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4話
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接吻をされている。
こちらの許可もなしに。一方的に。恋仲でもない相手に。
ならばやることは一つだった。
「この、無礼者!!」
バックステップからの平手打ち。
相手は避ける気がなかったのか、それとも避けられなかったのか見事頬に私の掌を喰らった。
乾いた音とともにアレス王子の瑞々しい肌が赤みを帯びる。加減はした。
暫くすると彼は私にこう言った。
「ハ、おもしれ―女」
涙目で言う台詞では全くないのよね。
どうやらアレス坊やは私の知らない内にすっかりろくでもないことにかぶれてしまったらしい。
生意気な言葉遣いは兎も角、女性に無断で接吻は年頃だから仕方ないで済まされるレベルではない。
だから私は腰に手を当てて彼を叱る。
「何ですかその軽薄な物言いは!誰に教わったの、ディアナおばさまに言いなさい!!」
「えっ、か、母さまじゃなくてお袋に……」
「マリア。そう、マリアね。わかったわ」
そう、もうそれだけで分かった。
あのアホ女。
どこの世界に自分の息子を『昔の男の1人』風にチューニングする母親がいるのだ。
先ほどまでの強引かつすべての女は自分の思いのままという傲岸不遜な態度、心当たりがある。
学生時代マリアにちょっかいを出したらそのままじっくり骨抜きにされた一つ上のプレイボーイだ。
思い出してみると彼はアレス王子と髪色や鋭い目つきが似ている気がする。いや、まさかね。いやいやまさか。
流石に友人をそこまで肝の座ったあばずれだとは思いたくない。私は疑念にひとまず蓋をした。
今必要なのは目の前の子供への躾である。
「いいですか、アレス。確かにマリアは貴方の母です。子は親を敬う義務がある。けれど」
「…けれど?」
「親である前にあの女はあの女です。彼女の面白半分の提案を鵜呑みにしてはいけません!いいわね!」
「はっ、はい!」
子供に対し親の言葉を信じるななどと叱るのは流石に私といえども心が痛む。
けれど彼の為なのだ。マリアはギリギリの瀬戸際まで『愉しさ』を優先する女なのだから。
結果として彼女のその判断がいい方向に転がることはなぜか多いのだけれど、今回だけは話は別だ。
「二度とあんな風に乱暴に女性の唇に触れたりしては駄目よ。同意のない接吻は暴力と同じです!」
「暴力……」
「そうよ。体ではなく心を酷く傷つけるの。平手打ちより何倍も痛いわ」
「ごめんなさい…そんなつもりじゃなかった」
私の叱責にアレス王子はすっかりしょげてしまった。
外見だけなら背丈も随分と伸びて、黒豹のような威圧を感じる容姿に育ったというのにまだまだ中身は子供のようだ。
十七にもなってそれはそれでどうかと思うが、私との久しぶりの会話で子供に戻ってしまったのかもしれない。
しっかりと反省しているようならここいらで説教を切り上げてもいいだろう。
私は咳ばらいをしてから改めて彼を見上げた。
「一度目は許します。でも二度とは駄目よ」
「え…それは嫌だ」
は?
彼から了承の言葉が返ってくるものだと思い込んでいた私は思わず口をぽかんと開ける。
その隙に先ほどまでの萎縮した幼子のような様子が嘘のようにアレス王子は強引に私へ顔を近づけた。
再度平手打ちをお見舞いしようとした掌を今度はしっかりと捕えられる。
そして彼は、私の右耳へと唇を落とした。
「俺は何度だってしたい。あなたと、だけ」
だから許して。
囁くように言われて私はきつく目を瞑る。
駄目、と呟く前に唇は再び奪われた。
そっと触れる感触に、優しくすればいいというものでもないのよと思った。
こちらの許可もなしに。一方的に。恋仲でもない相手に。
ならばやることは一つだった。
「この、無礼者!!」
バックステップからの平手打ち。
相手は避ける気がなかったのか、それとも避けられなかったのか見事頬に私の掌を喰らった。
乾いた音とともにアレス王子の瑞々しい肌が赤みを帯びる。加減はした。
暫くすると彼は私にこう言った。
「ハ、おもしれ―女」
涙目で言う台詞では全くないのよね。
どうやらアレス坊やは私の知らない内にすっかりろくでもないことにかぶれてしまったらしい。
生意気な言葉遣いは兎も角、女性に無断で接吻は年頃だから仕方ないで済まされるレベルではない。
だから私は腰に手を当てて彼を叱る。
「何ですかその軽薄な物言いは!誰に教わったの、ディアナおばさまに言いなさい!!」
「えっ、か、母さまじゃなくてお袋に……」
「マリア。そう、マリアね。わかったわ」
そう、もうそれだけで分かった。
あのアホ女。
どこの世界に自分の息子を『昔の男の1人』風にチューニングする母親がいるのだ。
先ほどまでの強引かつすべての女は自分の思いのままという傲岸不遜な態度、心当たりがある。
学生時代マリアにちょっかいを出したらそのままじっくり骨抜きにされた一つ上のプレイボーイだ。
思い出してみると彼はアレス王子と髪色や鋭い目つきが似ている気がする。いや、まさかね。いやいやまさか。
流石に友人をそこまで肝の座ったあばずれだとは思いたくない。私は疑念にひとまず蓋をした。
今必要なのは目の前の子供への躾である。
「いいですか、アレス。確かにマリアは貴方の母です。子は親を敬う義務がある。けれど」
「…けれど?」
「親である前にあの女はあの女です。彼女の面白半分の提案を鵜呑みにしてはいけません!いいわね!」
「はっ、はい!」
子供に対し親の言葉を信じるななどと叱るのは流石に私といえども心が痛む。
けれど彼の為なのだ。マリアはギリギリの瀬戸際まで『愉しさ』を優先する女なのだから。
結果として彼女のその判断がいい方向に転がることはなぜか多いのだけれど、今回だけは話は別だ。
「二度とあんな風に乱暴に女性の唇に触れたりしては駄目よ。同意のない接吻は暴力と同じです!」
「暴力……」
「そうよ。体ではなく心を酷く傷つけるの。平手打ちより何倍も痛いわ」
「ごめんなさい…そんなつもりじゃなかった」
私の叱責にアレス王子はすっかりしょげてしまった。
外見だけなら背丈も随分と伸びて、黒豹のような威圧を感じる容姿に育ったというのにまだまだ中身は子供のようだ。
十七にもなってそれはそれでどうかと思うが、私との久しぶりの会話で子供に戻ってしまったのかもしれない。
しっかりと反省しているようならここいらで説教を切り上げてもいいだろう。
私は咳ばらいをしてから改めて彼を見上げた。
「一度目は許します。でも二度とは駄目よ」
「え…それは嫌だ」
は?
彼から了承の言葉が返ってくるものだと思い込んでいた私は思わず口をぽかんと開ける。
その隙に先ほどまでの萎縮した幼子のような様子が嘘のようにアレス王子は強引に私へ顔を近づけた。
再度平手打ちをお見舞いしようとした掌を今度はしっかりと捕えられる。
そして彼は、私の右耳へと唇を落とした。
「俺は何度だってしたい。あなたと、だけ」
だから許して。
囁くように言われて私はきつく目を瞑る。
駄目、と呟く前に唇は再び奪われた。
そっと触れる感触に、優しくすればいいというものでもないのよと思った。
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