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夏
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ジメジメと蒸し暑い朝の教室に陰キャが一人。
あと一週間もすれば夏休みだと言うのに、今年の梅雨は中々明けそうにない。私は相変わらず朝も早よから恋愛小説を読み耽っている。今読んでいる小説はもう5回は読んでいて、とてもお気に入りの一冊、とにかくニヤニヤが止まらない。
今の私の顔をもし山田に見られたら、きっと笑われるかドン引きされるかのどちらかだろう。いやきっと爆笑して写真を撮られる確率が一番高いだろうな。
山田の事を考えた瞬間、私は本を読むのをやめて窓の外を眺めた。こんな酷い雨ならいっその事、休校にでもしてしまえば良いのに、でもせっかく雨の中を頑張って登校した私の努力が水の泡になってしまうのはイヤだな。
すると突然勢いよくバンっと教室のドアが開いた、私は慌てて本をカバンから文学小説に取り変える。でもあれ?このドアの開け方って…
「おはよっす!花井!やっぱお前が一番乗りか」
やっぱり山田だ、おかしいぞ?山田はいつも授業開始の10分前くらいに登校するはずなのに、今日は早過ぎる。ズンズンと私の前の席に向かってきてドカッと座る、私が覚悟を決める前に山田はふりむいて
「なぁ花井!ちょっとこれ見てよ」
と山田は真剣な顔で自分のスマホを取り出して動画を再生する、内容は同じ野球部の部員と山田が何やら奇妙な踊りを踊っている1分くらいの動画、ただそれだけで何のオチもない動画だ。
「どう?」
どう?と言われても困る、この動画をどう表現して良いものか、私の思考は停止寸前だ。
「あ…お…おもしろい…かな…」
精一杯の私の社交辞令、これ以上は何も出てこない。すると山田がニヤッと笑い。
「良かったぁ!いやぁさ、花井こう言うの厳しそうじゃん?だからまず花井に見せて、いい感触ならみんなにも見せようと思ってたんだよねぇ」
別に私はお笑いやダンスに厳しい訳でもないし、むしろ興味が無い。多分普段無表情で笑わないから、山田には厳しいと思われているのだろう。
「あの…これ見せる為に…わざわざ雨の中を早く来たの?」
「もっちろん!だって花井の評価を聞く前に他の奴らに見られたくなかったし、でもこれでみんなに見せられるよ、花井!あんがとな」
感謝されるのは嬉しいのだが、わざわざ私に見せる為に早く学校に来てくれた。これは本当の事を言ってあげないと悪いのでは?と思ったが、山田はもう上機嫌に鼻歌を歌っている。とてもやっぱり微妙だったかな、なんて言える雰囲気ではない。
あれ?そういえば今教室には山田と私の二人っきり、こう言うシュチュエーションはよく恋愛小説に出てくる。私は柄にもなくドキドキしてきてしまった、そもそも男子と二人っきりになる事自体初めての経験だったので、私はどうしたもんか困ってしまった。
「なぁ花井」
突然山田が話しかけてきたので、一瞬ビクっとなって思わず飛び上がりそうになった。でもここでビクビクしていたら意識している様で恥ずかしい、むりやり平静を装って返事をした。
「なに?」
「あともう一個だけお願いがあるんだけどさ、いいかな?」
私にお願いって、全く予想がつかない。勉強教えてとか、忘れ物貸してとかならもっとフランクに言うはず。これは何かスゴイ事を言われるのか?
「い…いいけど…難しい事は無理だよ」
「あのさ、もうすぐ夏休みじゃん?だから当分会ったりできないじゃんか?宿題とか?教えてほしいし、だからさ…ラインとか交換しない?」
ラ…ライン?そんなものこの陰キャの私がやっていると思っているのか?そりゃ一応スマホは持っているけど、ほとんど電卓とか目覚まし代わりで連絡するのは親くらい。
「あの…ごめん…ラインはやってない…」
「そっか、じゃあ普通にメアドとか電話番号でもいいよ、あ…でも嫌ならいいよ、無理に教えなくてもさ、無理強いすんのもよくないじゃん?」
何かいつものグイグイ来る威勢が無いし、ちょっとトーンが低い、こんな山田を見るのは初めてだ。心なしかちょっと顔が赤い気がする。これって…まさか…え?…いや…えぇ?…。
「えっと…電話は苦手だから…あの…メアドなら…いいかな…」
「マジ?いいの?やった!あ…いや…助かるよ、俺頭悪いし宿題とか?一人じゃ絶対できないから…」
なんだよ、二人してしどろもどろじゃないか、いつものカラッとした山田はどこにいったんだよ?メアドを交換してから変な沈黙が続き、雨の音だけが教室に響く。ガラッ、他のクラスメイトが登校してきた。山田は勢いよく立ち上がり、クラスメイトに動画を見せに行った。案の定反応は微妙だが、山田はケラケラ笑って上機嫌だった。
放課後、雨が止んで久しぶりに晴れ間も出てきた。やっと梅雨も明けて夏がやってくるのか、でも暑いのは苦手だしな、何て考えながら家路についていると、私のスマホからポンっと着信音がした。
「おっす!とりあえず初メール送ってみた。これからもよろしくな!」
山田からだ、えっと…こう言うのはどう返せば良いんだ?親ならそのままスルーでもいいけど、今回はそうもいかない。丁寧に?フランクに?完結に?ドライに?結局私はドライを選択してしまった。
「こちらこそよろしく」
うわー何この心のこもってない返信は、めちゃくちゃ失礼じゃないの?なんてアタフタしていたらすぐに山田から返信が来た。
「花井らしい返信だなwww 気をつけて帰れよ!」
