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10話
真っ暗な道を私は歩いている。
時々ぼんやりと光る場所があって、そこに足を運ぶと大切な人に出会えた。
それは亡くなったお爺様やお婆様だったり、小さいころに可愛がっていた犬だったりもした。
なので魔力を使い果たして死んでしまったのかと思ったけれど次第に存命中の顔ぶれが増えて安堵した。
気弱な弟のマシュー、親友のマリアは今よりもずっと若い姿で出てきた。
マリアは出会いがしらに私をぶん殴ってこようとしたので「野蛮な女ね」と言ってしまった。
「あんたほど暴力的じゃないわよ」と返された。初めて会った日の会話だった。
そして彼女たちからも離れて大分歩いた頃小さな陽だまりに辿り着いた。
そこでは幼い私とロバートが仲良く並んで一つの本を読んでいた。
「幸せ?」と私は聞いた。幼い私は「当たり前じゃない」と答えた。
もう少し歩くと学生時代の私たちに会った。
同じように幸せかと訊いたら少女時代の私は「絶対に掴み取ってやるわ」と力強く答えた。
大分歩いてから伯爵夫人になった私と夫に出会った。寄り添って庭園を歩いていた。
幸せかは聞かなかった。強く覚えているからだ。
そしてもっと歩いた。暗がりに私が一人だけで居た。いつの日の自分かはわかっていた。
「幸せになりましょうね」と私は言った。彼女は暗い目で月だけを見ていた。
そして更に歩いた。疲れはなかったが随分と長い道のりだった。
どれ程歩いても今までのように見知った人間には会わず出口さえも見つからない。
けれど私は歩けるので歩いた。その間色々なことを考えた。百年分考えごとをした気がする。
時に立ち止まっては誰もいないのをいいことにロバートやその愛人、今は妻の顔をしているだろうあの女への呪詛を吐き散らかした。
険悪な義妹に対する罵倒も忘れなかった。義妹であるイザベラは陰険な女だった。
陰口をわざわざ本人に伝えてくるタイプの最悪な女狐だった。
実家に帰った後、自分が夫の知り合いたちやその妻からどう呼ばれているのかを知った。
家の金をドレスや化粧品、若作りに使い込み、体形が崩れるからと子供を産むのを嫌がり。
それなのに妾を作ることすら許さない狭量で身勝手な悪女だと、そんな噂を流されていた。
伯爵家を潰しかねない毒婦、悪の伯爵夫人だと。全くの偽りだった。
馬鹿馬鹿しい話ねと私はイザベラに対し笑った。意地でも傷ついた顔を見せなかった。それがこの女を喜ばせると知っていたからだ。
悪意ある義妹がいる実家など頼るつもりはなかった。私を陥れようとした夫からの金で暮らしたくもなかった。
私には矜持しか残されていなかったから、強い女を演じるしかなかった。それは酷く不安で不自由だった。
泣きたかった。泣きたかった。泣きたかった。
誰もいない今私は大声で泣いた。弱音も吐き後悔を口にした。殺してやると血走った目で叫んだ。
どれぐらいそうしていたかもわからない頃、私は立ち上がった。
そして歩き出した。
歩き出した先に青く儚げな光があった。
「アレス坊や」
私はかけよって彼を抱きしめた。
幼子の姿ではなく、青年の姿の彼を。
ごめんなさいと繰り返し続ける彼を私は抱きしめた。
貴女を愛してごめんなさい。彼はそう繰り返していた。
「いいのよ」
私は彼の気持ちを受け止めた。
泣き喚いて泣き喚いて気づいたことがある。
吐き出したい感情を胸に秘め続けるというのはとても苦しい事なのだと。
私はロバートを三十年以上愛し続けたが一度も想いを隠すことはなかった。
けれどアレスは十年以上も当事者である私にだけは気づかれないよう耐え続けたのだ。
想い人である私と直接会話をすることさえ自らに禁じて。隠し通したのだ。
私を困らせない為に。
「もう私の為に、貴男が苦しむことはないの…アレス」
想いに応えるか、応えないかは別として。
彼を男として見なければいけないのだと思った。
時々ぼんやりと光る場所があって、そこに足を運ぶと大切な人に出会えた。
それは亡くなったお爺様やお婆様だったり、小さいころに可愛がっていた犬だったりもした。
なので魔力を使い果たして死んでしまったのかと思ったけれど次第に存命中の顔ぶれが増えて安堵した。
気弱な弟のマシュー、親友のマリアは今よりもずっと若い姿で出てきた。
マリアは出会いがしらに私をぶん殴ってこようとしたので「野蛮な女ね」と言ってしまった。
「あんたほど暴力的じゃないわよ」と返された。初めて会った日の会話だった。
そして彼女たちからも離れて大分歩いた頃小さな陽だまりに辿り着いた。
そこでは幼い私とロバートが仲良く並んで一つの本を読んでいた。
「幸せ?」と私は聞いた。幼い私は「当たり前じゃない」と答えた。
もう少し歩くと学生時代の私たちに会った。
同じように幸せかと訊いたら少女時代の私は「絶対に掴み取ってやるわ」と力強く答えた。
大分歩いてから伯爵夫人になった私と夫に出会った。寄り添って庭園を歩いていた。
幸せかは聞かなかった。強く覚えているからだ。
そしてもっと歩いた。暗がりに私が一人だけで居た。いつの日の自分かはわかっていた。
「幸せになりましょうね」と私は言った。彼女は暗い目で月だけを見ていた。
そして更に歩いた。疲れはなかったが随分と長い道のりだった。
どれ程歩いても今までのように見知った人間には会わず出口さえも見つからない。
けれど私は歩けるので歩いた。その間色々なことを考えた。百年分考えごとをした気がする。
時に立ち止まっては誰もいないのをいいことにロバートやその愛人、今は妻の顔をしているだろうあの女への呪詛を吐き散らかした。
険悪な義妹に対する罵倒も忘れなかった。義妹であるイザベラは陰険な女だった。
陰口をわざわざ本人に伝えてくるタイプの最悪な女狐だった。
実家に帰った後、自分が夫の知り合いたちやその妻からどう呼ばれているのかを知った。
家の金をドレスや化粧品、若作りに使い込み、体形が崩れるからと子供を産むのを嫌がり。
それなのに妾を作ることすら許さない狭量で身勝手な悪女だと、そんな噂を流されていた。
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私には矜持しか残されていなかったから、強い女を演じるしかなかった。それは酷く不安で不自由だった。
泣きたかった。泣きたかった。泣きたかった。
誰もいない今私は大声で泣いた。弱音も吐き後悔を口にした。殺してやると血走った目で叫んだ。
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そして歩き出した。
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「いいのよ」
私は彼の気持ちを受け止めた。
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彼を男として見なければいけないのだと思った。
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