19 / 99
王妃の裁き8
ロバート・グレイ伯爵は懊悩していた。
元妻であるディアナが行方知れずとなってしまったからである。
厳密にいえばディアナが行方不明になったことに困っているわけではない。
教会に提出する婚姻解消届に元妻の承諾を貰い忘れたので困っているのだ。
この国の貴族は結婚する際ほぼ全員が教会で式を挙げる。
その場で夫となるものと妻となるものの双方が永遠の愛を神と司祭に誓うのだ。
これがただの演出なら気楽なものだが、教会側では正式の誓いとみなすから厄介だ。
配偶者の死亡以外の理由でその誓いを破棄しようとすると、それはもう詰問の域で根掘り葉掘り聞かれる。
そのことを離婚する前に知りたかった、伯爵は今心の底からそう思った。
教会側から詰問される理由について、解消届に元妻の承諾が欠けている事並びに離婚に至る理由が夫側の一方的な主観で書かれている事。
そして伯爵に都合のいいように書かれていて尚、元妻側に同情を禁じ得ないような身勝手さがまざまざと浮かび上がっている事が挙げられるが彼はそれに気づいていなかった。
法的な離婚は済んでいる。こちらはディアナを追い出した際にシシリーが抜け目なく国に提出する書類にサインをさせていたからだ。
長く連れ添った妻だ。更にその妻はあのプライドの高いディアナである。離婚にもそう簡単に同意はしないだろう。
妊娠したシシリーにそう告げた所、彼女は大きな瞳を潤ませながらこう言ったのだ。
「伯爵様、私の為に悪者になっていただけますか……?」
そう震えながら縋るように言われ、ロバートは唯々諾々と年の離れた新妻に従った。
彼女の立てた作戦通り、二人で厳しい言葉を投げつけプライドをへし折ったディアナはスムーズに離婚に同意してくれた。
ディアナは幼馴染で子供の頃からの付き合いのある女だ。寂しさや申し訳なさを感じない訳ではない。
けれど彼女はシシリーと違う。シシリーは己がいなければ生きていけないが彼女はまあ、大丈夫だろう。
元々貴族の生まれで衣食住には不自由していない、更に自分が誠意として渡した慰謝料もある。
プライドが高く口だって達者な強い女だ。もういい年だし離婚されたことも割り切って生きていくに違いない。
そう彼女をよく知るロバートは確信しているのだが、教会側はそれを否定するのだ。
「それは全て貴方だけに都合のいい考えですよ、グレイ伯爵」
新しい婚姻に神が祝福をお与えになるとはくれぐれも思わないでくださいね。
不備だらけの届け出を返却に来たのはなんと二人が式を挙げた教会の司祭だった。
彼はロバートの目の前で届を棄却しながら苦々しく言った。
これは到底受理できうるものではありません。
別に教会に認めて貰わなくても法的には離婚は済んでいる。
ただ、認めて貰えないままなら生まれてくる子供は神の祝福を受けられない。
なんて非道な。ロバートは憤るが教会側はそれに対し苦虫を噛み潰した表情で諭すのだ。
私たちは決しておかしなことを申し上げているわけではないのですよ、伯爵。
貴方と貴方が新しく妻にしたい女性が奥様に対して不誠実な態度をとっていることをご両親に堂々と語れますか?
そもそもなぜ奥方様はこの場にいらっしゃるどころか届け出にサインすらされていないのですか。
奥様は本当に『出ていかれた』だけですか?
そこまで言われて流石に無礼だと司祭を追い払ったが、恐らく自体はより厄介な方に転がるだろう。
司祭が帰った後にディアナの実家へサインをして欲しい旨の手紙と一緒に届け出を送ったが全く戻ってこない。
なので催促の使いを送ったがディアナは屋敷にいないという伝言だけを持って帰ってきた。
元妻はいったいどこにをほっつきあるいているのか!
