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タマコさん。
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その週の晴れた土曜日、僕は神社へ。麓から30分の登りもだいぶ慣れて楽になってきた、城跡からの眺めはいつも通り最高だ。
今日は山城さんに大学生活スタートの報告と、優希さんに見せてもらった動画について聞いてみようと思っている。別にやましい事をしている訳ではないけど、まさか友人が教えてくれた動画の撮影者が友人だなんて、これは話さずにはいられない。
社務所に着くと山城さんがいない、代わりに50代くらいのオバさんが社務所にいた。今日は休みなのかな?オバさんに聞いてみる。
「あの、今日は山城さんはお休みですか?」
「山城さん?ああ珠子の事かしら?私の娘」
あ!言われてみれば何となくオバさんと山城さん、顔の輪郭とか目が似ている気がする。そういえば山城さん、自分の名前を秘密にしてたっけ。珠子さんか…可愛くていい名前だけどなぁ。
「では山城珠子さんのお母さんですか、初めまして、珠子さんの知り合いの川上悠人と申します」
「あらあら!こんな所までわざわざ珠子に会いにきてくれたの?ありがとう。珠子は今ちょっと買い物に行ってるから、そのうち帰ってくると思うわ」
僕は社のベンチで待たせてもらう事にした。お!動画で見た猫がさっそく出てきた、お前たちはもう有名人、いや有名猫だね。2匹ともベンチにピョンと上がってきて僕に甘えてくる、もう僕の事をしっかり覚えてくれた様だ。動画で見るより断然可愛い。
猫達を可愛がっていると、あっという間に時間が過ぎていた。もう1時間経つな、今日は諦めて明日改めて来ようかな。すると両手に買い物袋を持った珠子さんがやってきた、買い物帰りなので私服だ。優希さんとは違い、とてもラフで動きやすそうな格好だ。
「やぁユウちゃん!待たせてしまったみたいだね、ちょっと荷物置いてくるから待っててね」
と珠子さんはそそくさと社務所に向かった。しかしユウちゃんだなんて初めて言われたな。よし!じゃあ僕も仕返しじゃないけど、いきなり名前で呼んでみよう、どんな反応をするか楽しみだ。やがて珠子さんがやってきてベンチに座る。
「ちょっと買いたい物がなかなか見つからなくて遅くなっちゃった、ごめんね」
「いやいや、こちらが勝手に来たんですから何も謝る事はないですよ」
「でも結構待ったでしょ?あっこれ買ってきたあづきバー、食べて」
とアイスを手渡される、なかなか名前で呼ぶタイミングが無い。
「ところで大学はどう?順調?」
「はい!おかげさまで少しずつ慣れてきました」
「そっか、まぁユウちゃん真面目だから心配ないかぁ」
「そんな事ないですよ」
考えてみたらいきなり名前で呼ぶのってスゴイ恥ずかしいな、僕は方向転換して素直に名前をお母さんから聞いてしまった事を珠子さんに話した。
「あらら、バレてしまったかぁ。珠子って古風すぎるし、なんか恥ずかしくてさ」
「確かに古風ですけど、親しみがあって可愛い名前だと思いますよ」
「そうなんだけどさ、小学生の時この名前をネタにされててさ、タマゴだ、玉こんにゃくだ、たまごっちだ無数にあだ名があって、酷い男子なんかタマタマだタマキンだって酷くない?」
「子供はけっこう残酷ですからね」
「まぁ馬鹿にした男子のタマタマに蹴りを入れてやったのは言うまでもないけどねっ!」
うへぇ~、まぁ珠子さんならやりかねない。
「どうしましょう?これまで通り山城さんと呼ぶか珠子さんと呼ぶか?」
「バレちゃったものは仕方ないし、可愛いって言ってくれるんだから珠子でいいよ。でも馬鹿にしたら覚悟してね!」
「いい大人がする訳ないじゃないですか」
「何言ってんの、18歳なんてまだまだ子供だよ」
「あはは!じゃあこれからは珠子さんって呼びますね」
「うむ!苦しゅうない」
やっぱり珠子さんと話してると愉快で和む、大学やバイト先や新生活の苦労も、話しているといつの間にか吹っ飛んでしまう。珠子さんにはそんな不思議な魅力がある。
