ふくかみ~福の神になりまして~

いのら

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新米福の神、ネトゲはじめました。

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 気を取り直して凛空が起き上がり、あぐらをかくのを見届けて、片耳をヒコッと震わせた稲炎が口を開く。
「して、凛空さま。これから何をしたいか、思いつかれました?」
「……ん~、そーだな……」
 凛空は腕組みをして天井を見上げて、少しの間考える。
 何の役に立たなくても、利益が出なくてもいいのなら、ひとつやってみたいことがある。
「よし、稲炎。買い物をしよう!」
「……は、はいっ!?」
 急にはりきって立ち上がる凛空を見上げて、一瞬キョトンと稲炎がまばたきする。
 凛空はうきうきとスマホを操作しはじめた。
 てっきり買い物に出かけるのかと思っていた稲炎は、不思議に思い凛空のとなりへ寄って画面を覗いてみる。
「……ネットショッピング、でございますか」
「おっ、さっすが神仕え。その辺の知識もバッチリだねぇ~。出かけなくても買い物ができる、ほんと便利だよなー……っ、しまった!」
 目当ての物を見つけた凛空が購入手続きをしはじめて、はっと顔を強ばらせた。
 勢いよく稲炎を振り向いて、焦った様子で話しかける。
「オ、オレの銀行口座がなくなったってんなら、クレジットカードはどーなったの? これからネットで買い物できないのか?」
「大丈夫でございますよ、凛空さま。落ち着いてください。お金は自動的に必要な場所に流れていきますので、凛空さまは欲しい物を手に入れるだけでよいのです」
 稲炎はよいしょっと小声で言いながら立ち上がると、凛空の手元にあるスマホ画面がよく見える位置まで近づいて、指さす。
「論より証拠でございます。今、凛空さまはお届け先住所などを記入していただいておりますね。その先の決済方法を選択するところまで進めてください」
「お、おぅ……?」
 疑問を抱えたまま入力欄を埋めていくと、間もなく決済方法の選択までたどり着く。
「そこでクレジットカードを選んでみてください」
 稲炎に言われるがままクレジットカード支払いを選んだとたん、カード会社名や名義人の欄が勝手に記入された。
「なんだこれ……ゴールドゴッドカード? うっさん臭い名前だなぁ。オレこんなカード持ってないぞ?」
「福の神専用クレジットカードでございます。そもそも福の神にクレジットカードなど不要なのですが、便宜上必要なこともあるだろうから、と大神さまがご用意くださったのです。必要な全情報が瞬時に記入され、決済と同時に引き落としされます。口座残高は所有する福の神の神力と同等ですので、お金を生み出す時と同様、ご自分の力具合に見合った額だけご利用可能となります」
 流れるような稲炎の説明に、頷くことも忘れて聞くしかない凛空だ。
「家賃や通信費など、毎月自動的に引き落としされる固定費はすべて同じ理屈で先方へ支払いがされております。相当な無茶をしない限り、何もしなくとも固定費を賄えるだけの神力を備えているのが福の神でございます。ですから凛空さまは働く必要もなく、好きなことをやっていただけるのです」
「……へ、へぇー……」
「おわかりになられました? その顔を見るととてつもなく不安になるのですけれども」
「あ、うん。ごめんよ、わかったような気がする、かな……? あははは、慣れてきたらわかってくるよ、たぶん」
 疑わしそうに半眼で見てくる稲炎へ苦笑しながら、凛空はスマホを見下ろした。
「つ、つまり、このまま手続きを進めてしまえば買い物完了ってことだな」
「……はい、左様でございます」
「よーし、それじゃ、購入決定だ!」
 最後まで必要情報が入力されていることを確認して、注文確定ボタンを押す。
 ご購入ありがとうございます、のメッセージを受け取ったとたん、部屋のインターホンが鳴って凛空は飛び跳ねた。
「うわっ! び、びっくりした……すっげぇー、いいタイミングで鳴ったから驚いたぜ」
