惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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8話

「まあ足元の床を殴ればそうなりますわね」


 意図せず階下に落ちながらも私は冷静だった。

 ハイヒールが地面につく少し前に全身へと浮力がかかる。

 ふわりとまではいかずとも若干よろめく程度で私は見事着地を果たした。


「こ、この、賢い振りしたアホ!」

「わざとよ、親友の能力を信じたのよ。美しい友情ね」


 とっさの風魔法で窮地を救ってくれたマリアに私はにっこりと微笑みかける。

 天井の穴から蒼白な顔を覗かせて嘘を吐くなと騒いでいる姿を見て私は内心で冷や汗を流した。

 雷撃で開けた穴が思ったより小さすぎる。範囲の調整を間違えてしまったようだ。

 あれでは体格のいいルーク王子は利用できない。
 
 まあ、天井全落としになるよりは断然マシね。

 人生なんて所詮今できることをやって切り抜けていくしかないのだ。

 そう、私一人なら私一人で選べる方法がある。


「お前、この、泥棒女!!」 

「アレス王子はいつ貴女の物になったのかしら?もしかして貴女の妄想ユメの中で?」

「死ね!!」


 ほうら、いらっしゃった。

 アレス王子の体からましらめいた動きで飛び降りてメイドが私へと走り寄る。

 恋愛関係のいざこざの時に男と女と女がいたら大抵の女は女に向かってくるのよ。

 独身時代のマリアがよく言っていたわ。

 っていうか手が物凄く痛いわね。というかヌトヌトヌメヌメもしてるわね。

 そりゃ固い床をイレギュラー出力の魔力込めて全力でぶん殴ったら皮膚ぐらい破れてぐちゃぐちゃにもなるでしょうね。

 今日はお城に行くから気合入れて爪を整えさせたのに。

 多分根元ぐらいしか残ってないけど爪ってどれぐらいで伸びるかしらね。

 くだらないことを頭で考えて私は必死に冷静ぶる。

 刃物なんて怖いに決まっている。

 ただ怖がっても悪手にしかならないから怖くないふりをするのだ。

 大丈夫、致命傷さえ追わなければ楽勝だ。

 私には『茨の籠手』がある。

 メイドが私の至近距離に入った瞬間その皮膚に触れてやればいいのだ。

 あの女がナイフで狙ってくるとしたら顔か首か胸か腹よね多分。

 庇う腕が足りないわ、仕方ないから顔のガードは捨てましょう。

 どうせ私なんて、女としては失格らしいですし。

 狂気に瞳を燃やして向かってくる女に私は微笑んだ。


「薔薇の毒で存分に痺れさせてあげるわ、馬鹿なお嬢さん」



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