私らしい…か。
遠くから微かに蝉の鳴き声が聞こえてきた、夏はもう目の前だ。
あと一週間もすれば夏休みだと言うのに、今年の梅雨は中々明けそうにない。私は相変わらず朝も早よから恋愛小説を読み耽っている。今読んでいる小説はもう5回は読んでいて、とてもお気に入りの一冊、とにかくニヤニヤが止まらない。
今の私の顔をもし山田に見られたら、きっと笑われるかドン引きされるかのどちらかだろう。いやきっと爆笑して写真を撮られる確率が一番高いだろうな。
山田の事を考えた瞬間、私は本を読むのをやめて窓の外を眺めた。こんな酷い雨ならいっその事、休校にでもしてしまえば良いのに、でもせっかく雨の中を頑張って登校した私の努力が水の泡になってしまうのはイヤだな。
すると突然勢いよくバンっと教室のドアが開いた、私は慌てて本をカバンから文学小説に取り変える。でもあれ?このドアの開け方って…
「おはよっす!花井!やっぱお前が一番乗りか」
やっぱり山田だ、おかしいぞ?山田はいつも授業開始の10分前くらいに登校するはずなのに、今日は早過ぎる。ズンズンと私の前の席に向かってきてドカッと座る、私が覚悟を決める前に山田はふりむいて
「なぁ花井!ちょっとこれ見てよ」
と山田は真剣な顔で自分のスマホを取り出して動画を再生する、内容は同じ野球部の部員と山田が何やら奇妙な踊りを踊っている1分くらいの動画、ただそれだけで何のオチもない動画だ。
「どう?」
どう?と言われても困る、この動画をどう表現して良いものか、私の思考は停止寸前だ。
「あ…お…おもしろい…かな…」
精一杯の私の社交辞令、これ以上は何も出てこない。すると山田がニヤッと笑い。
「良かったぁ!いやぁさ、花井こう言うの厳しそうじゃん?だからまず花井に見せて、いい感触ならみんなにも見せようと思ってたんだよねぇ」
別に私はお笑いやダンスに厳しい訳でもないし、むしろ興味が無い。多分普段無表情で笑わないから、山田には厳しいと思われているのだろう。
「あの…これ見せる為に…わざわざ雨の中を早く来たの?」
「もっちろん!だって花井の評価を聞く前に他の奴らに見られたくなかったし、でもこれでみんなに見せられるよ、花井!あんがとな」
感謝されるのは嬉しいのだが、わざわざ私に見せる為に早く学校に来てくれた。これは本当の事を言ってあげないと悪いのでは?と思ったが、山田はもう上機嫌に鼻歌を歌っている。とてもやっぱり微妙だったかな、なんて言える雰囲気ではない。
あれ?そういえば今教室には山田と私の二人っきり、こう言うシュチュエーションはよく恋愛小説に出てくる。私は柄にもなくドキドキしてきてしまった、そもそも男子と二人っきりになる事自体初めての経験だったので、私はどうしたもんか困ってしまった。
「なぁ花井」
突然山田が話しかけてきたので、一瞬ビクっとなって思わず飛び上がりそうになった。でもここでビクビクしていたら意識している様で恥ずかしい、むりやり平静を装って返事をした。
「なに?」
「あともう一個だけお願いがあるんだけどさ、いいかな?」
私にお願いって、全く予想がつかない。勉強教えてとか、忘れ物貸してとかならもっとフランクに言うはず。これは何かスゴイ事を言われるのか?
「い…いいけど…難しい事は無理だよ」
「あのさ、もうすぐ夏休みじゃん?だから当分会ったりできないじゃんか?宿題とか?教えてほしいし、だからさ…ラインとか交換しない?」
ラ…ライン?そんなものこの陰キャの私がやっていると思っているのか?そりゃ一応スマホは持っているけど、ほとんど電卓とか目覚まし代わりで連絡するのは親くらい。
「あの…ごめん…ラインはやってない…」
「そっか、じゃあ普通にメアドとか電話番号でもいいよ、あ…でも嫌ならいいよ、無理に教えなくてもさ、無理強いすんのもよくないじゃん?」
何かいつものグイグイ来る威勢が無いし、ちょっとトーンが低い、こんな山田を見るのは初めてだ。心なしかちょっと顔が赤い気がする。これって…まさか…え?…いや…えぇ?…。
「えっと…電話は苦手だから…あの…メアドなら…いいかな…」
「マジ?いいの?やった!あ…いや…助かるよ、俺頭悪いし宿題とか?一人じゃ絶対できないから…」
なんだよ、二人してしどろもどろじゃないか、いつものカラッとした山田はどこにいったんだよ?メアドを交換してから変な沈黙が続き、雨の音だけが教室に響く。ガラッ、他のクラスメイトが登校してきた。山田は勢いよく立ち上がり、クラスメイトに動画を見せに行った。案の定反応は微妙だが、山田はケラケラ笑って上機嫌だった。
放課後、雨が止んで久しぶりに晴れ間も出てきた。やっと梅雨も明けて夏がやってくるのか、でも暑いのは苦手だしな、何て考えながら家路についていると、私のスマホからポンっと着信音がした。
「おっす!とりあえず初メール送ってみた。これからもよろしくな!」
山田からだ、えっと…こう言うのはどう返せば良いんだ?親ならそのままスルーでもいいけど、今回はそうもいかない。丁寧に?フランクに?完結に?ドライに?結局私はドライを選択してしまった。
「こちらこそよろしく」
うわー何この心のこもってない返信は、めちゃくちゃ失礼じゃないの?なんてアタフタしていたらすぐに山田から返信が来た。
「花井らしい返信だなwww 気をつけて帰れよ!」
私らしい…か。
遠くから微かに蝉の鳴き声が聞こえてきた、夏はもう目の前だ。
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