 それにしても誰だろう、と覗き穴から外を確かめた凛空は稲炎を振り向いた。
「どうかなさいましたか、凛空さま?」
 凛空が放り出したスマホを興味深そうに眺めていた稲炎は、のんびり凛空を振り向いて首を傾げる。
「どうかって……念のために聞くが、稲炎くん。これまで何かネットで買ったりしてないよな?」
「もちろんでございますとも。知識としては存じ上げておりますが、この目で見たのは先ほど凛空さまが操作されているのがはじめてでございましたし……何を焦っておいでなのですか?」
 稲炎は立ち上がり、トテトテと歩いてくると浮き上がって外を見た。
「あぁ、さすが御狐便おきつねびん、とても素早いお届けでございます」
 当然のように受け入れている稲炎に凛空が食ってかかる。
「いや、素早いってレベルじゃないでしょーが! オレが注文確定した瞬間にお届けって、おかしいだろ!」
「おかしくないですよー。御狐便は福の神専用の運送網でございます。いつだってすぐに対応してくださいますから。それより、ほら、先に受け取ってあげてください。いつまでも荷物を持たせたまま、立ち尽くしているのも可愛そうでしょう?」
 稲炎に突っ込みたい気分が治まっていないが、荷物を抱えたまま立たせているのは事実なので、凛空はあきらめて玄関ドアを開いた。
 廊下にキャップとつなぎ姿の二足歩行するきつねが、大きなダンボール箱を抱えて立っている。
 凛空を見るときつねはニッコリ目を細めて微笑んだ。
「こんちわー、御狐便のご利用、ありがとっス~! ご希望のお品を届けに来たっスよ~」
「……あ、ああ……ありがと……」
「礼には及ばんっスよー、これがおいらたちの使命っスからー。こちらはじめてのお神さんっスよね? どうぞ、これから末長くご愛用くださいっスよー。ではでは、他にご用命がなければ、これで失礼するっスよー」
 呆気に取られて対応しかねる凛空に構わず、一方的に話して御狐便はじゃっ、と帽子を脱いで軽く挨拶すると、その場でジャンプした。
 その姿がすうっと半透明になって、空を矢のように飛んでいくのを呆然と凛空は見送る。
「……御狐便、空を飛ぶんだな」
「地上は障害物が多いですから。この頃は空も混雑していると嘆いているらしいですけども」
 納得しきれないことだらけで、まだ呆然としている凛空を現実に引き戻したのは両腕の痺れだった。
 御狐便のきつねから受け取ったダンボールは重く、ずっと持っていた両腕が痛みを訴えはじめている。
(とにかく、コレを置く方が先だな)
 狭く短い廊下をダンボールを抱えて、ヨロヨロ歩き狭いワンルームの入口にそっと下ろす。
 解放された両腕を振って疲れをほぐしていると、稲炎が両耳を立てて興味深そうに寄ってくる。
「凛空さま、何を注文されたのです?」
「あぁ、箱を開けてみればすぐにわかるよ」
 稲炎に箱を開けるように促すと、嬉しそうに表面を眺めて開封方法の検討をつけ開いていく。
「うわあぁー……これはパソコンでございますね」
「さすが神仕えはパソコンも知っているんだな。そうそう、コレでやりたいことがあってさ。この性能のパソコンを買うの、ずっと憧れだったんだよなぁ~」
 発泡スチロールでしっかりガードされた本体やディスプレイなど、一式を取り出して慎重に組み立てる。
 パソコンを置く台がないので、服を入れている小型の棚に乗せて代用することにした。
 キーボードとマウスも繋げてパソコンを立ち上げ、初期設定を進めていく。
 前職業でパソコンを使っていただけに、最小限度の知識はある。
 本格的に使う前に必要な手順を進めていく凛空の横で、稲炎が尻尾を小刻みに揺らしながら覗いてくる。
「凛空さま、これからコレで何をするんです?」
「まぁまぁ待ちなさいって。まず準備が必要なんだよ、いろいろと」
 本当の子どもみたいに腕にしがみついて、あれこれ聞いてくる稲炎の頭を撫でて宥めなる。待ちくたびれた稲炎が部屋の掃除をはじめ、バスルームまで磨き上げてくれたところで、準備ができた。
「よしっ、出来たぞ! 稲炎、はじめるぞ~」
「わっ、待ってください。わたしも見たいです!」
