さっきの話の続きなんだけど…。」
さらに話を進めようとする幸助に、夏希は少し落ち着いてもらいたかった。
「ちょっと、今日は商店街のイベントの話をしに来たんだよね。なんか話が変な方向に行っちゃってるけど。そんな話だったら、私もう来ないからね。」
若干キレ気味の夏希に、幸助は慌てる。
「ご、ごめん。俺もどうかしてた。さっきのは、その、冗談とかじゃないんだけど、取りあえず一旦据え置きということで勘弁してくれるか?」
一体どういう状態になったのか、夏希の頭の中はさらにぐちゃぐちゃだが、今日はこれ以上結婚の話はしないでくれるらしい。
「それじゃ、今日はもう帰るね。」
「ま、待って。これ持ってけよ。」
幸助はさっき豊子がお茶と一緒に持ってきた和菓子を夏希の手に握らせた。
「ありがとう。」
夏希は豊子おばさんには悪いのだが、出てくる言葉は棒読みの様な心のこもっていない言い方になってしまった。
「また、連絡するよ。」
「うん。じゃあ。」
「じゃあ、気をつけて。」
夏希は幸助の家を出ると、自分の家に向かった。歩いて約5分という近さだ。あっという間に家に着く。
「うん。」
夏希は今度は何を言われるのかと少し身構える。
「米屋の健司の嫁さんがさ、お前んとこのショッピングモールにお気に入りの雑貨屋があって、よく行くらしいんだけどさ、けっこう頻繁に高柳のこと見かけるらしいんだ。それも、お前の店の辺りで。」
「ふーん。」
夏希はこの話題が出ると変なボロが出ない様、細心の注意を払わなければならなくなるため、非常に疲れる。
「で、やっぱりお前のところにはよく来るのか?」
「うーん。他のお店と変わんないんじゃない?まあ、うちはやっと軌道に乗ったばかりだから、彼も気になるんだとは思う。だから、経営方針なんかで相談に乗ってもらうことはあるけど。」
「相談に乗ってもらうのは、経営のことだけか?」
幸助はやけに真剣な表情で尋ねる。
「当たり前でしょ。他に何を話すのよ。」
「お前なー、ほんとそういうとこ鈍いんだから。あいつ、絶対お前のこと狙ってるぞ。」
こういうところが妙に鋭いのが困る。
「ばっかじゃないのー。あんな大企業の社長がなんで私なんかの事相手にするのよ。ああいう人はそれなりにふさわしい人とお見合いかなんかして結婚するに決まってるでしょうが。」
実際には愛人なんていう、とても人には言えない関係(しかもかなり異質な)にすでになっているなんて、想像もしていないであろう幸助を前に、夏希はとても胸が痛い。
(こんなに心配してくれてるのに、私ったら嘘ばっかりついて…。でも、家のためだもん仕方ない…。)
「ふん、どうだか。あいつは、変わり者だからな。まあいい。お前の身が安全ならそれでいい。」
夏希は何と答えていいか分からず、口ごもった。
「ついでに聞くけど、お前今付き合っているやついるの?」
これまた突然の展開だ。
たった今まで高柳君の話をしていたというのに…。
「い、いないよ。私、忙しくてそれどころじゃないし。」
こんな話になるとは想像もしていなかった夏希は、もう早く帰りたくなってくる。
「ふーん。そう言ってもな、俺もお前も25だ。そろそろ身を固めるのも悪くない。」
一体何を言い出すのかと、夏希はキョトンとした顔で幸助を見つめていた。
「それで、なんだ、その…。お前、俺と結婚しないか?」
幸助は顔を真っ赤にして、真剣な表情で夏希の答えを待っている。
突然のプロポーズ!付き合ってもいないのに。
長い付き合いだが、幸助がこれほどまでにぶっ飛んでいるとは想像していなかった。
「な、なに?私たち付き合ってもいないよね。なのにどうしてそういう話になるの?」
しかし、そんなタイミングで豊子が階段を上がってくる音が聞こえた。
「遅くなってごめんね。お茶とお菓子持ってきたから。」
そう言うと豊子はドアを開けて部屋に入ってくる。
「むさくるしい部屋に来てもらって悪いわね。」
「何言ってるんだよ、俺の部屋なんて綺麗な方だぜ。一人暮らしの男の部屋なんて、とんでもなく汚いんだからな。」
幸助は母の前だからだろう、少し子供っぽく拗ねた表情になる。
夏希はそんな二人のやり取りを微笑ましく眺めていた。
「じゃあ、ゆっくりしてってね。」
豊子はそう言うと、お茶と菓子をテーブルの上に置いて部屋を出て行った。
「まったく、母親ってのは、こんな大きくなった男をいつまでも子供扱いするんだから嫌になるよ。」
豊子が来たおかげで、さっきのとんでもない告白が宙に浮いた状態になっている。
こう言っては何だが、幸助の気持ちには薄々気付いていた。
嘘のつけない性格のため、どうしても話の端々でそういう気持ちが漏れ出してしまうのだ。
それでも、夏希は幸助に対してそういう気持ちを抱いたことがないため、幸助が何もアクションを起こさない限り、知らないふりで通そうと決めていたのだ。
しかし、なぜかこのタイミングで、しかも突然結婚してくれという飛躍した話になり、夏希の頭の中は完全にパニックだ。
「でさ、さっきの話の続きなんだけど…。」
さらに話を進めようとする幸助に、夏希は少し落ち着いてもらいたかった。
「ちょっと、今日は商店街のイベントの話をしに来たんだよね。なんか話が変な方向に行っちゃってるけど。そんな話だったら、私もう来ないからね。」
若干キレ気味の夏希に、幸助は慌てる。
「ご、ごめん。俺もどうかしてた。さっきのは、その、冗談とかじゃないんだけど、取りあえず一旦据え置きということで勘弁してくれるか?」
一体どういう状態になったのか、夏希の頭の中はさらにぐちゃぐちゃだが、今日はこれ以上結婚の話はしないでくれるらしい。
「それじゃ、今日はもう帰るね。」
「ま、待って。これ持ってけよ。」
幸助はさっき豊子がお茶と一緒に持ってきた和菓子を夏希の手に握らせた。
「ありがとう。」
夏希は豊子おばさんには悪いのだが、出てくる言葉は棒読みの様な心のこもっていない言い方になってしまった。
「また、連絡するよ。」
「うん。じゃあ。」
「じゃあ、気をつけて。」
夏希は幸助の家を出ると、自分の家に向かった。歩いて約5分という近さだ。あっという間に家に着く。
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