惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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王妃の裁き6

 シシリーを初めて買った客が店を訪れなくなった後も彼女の環境は変わらなかった。

 つまり父かもしれないあの男がしたのは、オーナーに彼女を貴族専門の娼婦にするよう提言したこと。

 そして偶に顔を見せてはその体を買う事、それだけの事しかしていないということだった。

 そもそも彼が本当にシシリーの父親なのかも闇の中だ。

 年の離れた娼婦に血の繋がりを疑われたことを不快がり消えただけかもしれなかった。

 ただシシリーはもう二度と会うこともないだろう男を自らの父だという事にした。

 彼女は物心ついた頃にはこの娼館で使用後の汚れたシーツを洗う生活だった。

 成長し自分が寝具を洗わせる立場になった後、マスターから母も娼婦だったことを聞いた。

 子供を産ませてくれたら今まで以上に働く。

 そう頼み込んで娘を生んだのに産後の肥立ちが悪くあっさり死んだとオーナーは忌々し気にシシリーに語った。

 お前は同じようになってくれるなよ。

 そう頭を撫でるオーナーの手は優しかったが、彼を父代わりだと思うことはできなかった。

 想像上の父親である貴族の存在をシシリーは常連の客にたまにぽつりと話すようになった。

 すると不思議なことに客は今まで以上に彼女を贔屓にするようになったのだ。

 年が離れていればいる程可愛がってくれるようになった。まるで自分の娘のように扱ってくれることさえある。

 シシリーは娼婦で、相手の貴族はその体を買う客だ。けれどその行為のおぞましさを指摘する者は娼館にはいなかった。

 少女から女性に変わりつつあるシシリーの美しさと艶は増し、貴族の落胤だという噂がその価値を更に高めた。

  上客が増えることで娼婦である彼女に客を選ぶ権利が与えられるようになった。それが益々高嶺扱いを呼んだ。

 父親に似た容姿と雰囲気の男をシシリーは好んで相手した。

 家族という存在に拘っていた彼女は寝物語に客にそういった話をせがんだ。

 けれど当然ながら娼婦に対し己の家族について語るものなどいる筈がない。

 聞かされる話は結局貴族間の下世話な噂話が主になった。

 その中に、妻たちに聞いたと前置きしながら同じ家庭の話をする客が二人いた。

 ある貴族の男がいたが、正妻が子作りを嫌がりいつまでも跡継ぎが出来ぬと嘆いていると。

 その男の奥方はそれはもうきつい性格で暴力は日常茶飯事。愛人などこさえた日には文字通り雷を落とすだろうと。

 夫を足蹴にしながら自らの美しさに固執し、金に糸目をつけず若さを保つことに腐心していると。

 いずれその家の血は悪妻のせいで絶えることになるだろうと話は締めくくられた。

 だから身分が高くて気の強い女は面倒だ、年を重ねたうちの妻も似たようなものだ。どんどん図太くなる。

 お前はそのようになってはいけないよ、可愛いシシリー。

 男の甘い言葉と接吻を頬に受けながら彼女が思うことは一つだった。


 この世にそのように強い女がいるなら、ぜひ会ってみたいものだわ。

 そして貴族の正妻という立場を無くしたらどうなるのかを見てみたい。


 それは彼女の心に初めて宿った情熱だった。

 その恐妻持ちの夫の特徴をさりげなく聞くと、父と同じ髪と目であったので益々企みの炎は燃え盛った。

 シシリーは熟れた桃のような声で貴族の客に強請った。

 私、その方に是非お会いしたいわ。

 女というものがそのように恐ろしいものだなんて思い続けて欲しくないの。

 心から尽くしお慰めしたいわ。

 娼館の姫と呼ばれる彼女に逆らえる客はいなかった。 


  

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