よし!このままアレについても聞いてしまうか、でもなんて切り出せばいいんだろ?まぁ友人からたまたま紹介された動画が珠子さんの動画だったと素直に言えばいいか。
「あの、珠子さん」
「ん、なに?」
珠子さんは2本目のアイスを食べながら答える。
「実は昨日大学の友人からある動画を紹介されまして、それがビックリしたんですが珠子さんの撮った動画でして…」
「あらら、今日は色々バレる日だなぁ~」
特に動揺する事も無くいつも通りの珠子さん。
「実は神社のサイトを私が作ってて、それが派生してSNSを始めて、最近YouTubeも始めたんだよね」
「な…なるほど」
「SNSの食い付きが良かったからさ、これはYouTubeもやったら面白いんじゃないかなと思って」
僕は早速教えてもらった神社のSNSを見てみる。フォロワー数…10000人!?始めたばかりのYouTubeもチャンネル登録者数が3000人を超えていた。よく分かってない僕でもスゴイとわかる。やはり神社の巫女さんがSNSやYouTubeをやる事が珍しいのか、勢いがある。
「この町って寺社仏閣とか古い街並み、自然も豊かで歴史もあるのに、どこか地味と言うかコレ!と言った名所が無い、東京からもアクセス悪くないのにさ。だからちょっとでも町に興味持って、観光に来てもらえたらと始めてみたんだ」
「そしたら大当たりと、スゴイですね!」
「いやいや、まだまだだよ。それに母さんは大賛成なんだけど、父さんは頭堅いから良く思ってなくて」
「そうなんですか、でもこの猫達の動画なんかもう2万回再生ですよ!」
「動物は強いよね~、でも肝心の町を盛り上げる動画はまだまだこれから作らないとだから」
「そうなんですね、でもコレなら盛り上がっていくと思いますよ!僕は応援します!」
「ありがとう、だといいんだけどね。ところでその友人って、もう大学の友達できたの?」
「あ…いや…その…」
「あ!なるほど、ツンデレ先輩ちゃんかぁ」
「ははは…正解ですってデレてないです!」
しかしあの珠子さんが町おこしかぁ、意外と言えば意外だな。僕はそんなアグレッシブな事とは無縁だから、とても輝いて見える。
猫達がいつもの様に珠子さんと僕の膝の上で昼寝を始める、楽しい会話はいつまでも尽きない。
今日は山城さんに大学生活スタートの報告と、優希さんに見せてもらった動画について聞いてみようと思っている。別にやましい事をしている訳ではないけど、まさか友人が教えてくれた動画の撮影者が友人だなんて、これは話さずにはいられない。
社務所に着くと山城さんがいない、代わりに50代くらいのオバさんが社務所にいた。今日は休みなのかな?オバさんに聞いてみる。
「あの、今日は山城さんはお休みですか?」
「山城さん?ああ珠子の事かしら?私の娘」
あ!言われてみれば何となくオバさんと山城さん、顔の輪郭とか目が似ている気がする。そういえば山城さん、自分の名前を秘密にしてたっけ。珠子さんか…可愛くていい名前だけどなぁ。
「では山城珠子さんのお母さんですか、初めまして、珠子さんの知り合いの川上悠人と申します」
「あらあら!こんな所までわざわざ珠子に会いにきてくれたの?ありがとう。珠子は今ちょっと買い物に行ってるから、そのうち帰ってくると思うわ」
僕は社のベンチで待たせてもらう事にした。お!動画で見た猫がさっそく出てきた、お前たちはもう有名人、いや有名猫だね。2匹ともベンチにピョンと上がってきて僕に甘えてくる、もう僕の事をしっかり覚えてくれた様だ。動画で見るより断然可愛い。
猫達を可愛がっていると、あっという間に時間が過ぎていた。もう1時間経つな、今日は諦めて明日改めて来ようかな。すると両手に買い物袋を持った珠子さんがやってきた、買い物帰りなので私服だ。優希さんとは違い、とてもラフで動きやすそうな格好だ。
「やぁユウちゃん!待たせてしまったみたいだね、ちょっと荷物置いてくるから待っててね」
と珠子さんはそそくさと社務所に向かった。しかしユウちゃんだなんて初めて言われたな。よし!じゃあ僕も仕返しじゃないけど、いきなり名前で呼んでみよう、どんな反応をするか楽しみだ。やがて珠子さんがやってきてベンチに座る。