 とてとて、と慌てながら駆けつけてくる稲炎を待って、画面を起動させる。
 じわっと画面に装飾されたロゴが浮かび上がる。
「これは……もしや、ネットゲームというものですか?」
「そうそう。オレ、ずっとやりたかったんだよ。ただ部屋にあるノート型のパソコンじゃ、性能が追い付かなくて快適に遊べないってわかってたから、我慢してたんだよ」
 ロゴと背景が溶けるように消えて、代わりにストーリーが浮かび上がってくる。
 凛空はすでにある程度の情報を得ているので、今さらストーリーを読まなくてもわかっているが、稲炎が知らないだろうから、と自動的に流れていくストーリーをスキップしないでおいた。
 予想通り、稲炎がかじりつくようにして画面を見ている。
 オンラインネットゲーム定番の、自分好みのキャラクターを作って操作し、ゲームの中の世界を冒険していくものだ。
 凛空が気になっていたのはキャラクターの作り込みが細部まで出来ることと、ゲームの中で何でも出来ることだ。
(情報によると、他のプレイヤーから物を盗むこともできるらしいけど、さすがにそれはイヤだなー)
 現実には出来ないことが出来ることはゲームの魅力だけど、凛空がやられたくないことを他人にするのは後ろめたくて嫌な気分になる。
 せっかくゲームで遊ぶのだから、嫌な気分になりたくはない。
(うん、他人に迷惑にならないように遊ぼう)
 ストーリーを稲炎が読み終わるのを待って、ゲームをはじめる。
 このゲームの中では、大陸ごとに住んでいる種族が分かれていて、プレイヤーはまず種族を選ぶ。
 ひとつひとつの種族について、事細かな設定がされている。設定を読みながら凛空がうなる。
「ふ~ん……いろいろな種族があるんだなぁ。最初っから迷ってしまうぞ、コレ」
「まことに数多の神と比べても遜色ないほど、様々なタイプがございますね。凛空さまはご存知なかったのですか?」
「噂には聞いていた、が。ここまで幅広い選択肢があるとは思ってもみなかったな。ん~、これは奥が深い」
「種族ごとに固有のお話が用意されている、と書いてありますね。これすべてに設定してあるのですか……すごいですね」
 稲炎も感心する横で、凛空は腕を組んで天井を仰ぐ。
(オレが本当に福の神になったのなら、時間は限りなくあるわけだ。気になる種族でそれぞれゲームを遊んでいっても、時間がなくなることはないわけで……なら、気長にやるか~)
 途中で飽きたならやめればいいし、と最終的に絞り込んでいた候補の中から、ひとつの種族を選んで決定する。
 続けて性別を選び、いよいよ凛空が気になっていたキャラクターの外見を操作する画面になる。
「うわっ、これまたすげぇ……ほんとに細かいトコまで触れるんだなー」
「……わたしは詳しく存じませんが、想像で例えるなら、全身美容整形をリアルタイムでしているみたいです」
「あははは、確かに」
 粘土細工みたいに顔の輪郭や鼻の高さや形、唇や瞼、顎の形もすぐに変更できる。
 さらに身長や体重、筋肉の付き方も決められて、こんなに細かく設定できるのなら、他のプレイヤーと外見が被ることはなさそうだった。
「でも細かく決められるからこそ、どうしたらいいのか迷うな~。ネット上では好きだった漫画やアニメのキャラクターに似せて作ったとか言ってたけど……さて、オレはどうするか……」
 キャラクター外見設定画面のまま、しばらく悩む凛空を隣で稲炎が黙って見守る。
 ふと悪戯心が働いて、凛空は再びマウスを操作すると、迷うことなくキャラクターを作りはじめた。
「もうちょっと……こう、目は丸くて……髪質まで選べるのか、すげーな、マジで。えっと……首の細さはこんな感じかな……耳はこんなんで、顔立ちのバランスももうちょっと、こう……」
 横で眺めていた稲炎が尻尾をピン、と立てた。
「凛空さま、これは……っ!」
「おっ、稲炎くん。おわかりになられましたか? ってことは、結構似てるってことだよな?」
 ぴょんぴょん跳ねる稲炎の反応に、凛空は自分の観察眼が正しかったことに満足する。
「せっかく遊ぶんだからさ、現実とは違うキャラクターにしたかったんだよ。で、つい最近、強烈な印象を受けたのは誰だったかな、って考えたらさ。コレになった」
