惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

文字の大きさ
11 / 99

11話

 何とも言えない気持ちで目を覚ました。

 瞬きをゆっくりと何回かしている内に室内にいた人間の一人が気付いて慌てて外へ出て行った。

 あの真っ白な服には見覚えがある。治癒士の制服だ。

 手が上手く動かせないなと思ったら両方とも文字が書かれた白い布でぐるぐる巻きにされていた。

 頬や耳の辺りにも何かが貼られている感覚がする。

 残った方の治癒士からの簡単な質問に受け答えしている内にマリアが人を引き連れてやってきた。

 彼女は無言で私を見つめた。

 完全に治るまで絶対に城から帰さないわよ。そうマリアが言うので、帰るところなんてないからいいわよと返した。


「大分時間がかかるがいいかの?」


 そうマリアの背後から顔を見せた老人が言う。見知った人物だった。御殿医の、確かマルコー殿だ。


「仕方がありませんわ。もう若くありませんもの」


 だから傷跡が残っても気になさらないで。 

 そう返事をすると、いや綺麗に治すよと気負わない声が返された。少しだけ泣きたい気分で有難うございますと答えた。

 その後に私が気を失ってからのことをマリアから色々と聞いた。

 アレス王子を襲ったメイドの正体は乳母の娘だった。身分差はあれど彼の幼馴染ともいえる関係だと知った。

 私の雷撃で大怪我をした彼女は、それでも私より早く目覚めたとのことだった。

 その目からはすっかり恋の狂気は去っていて、自ら死罪を望んだらしい。

 ただ母に罪が及ぶことだけを酷く悔いていたという。

 連座は行わないというマリアの言葉に深く感謝し、改めて自らの罪を詫びたとのことだった。

 そしてアレス王子と私には詫びても詫びきれないとも。


『ディアナ様の雷に打たれてわかりました』


 愛ゆえにアレス王子を殺そうとした己と、愛ゆえに命がけで恋人を守り抜いた彼女。

 女神の如きその強さは自らに巣食う邪恋を見事に討ち滅ぼしてくれた。

 私は絶対に勝てぬ存在に負けたのだと納得して死ぬことができる。

 そう、乳母の娘は晴れ晴れと言っていたと聞かされて「大袈裟すぎる」と私は答えた。 

 しかも私とアレス王子が恋仲だという誤解さえ解かれていない。

 どういうことだと王妃を寝台からねめつけた。


「だって、面倒臭くなりそうじゃない?」


 どうせ死ぬのなら迷いなく死なせてあげた方が親切だ。

 マリアの主張を私は鼻で笑った。何が死なせてあげるだ。

 今の段階でその娘が死んでないのなら恐らくマリアには殺す気などないのだ。

 なら自分には殺す気はあるのか。私は考えた。

 王子の命を奪おうとした時点で普通なら極刑である。未遂であろうがそれは変わらない。 

 ついでに貴族である自分にも掠り傷とはいえ怪我を負わせてきた。「掠り傷じゃないわよ」マリアの声は無視する。

 アレス王子の幼馴染とはいえ己には全くの他人だ。顔だってよく覚えていない。死んでもそこまで悲しくはない筈だ。

 ただ、アレス王子の『傷』にはなるだろう。

 私はマリアにそう告げた。でも慣れなければいけないことよ、王妃の顔でマリアは答えた。

 それは今回でなくても別にいい。私は更に告げた。マリアは答えなかった。


「殺すつもりで私は彼女に雷撃を喰らわせた。死ななかったのならそれが雷女神ユピテルのご意志よ」


 それを人間が覆すだなんて不遜にも程があるわ。マリアはぽかんとした顔をした。

 数秒後には腹を抱えて笑いだしたので私の答えがお気に召したのだろう。

 疲れたから休むわとだけ言って目を閉じた。

 実際眠くて眠くて仕方がなかった。

 恐らく私の腕に巻かれている布には癒しの呪文が書かれている。

 これは傷の治りを確かに早くはしてくれるけれど、身に着けているとやたらと眠くなるのだ。確かに睡眠と栄養は肉体回復に必要な要素ではあるけれど。

 あんたの我儘を聞く代わりに私も好きにやるわよ。マリアの声が遠くに聞こえる。

 仕方ないわねと私は返して今度こそ私は睡魔に抗うことを止める。


 アレス王子と話をしたいわ。


 私はそれだけを最後に呟いて治癒の為の眠りについた。


あなたにおすすめの小説

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」