眺めのよい城。

おんきゅう

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名前で呼ばないで。

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大学生活初日がやってきた。

ここまで色々ありすぎて、この町に引っ越して来てから1か月も経ってないのに、かなりの月日が流れた様な気がした。それだけ内容の濃い日々を送っているのかな。

桜花大学の名に相応しく、校門前には桜がこれでもかっとばかり植えられている。ちょうど満開で風が吹けば桜の花びらが舞い上がり、とてもキレイだ。

今日は学校案内やらオリエンテーション、初日ならではのスケジューリング、高校とは全く違う雰囲気に緊張気味だ。友達とか出来るかな?そんな初日から都合よくいかないか。なんにせよ、ただ都合の良い人にだけにはもうなりたくない。

しかし大学ってもっと広々とした所を想像してたけど、桜花大学はさほど広くない。なんなら高校と同じくらいの敷地しかないんじゃないかな、でもこれくらいのスケールの方が、迷わないで済むしいいかも。

僕はオリエンテーションが行われる教室に入る、まだ時間が早かったか他の生徒はほとんどいない。やがてゾロゾロと生徒達が集まりだし、先生…いや大学だし教授かな?がやってきてオリエンテーションが始まる。

学校や授業の説明や敷地内の案内、と初日っぽい事を一通りやって2時間くらいで終了、記念すべき大学初日はあっけなく終わった。

ちょうど昼時だし、せっかくだから学食で昼食を食べようと向かう。するとキャンパスの桜の木の下にあるベンチに、見覚えのあるボブカットの女の人が座って本を読んでいる。優希さんだ…いつも通り不機嫌そうで見つかったら気不味いな、僕は気づかれない様にそっと通り過ぎる。無事に通り過ぎてホッとしたのも束の間、背後からポンと肩を叩かれる。

「何?先輩に会っても無視するのが東京の常識なの?」

あちゃ…気づかれてしまった。

「バレないとでも思った?」

「あ…いや、ゆ…優希さんじゃないですか!全然気がつきませんでした。すいません」

「はぁ…嘘が下手、わざわざ私を避ける様に歩いてたクセに」

勘の鋭い優希さんに嘘は通用しない、ここは潔く謝った方が得策だ。

「すいません、本当は優希さんが読書に集中していたから、邪魔しちゃ悪いかなと思って…」

結局ウソをつく僕、本当にダメな奴だ。

「ふーん、本当に?まぁ大学初日から嫌な思いさせるのも悪いし、尋問はここまでにしとくけど」

うわっ…犯罪者扱い、やっぱり優希さん怖い。

「学食にでも行くの?」

「は…はい、オリエンテーションも終わったので、学食で昼ゴハン食べてから帰ろうかなと思いまして」

「ふーん、じゃ特別に案内してあげる。私もこれからお昼にしようと思ってた所だから」

場所もうる覚えだし、案内は非常にありがたいのだが、優希さんと一緒にゴハンか…また静かな食事になるな。でも断ると更に不機嫌になって、バイト先でえらい目に遭いそうだし、ここは従うまでか。

「ありがとうございます…ではお言葉に甘えてよろしくお願いします…」

「何?迷惑なら別に1人で食べるからいいけど?」

「あ!いやいやそんな事は、助かります!」

「こっち」

もはや堪忍して僕は優希さんの後ろについていく、学食はすぐ近くにあった。食券を買ってトレーにゴハンを乗せてもらう、よくTVドラマなんかのワンシーンに出てくる光景に、ちょっとテンションが上がった。

僕はアジフライ定食を注文して、優希さんは唐揚げ定食…の大盛り。大盛りと言っても学食の大盛りなので、漫画みたいなこんもりとした特盛白米だ。あの華奢な身体の何処に入るのか、僕は思わず二度見してしまった。

「何?食べ過ぎとか言いたいの?」

「えーと…正直言ってビックリしてます」

「が…学食は値段安いし、私は間食とかしないからこれくらい食べても太んないの、あと家ではそんなに食べないし…それに今日は寝坊して朝食ぬいてきたし…だから…」

普段は口数が少ないのに必死で言い訳をまくし立てる優希さん、華奢な身体なのにいっぱい食べる優希さん、これはいわゆるギャップ萌えと言うやつか?見ていてとても微笑ましい。

「あの…優希さん」

「な…なに」

「冷めないうちに食べませんか?」

「あ…うん、いただきます」

「いただきます」

そこからはいつもの様に静かな食事、と言っても学食なので周りがガヤガヤしている。店のバックヤードで食べる時より騒々しいので、ちょっとだけ助かる。優希さんは早々と食べ終わるとカバンからお菓子を取り出した。まだ食べるのか…。

「これは間食じゃなくてデザートだからね」

「ははは、そうですね」

「……いる?」

「いやもうお腹いっぱいです」

「大学初日どうだった?」

「色々詰め込まれて大変でしたけど、何とかやっていけそうです」

「そう、まぁ分かんない事があれば教えてあげるから…あとそれから」

「何ですか?」

「大学では優希さんじゃなくて太田さんって呼んで、勘違いされるかもしれないし」

え?せっかく呼び慣れてきたのに、しかし勘違いってなんだ?名前で呼ぶって事は彼氏彼女の関係だと思われるって事かな?残念ながら僕は年齢=彼女いない歴なので、恋愛について疎い。

「つまり優…太田さんと僕が、恋愛関係にあると周りに思われるのが嫌だって事ですよね?」

「ま…まぁ…そう言う事、恥ずかしいから口に出さないでよ」

「すいません」

「………別に謝らなくてもいいよ、あんたは何でも謝り過ぎ、裁判になったら即敗訴だよ」

「あはは、犯罪を犯さない様に気をつけます」

「バカ!例え話に決まってるでしょ」

「すいま…あっはい!」

その後、優希さんはスマホを見ながら無言でお菓子を食べる。僕はお茶を飲みながら学食の窓の外を眺める、桜がこんなにキレイに見えるのにスマホとにらめっこなんて勿体無いなぁなんて、余計なお世話か。

「ねぇ、動物好き?」

「はい、好きですよ」

「この動画知ってる?猫の動画なんだけど」

と優希さんは自分のスマホでYouTubeの動画を見せてくれた。黒猫とミケ猫がベンチで戯れあっている動画…ん?何か見覚えが?あ!

「なんかこの近くの神社の人が撮影してるみたいで、可愛いからよく見てるんだよね」

間違いない、ニャー太とニャー助だ。顔は写ってないけど撮影者の声が入っている、この声は確実に山城さんの声だ。巫女さんがYouTuber?何かスゴイ時代になったもんだ。

「そ…そうですね…かわいい…なぁー」

「は?何動揺してるの?猫嫌い?」

「いや…猫好きですよ…」

「変なの」

今日も今日とて色々あり過ぎる一日で、今はとにかく早く家に帰って寝たい。

外の桜の花びらが、また大きく舞い上がった。









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