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王妃の裁き2
二十年より昔、このアルスラ魔法国を滅亡の危機から救った聖女がいた。
女神の寵愛者と呼ばれたその少女は国の重鎮たちに見返りを三つ求めた。
一つ、この国の王太子であるユーノとの婚姻に反対しない事。
一つ、私が失敗しない限り私の判断を王の次に尊重する事。
一つ、これは後で考えておくわ。
どうにも出鱈目な救世主であったが当時の王はその提案を笑って受け入れた。
ならば重臣たちもそれに従う他ない。
そして破天荒な聖女はやがて破天荒な王妃となったのだった。
______
「玉座をいただきとうございます」
そうあっさりと王妃が夫にねだるのを目の当たりにして小姓の少年は思わず叫びそうになった。
玉座というのはこの国で最も高貴な者のみが座ることを許された場である。
玉座を欲しがると言えば王の座につきたがるということであるし、玉座を奪うと言えば王位を簒奪することである。
しかし妙なことだと小姓の少年、エヴァは思った。
発言者のマリアはこの国の現王妃である。つまり彼女の為の『玉座』はあるのだ。
だがそれを踏まえて考えれば尚更物騒な話である。
彼女は国王である夫の座る玉座を欲しがっているのだ。
今までのこの王妃を変人と思いはすれど毒婦の類だと感じたことはない。
だが、玉座を欲しがるというのはどう取ってもそういう話ではないか。
エヴァ少年の逡巡を他所に王であるユーノは愛しい妻へにっこりと笑んだ。
「構わないよ、私のマリア。しかして誰を座らせるつもりかな」
剣かい、それとも炎かな。
どこか楽し気に思える調子で王は妃へと尋ねる。
剣振るう子ですわ。王妃は託宣をする巫女のように答えた。
大分前から決めてはいたけれど、今発表するのが宜しいでしょう。
恩赦目当てかい、そうユーノ王が問いかける。
ディアナの我儘ですわ、そう答えるマリアも笑っていた。
それから王妃は乳母の娘に対する親友の発言を余さず王へと伝えた。
ユーノ王は学友の豪傑ぶりに惜しみなく笑い声をあげた。
「年齢にさえ目を瞑ればアレスには相応しい女です」
「そうだね、心が強い女性はいい。彼はどうにも私に似て頼りないところがあるから」
エヴァはぎょっとした。ディアナの名は小姓である自分でも知っている。きつめの顔立ちだが美しい婦人だとは思う。
だが彼女は確か人妻で、何より王妃や王とほぼ齢の変わらぬ人間ではないか。
つまりこの国王夫妻は自分と同年代の女を恐らくはまだ学生である第二王子の婚姻相手へと考えているのだ。
政略の一つなのかもしれないが若く美しいあの王子に対し余りにも酷な仕打ちではないか。
そのような義憤が表情に浮かんでしまったのかもしれない。マリア王妃の眼差しが突如小姓であるエヴァへと向けられた。
彼女の年齢を考えさせない溌溂とした輝きを湛えた翠の瞳にじっと見つめられると先ほどまでの憤慨が嘘のように魅了されそうになる。
マリア王妃はそれこそ十代の街娘のような気軽さで小姓の少年へと玉体を近づける。
甘く濃い花の匂いがして、思わず頬を紅潮させるエヴァにマリアは「いいものを見せてあげるわね」と懐から宝石を取り出した。
それが第二王子の長年の片恋を刻みつけた魔法石であることを少年が知ったのは封じられた映像が全て再生され切ってからのことだった。
当然彼が先程まで抱いていたアレスとディアナの婚姻話に対する偏見を改めたのは言うまでもない。
女神の寵愛者と呼ばれたその少女は国の重鎮たちに見返りを三つ求めた。
一つ、この国の王太子であるユーノとの婚姻に反対しない事。
一つ、私が失敗しない限り私の判断を王の次に尊重する事。
一つ、これは後で考えておくわ。
どうにも出鱈目な救世主であったが当時の王はその提案を笑って受け入れた。
ならば重臣たちもそれに従う他ない。
そして破天荒な聖女はやがて破天荒な王妃となったのだった。
______
「玉座をいただきとうございます」
そうあっさりと王妃が夫にねだるのを目の当たりにして小姓の少年は思わず叫びそうになった。
玉座というのはこの国で最も高貴な者のみが座ることを許された場である。
玉座を欲しがると言えば王の座につきたがるということであるし、玉座を奪うと言えば王位を簒奪することである。
しかし妙なことだと小姓の少年、エヴァは思った。
発言者のマリアはこの国の現王妃である。つまり彼女の為の『玉座』はあるのだ。
だがそれを踏まえて考えれば尚更物騒な話である。
彼女は国王である夫の座る玉座を欲しがっているのだ。
今までのこの王妃を変人と思いはすれど毒婦の類だと感じたことはない。
だが、玉座を欲しがるというのはどう取ってもそういう話ではないか。
エヴァ少年の逡巡を他所に王であるユーノは愛しい妻へにっこりと笑んだ。
「構わないよ、私のマリア。しかして誰を座らせるつもりかな」
剣かい、それとも炎かな。
どこか楽し気に思える調子で王は妃へと尋ねる。
剣振るう子ですわ。王妃は託宣をする巫女のように答えた。
大分前から決めてはいたけれど、今発表するのが宜しいでしょう。
恩赦目当てかい、そうユーノ王が問いかける。
ディアナの我儘ですわ、そう答えるマリアも笑っていた。
それから王妃は乳母の娘に対する親友の発言を余さず王へと伝えた。
ユーノ王は学友の豪傑ぶりに惜しみなく笑い声をあげた。
「年齢にさえ目を瞑ればアレスには相応しい女です」
「そうだね、心が強い女性はいい。彼はどうにも私に似て頼りないところがあるから」
エヴァはぎょっとした。ディアナの名は小姓である自分でも知っている。きつめの顔立ちだが美しい婦人だとは思う。
だが彼女は確か人妻で、何より王妃や王とほぼ齢の変わらぬ人間ではないか。
つまりこの国王夫妻は自分と同年代の女を恐らくはまだ学生である第二王子の婚姻相手へと考えているのだ。
政略の一つなのかもしれないが若く美しいあの王子に対し余りにも酷な仕打ちではないか。
そのような義憤が表情に浮かんでしまったのかもしれない。マリア王妃の眼差しが突如小姓であるエヴァへと向けられた。
彼女の年齢を考えさせない溌溂とした輝きを湛えた翠の瞳にじっと見つめられると先ほどまでの憤慨が嘘のように魅了されそうになる。
マリア王妃はそれこそ十代の街娘のような気軽さで小姓の少年へと玉体を近づける。
甘く濃い花の匂いがして、思わず頬を紅潮させるエヴァにマリアは「いいものを見せてあげるわね」と懐から宝石を取り出した。
それが第二王子の長年の片恋を刻みつけた魔法石であることを少年が知ったのは封じられた映像が全て再生され切ってからのことだった。
当然彼が先程まで抱いていたアレスとディアナの婚姻話に対する偏見を改めたのは言うまでもない。
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