「ちょっと買いたい物がなかなか見つからなくて遅くなっちゃった、ごめんね」
「いやいや、こちらが勝手に来たんですから何も謝る事はないですよ」
「でも結構待ったでしょ?あっこれ買ってきたあづきバー、食べて」
とアイスを手渡される、なかなか名前で呼ぶタイミングが無い。
「ところで大学はどう?順調?」
「はい!おかげさまで少しずつ慣れてきました」
「そっか、まぁユウちゃん真面目だから心配ないかぁ」
「そんな事ないですよ」
考えてみたらいきなり名前で呼ぶのってスゴイ恥ずかしいな、僕は方向転換して素直に名前をお母さんから聞いてしまった事を珠子さんに話した。
「あらら、バレてしまったかぁ。珠子って古風すぎるし、なんか恥ずかしくてさ」
「確かに古風ですけど、親しみがあって可愛い名前だと思いますよ」
「そうなんだけどさ、小学生の時この名前をネタにされててさ、タマゴだ、玉こんにゃくだ、たまごっちだ無数にあだ名があって、酷い男子なんかタマタマだタマキンだって酷くない?」
「子供はけっこう残酷ですからね」
「まぁ馬鹿にした男子のタマタマに蹴りを入れてやったのは言うまでもないけどねっ!」
うへぇ~、まぁ珠子さんならやりかねない。
「どうしましょう?これまで通り山城さんと呼ぶか珠子さんと呼ぶか?」
「バレちゃったものは仕方ないし、可愛いって言ってくれるんだから珠子でいいよ。でも馬鹿にしたら覚悟してね!」
「いい大人がする訳ないじゃないですか」
「何言ってんの、18歳なんてまだまだ子供だよ」
「あはは!じゃあこれからは珠子さんって呼びますね」
「うむ!苦しゅうない」
やっぱり珠子さんと話してると愉快で和む、大学やバイト先や新生活の苦労も、話しているといつの間にか吹っ飛んでしまう。珠子さんにはそんな不思議な魅力がある。
よし!このままアレについても聞いてしまうか、でもなんて切り出せばいいんだろ?まぁ友人からたまたま紹介された動画が珠子さんの動画だったと素直に言えばいいか。
「あの、珠子さん」
「ん、なに?」
珠子さんは2本目のアイスを食べながら答える。
「実は昨日大学の友人からある動画を紹介されまして、それがビックリしたんですが珠子さんの撮った動画でして…」
「あらら、今日は色々バレる日だなぁ~」
特に動揺する事も無くいつも通りの珠子さん。
「実は神社のサイトを私が作ってて、それが派生してSNSを始めて、最近YouTubeも始めたんだよね」
「な…なるほど」
「SNSの食い付きが良かったからさ、これはYouTubeもやったら面白いんじゃないかなと思って」
僕は早速教えてもらった神社のSNSを見てみる。フォロワー数…10000人!?始めたばかりのYouTubeもチャンネル登録者数が3000人を超えていた。よく分かってない僕でもスゴイとわかる。やはり神社の巫女さんがSNSやYouTubeをやる事が珍しいのか、勢いがある。
「この町って寺社仏閣とか古い街並み、自然も豊かで歴史もあるのに、どこか地味と言うかコレ!と言った名所が無い、東京からもアクセス悪くないのにさ。だからちょっとでも町に興味持って、観光に来てもらえたらと始めてみたんだ」
「そしたら大当たりと、スゴイですね!」
「いやいや、まだまだだよ。それに母さんは大賛成なんだけど、父さんは頭堅いから良く思ってなくて」
「そうなんですか、でもこの猫達の動画なんかもう2万回再生ですよ!」
「動物は強いよね~、でも肝心の町を盛り上げる動画はまだまだこれから作らないとだから」
「そうなんですね、でもコレなら盛り上がっていくと思いますよ!僕は応援します!」
「ありがとう、だといいんだけどね。ところでその友人って、もう大学の友達できたの?」
「あ…いや…その…」
「あ!なるほど、ツンデレ先輩ちゃんかぁ」
「ははは…正解ですってデレてないです!」
しかしあの珠子さんが町おこしかぁ、意外と言えば意外だな。僕はそんなアグレッシブな事とは無縁だから、とても輝いて見える。
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