「うわああっ、すごいです! 紫雨さまにそっくり!!」
 得意気な凛空が作り上げたのは、はじめて出会った福の神、紫雨の女性版の姿だった。
 ただ何もかも同じだと本人に申し訳ないので、髪と目の色は変えている。
 白銀色の髪と赤紫色の目は、選んだ種族の標準設定があったので、そのままにした。
「よしっ、かなり時間かかったけど、これではじめようか」
「はいっ」
 時計を見ると、昼も過ぎていた。
 空腹を感じない福の神体質のおかげで、まったく気付かずに熱中していた。
 稲炎が止めないことから、福の神の力とやらはまだ補充が必要ではないらしい、と勝手に判断してあらためてパソコンに向き直る。
 キャラクター設定完了ボタンを押すと、凛空が作り上げた紫雨似のキャラクターが、ゲーム世界の中に降り立つ。
 人を襲う魔物を退治していくのが、序盤のストーリー展開だ。
 進めるほどに枝分かれして、ストーリーが変化していくそうだが、はじめたばかりではその気配はない。
 はじめの村の中を走りまわり、住人に話しかけたり、物を探して、世界観や操作に慣れていく。
 凛空がこのゲームに興味を持ったポイントがもう一つある。
 体力や素早さ、器用さなどのステータスが自動的に判定されるシステムだ。
 操作方法や戦闘の仕方、キャラクターの行動などから分析して、結果をステータスやスキルに反映させてくれる。
 簡単に言うと、やったことでキャラクターが成長していくのだ。
 得意なことも、くり返し同じ行動をした場合も反映されるので、同じスキルでも修練度によって効果が変わる。
 自分で決める通常モードも搭載しているが、もちろん凛空は自動判定にしていた。
 ただ村の中を探索しているだけでも、どれだけ走り続けたか、物にぶつかった割合など、細かく判定されるようだ。
 昔ながらのRPGゲーム感覚で木箱を破壊して中身を取り出すと、悪徳や破壊ステータスが上昇すると言う。
 何をしても良いけど、結果は我が身に返ってくる、面白いシステムだと凛空は思う。
 そんなわけで日常生活も含めて経験を積んでいくと、レベルが上がった。
 試しにステータス画面を見てみると、凛空は平均的にステータスが上がっているようだ。
(これ、器用貧乏になる感じじゃないか? まぁ、まだ決めるには早いかな)
 レベルが5になるまではチュートリアル的な感じで、次に何をどうするのかを親切に教えてくれる。
 まだまだこれから、と気を取り直し先に進む。
「レベル10になると、本格的に職業を選べるんだな」
「そのようです。まずは村の外で戦闘経験を積むわけですね」
 稲炎が言う通り、はじめの村の外では他のプレイヤーも戦っている姿が見える。
 みんなぎこちない感じで、初心者だらけなのがよくわかる。
 凛空も倒せそうな魔物を探して、次々と挑戦していく。
 現実の紫雨は福の神だから、直接攻撃はしないが、ゲーム内では直接戦う。
 これぞ非現実の楽しみ、とホクホク満たされた気分で凛空は順調に魔物を倒し、レベルを上げた。
 ところがレベル8になると、必要な経験が増えてすぐにはレベルが上がらなくなる。
 レベルが上がった時、ボーナスで減った体力などが自動的に全回復していたのに、それがなくなる。
 戦えば魔物からの攻撃も受けるわけで、回復しないまま戦い続けるのは無理だった。
 座って休めば回復していくけど、すぐ近くで魔物が湧いて出てきた時は、魔物が凛空を見つけて攻撃してくるから休んでいられない。
「うわーっ、まだ回復しきってないってのに!」
「来ましたよ、凛空さま! って、逃げるんですか?」
「だって、こいつの攻撃、2回受けたら0になるくらいまでしか回復してないんだぜ? 今のオレじゃ、3回攻撃しないとこいつは倒せない!」
「逃げても追いかけてきてますよ?」
「おう、だから村の中に逃げ込む! 村には入れないようになってるから、あきらめるはず……って、嘘だろ~追いつかれた!」
 強制的に戦うはめになった凛空は、善戦むなしくあと一歩で体力がなくなってしまった。
 はじめの村の中から救護者が駆けつけて、凛空のキャラクターを運び込んでくれた。