離婚したからといって行動が奔放過ぎる、もっと落ち着いた振る舞いをすべきではないのか。
ロバートがディアナと宮廷で再会するのはこの数日後のことである。
元妻であるディアナが行方知れずとなってしまったからである。
厳密にいえばディアナが行方不明になったことに困っているわけではない。
教会に提出する婚姻解消届に元妻の承諾を貰い忘れたので困っているのだ。
この国の貴族は結婚する際ほぼ全員が教会で式を挙げる。
その場で夫となるものと妻となるものの双方が永遠の愛を神と司祭に誓うのだ。
これがただの演出なら気楽なものだが、教会側では正式の誓いとみなすから厄介だ。
配偶者の死亡以外の理由でその誓いを破棄しようとすると、それはもう詰問の域で根掘り葉掘り聞かれる。
そのことを離婚する前に知りたかった、伯爵は今心の底からそう思った。
教会側から詰問される理由について、解消届に元妻の承諾が欠けている事並びに離婚に至る理由が夫側の一方的な主観で書かれている事。
そして伯爵に都合のいいように書かれていて尚、元妻側に同情を禁じ得ないような身勝手さがまざまざと浮かび上がっている事が挙げられるが彼はそれに気づいていなかった。
法的な離婚は済んでいる。こちらはディアナを追い出した際にシシリーが抜け目なく国に提出する書類にサインをさせていたからだ。
長く連れ添った妻だ。更にその妻はあのプライドの高いディアナである。離婚にもそう簡単に同意はしないだろう。
妊娠したシシリーにそう告げた所、彼女は大きな瞳を潤ませながらこう言ったのだ。
「伯爵様、私の為に悪者になっていただけますか……?」
そう震えながら縋るように言われ、ロバートは唯々諾々と年の離れた新妻に従った。
彼女の立てた作戦通り、二人で厳しい言葉を投げつけプライドをへし折ったディアナはスムーズに離婚に同意してくれた。
ディアナは幼馴染で子供の頃からの付き合いのある女だ。寂しさや申し訳なさを感じない訳ではない。
けれど彼女はシシリーと違う。シシリーは己がいなければ生きていけないが彼女はまあ、大丈夫だろう。
元々貴族の生まれで衣食住には不自由していない、更に自分が誠意として渡した慰謝料もある。
プライドが高く口だって達者な強い女だ。もういい年だし離婚されたことも割り切って生きていくに違いない。
そう彼女をよく知るロバートは確信しているのだが、教会側はそれを否定するのだ。
「それは全て貴方だけに都合のいい考えですよ、グレイ伯爵」
新しい婚姻に神が祝福をお与えになるとはくれぐれも思わないでくださいね。
不備だらけの届け出を返却に来たのはなんと二人が式を挙げた教会の司祭だった。
彼はロバートの目の前で届を棄却しながら苦々しく言った。
これは到底受理できうるものではありません。
別に教会に認めて貰わなくても法的には離婚は済んでいる。
ただ、認めて貰えないままなら生まれてくる子供は神の祝福を受けられない。
なんて非道な。ロバートは憤るが教会側はそれに対し苦虫を噛み潰した表情で諭すのだ。
私たちは決しておかしなことを申し上げているわけではないのですよ、伯爵。
貴方と貴方が新しく妻にしたい女性が奥様に対して不誠実な態度をとっていることをご両親に堂々と語れますか?
そもそもなぜ奥方様はこの場にいらっしゃるどころか届け出にサインすらされていないのですか。
奥様は本当に『出ていかれた』だけですか?
そこまで言われて流石に無礼だと司祭を追い払ったが、恐らく自体はより厄介な方に転がるだろう。
司祭が帰った後にディアナの実家へサインをして欲しい旨の手紙と一緒に届け出を送ったが全く戻ってこない。
なので催促の使いを送ったがディアナは屋敷にいないという伝言だけを持って帰ってきた。
元妻はいったいどこにをほっつきあるいているのか!
離婚したからといって行動が奔放過ぎる、もっと落ち着いた振る舞いをすべきではないのか。
ロバートがディアナと宮廷で再会するのはこの数日後のことである。
あなたにおすすめの小説
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」