 こうなると現実の時間で10分間、キャラクターが操作できなくなる。
 画面の中ではベッドに横たわり、看護されるキャラクターが映し出されている。
「ん~、まいったな~。最初っからこんなに手強いゲームだとは思わなかった!」
 ステータスを確認することは出来るので、画面を開いて確認すると、凛空の操作や行動を反映した結果、戦闘系のステータスやスキルがあまり上昇していないことに気づいた。
「マジか~、オレのやり方、下手なのかな~」
「とりあえず、休憩しましょう、凛空さま」
 ととと、と小走りで台所へ走る稲炎を見送り、凛空も立ち上がって背伸びをした。
 現実世界はすっかり夜になっていた。
(結構長い時間やり続けてたんだな~)
 空腹感もなくトイレに行く必要もない福の神にとって、ネットゲームは危険なアイテムかもしれない。
 それでも時間を気にすることなく、心ゆくまでゲームができる、この自由さはとてつもなく気持ちが良い。
 冷蔵庫内の、紫雨たちと食べたスイーツの残りを稲炎と食べながら、ふと凛空は考えた。
(……どーすっかな~。やっぱひとりでレベル上げするのは効率悪そうだし、仲間を探すか……けど、オレみたいに暇している奴がどれだけいるか。ずっとログインし続けてるのがバレて、廃人扱いされるのも面倒だ。事情がわかってて、深く詮索しない奴……探すの、めんどーだなぁ……)
 甘いスイーツも、ゲームの手強さにちょっと心が折れかけている凛空を癒してはくれなかった。
 腕を組んで、うんうん悩む凛空を、ちょこんと座る稲炎が見上げて首を傾げる。
「凛空さま? もしかして、お口に合いませんでしたか?」
「ん? あ、いや、違うよ。思ってたより、難しいゲームなんだなぁって考えてたんだよ。こういう時、助け合える仲間がいるってのが、オンラインゲームの強みなんだろーけど、まだ見つかってないからさ。どうやって探そうかなって考えてたのさ」
「……あの、凛空さま。わたし、考えていたのですが……」
 おずおずと稲炎が片手を上げて言い淀む。
「なんだ? 珍しく、稲炎くんが自信なさそうに言ってるけど」
「はい……わたしにも未知の体験ゆえ、自信が持てません。その……凛空さまがお使いになられていた、昔からある方のパソコンで、試しにわたしもゲームとやらをやってみてはいけませんか?」
 稲炎の主張を聞いた凛空は、しばらくじっと稲炎を見つめたまま固まった。
(……そうだ、なんで思いつかなかったんだろ、オレ)
 凛空の事情を知っており、長くゲームを遊んでいても不審に思わない。かつ、凛空に合わせてゲームに付き合ってもらえる存在が、こんなにすぐそばにいるのだ。
「それだっ!」
「……っ!?」
 凛空の大声にびっくりして両耳と尻尾を立ち上がらせる稲炎を置いて、急いで凛空はノートパソコンを引っ張り出す。
 快適にゲームを遊ぶには性能が足りないが、画質や効果でそぎ落とせる部分を増やしたら、もしかしたらこれでも動かせるかもしれない。
 いそいそと試してみた結果、どうにかゲームは動かせた。
 そして稲炎にキャラクターを適当に作ってもらい、ゲームを進めてもらうと、凛空よりも戦闘が上手かった。
 結局、凛空はもうひとつパソコンと、二つのパソコンを置くデスクを買い足すことにした。
「……ゴミ袋入り紙幣がオレの邪魔をする……」
 注文したくても置き場がなくて困る凛空へ、稲炎はもう一つの注文方法を提示する。
「代金引換があるじゃないですか。どうせなら、ものすごく高いパソコンやデスクを選んで、引き出してしまった現金でお支払いいただけば、少し場所が広がりましょう」
 まったくその通りなので、思いっきり贅沢をしてみたものの、一袋分も使いきれなかった。
「そんな、もらえないっスよー!!」
 泣いて断ろうとする御狐便に、パソコンやデスクの代わりにゴミ袋入り紙幣をいくつか持ち帰らせて、どうにか場所を確保した。
 こうして凛空のオンラインゲーム満喫生活がスタートするのであった。
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