惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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王妃の裁き10

「ねえ、マリア本当にやらかすつもりなの。よりにもよって立太子の儀の前に」

「立太子の儀の前だからよ。ルークの祝いの席に汚物を参列させるなんてまっぴら御免だわ」

「だったら私の方で何とかするわ。身内のことだし」

「性格の悪い義理の妹は兎も角今のロバートは完全に他人でしょ。ほら、背筋シャンと伸ばして堂々といくわよ」


 バシンと小気味のいい音を立ててマリアがディアナの背を張る。

 それが合図のように使用人によって重厚な扉が開かれた。



______



 
 傷が大分癒えたディアナに対し、マリアは元夫たちへの制裁を高らかに宣言した。

 しかし長い夢の旅を経てすっかり自己完結したディアナは当初それを穏便に断った。

 わざわざ自分たちが手を汚す必要はない。彼らの過ちにはいずれ相応の天罰が下るだろうと。

 フォロー司祭はディアナの言葉になんと高潔なと感激していたが王妃は違った。


「自分で殴れる相手への制裁を天に任す?それはただの怠慢よ。神は言っているわ、天罰とか面倒くさいから自分で殴っといてと!」

「マリア、神様のイメージ崩壊させると貴女にも天罰が下るわよ」

「いやいや本当に言っているのよ、私大抵の神様とダチ公だし」


 嘘か本当か分からないが王妃マリアが高位の精霊と心を通わせているのは周知の事実だ。

 実際に神と対話をしていないとは言い切れない。

 そう思わせる立場の人物がこのような事を軽々しく言い出すから質が悪いのだが。

 だが確かに制裁を神任せにするのは良くないのかもしれない。

 ディアナとしては完全に過去の愛は過去の愛として割り切ってしまったが、周囲はそう見ない可能性がある。

 離婚をし独り身になった自分にアレス王子は熱烈なアプローチを仕掛けてきた。

 彼の求愛を受けるかは別として評判の悪い女性に入れあげていれば彼の世間からの評価も下がるのではないだろうか。

 義妹であるイザベラの語る所によるとディアナは若作りに拘泥し夫を支配したがる浪費癖のある悪妻である。最悪だ。

 そこに夫により家を追い出された事実が加わればどれだけ下衆な勘繰りをされてしまうのだろう。

 ロバートの非常識な振る舞いが正当化されてしまうこともあり得るかもしれない。

 最低限その誤解は解き、またそのような風評が広がらぬよう口止めはしておくべきではないか。

 これは復讐ではなく、ある意味戦後処理のようなものである。

 ディアナにとってロバートとの婚姻関係は完全に終わったのだから。

 そう考えて元伯爵夫人は王妃の口車に乗せられたふりをしたのだった。 



「お待たせしたわね」



 王宮内にある会議室には既に数人が座している。

 待たせたことを全く悪いと思っていない口調で王妃は彼らに声をかけた。

 マリアより半歩下がって室内を見渡していたディアナは思わず驚きに声を上げるところだった。

 義妹のイザベラ、元夫のロバートとその新妻。フォロー司祭とマルコー医師。

  そしてなぜかディアナの父であるダナン・フラウセス前伯爵とロバートの父であるジェームズ・グレイ前伯爵が揃い踏みしているのだ。

 ディアナは気まずさに嘔吐しそうになった。ロバートをちらりと見ると顔色が面白いことになっていた。その横の娘は平然としている。大した度胸だ。

 前伯爵は両方とも妻を大分前に亡くしている。それに加えジェームズ前伯爵の方はディアナの父よりも大分高齢だ。

 しかし若い頃はかなりの武勇を誇っていただけあり体格と威厳だけなら今だに息子のロバートを圧倒していた。

 華やかな笑顔を浮かべているマリアにディアナは恐ろしさを感じる。

 よくこんなことを思いつくものだ。いや確かに小さい頃ならわかる。親の前で叱られるのは非常に居心地が悪いものだ。

 しかし三十代を大分過ぎた大人相手にその気まずさを再現しようとは。

 イザベラにとってディアナの父は義理に過ぎないがそれはそれで嫌なものではあるだろう。彼女の夫を招かなかったのは唯一の慈悲だろうか。

 ディアナが考えを巡らせている間にもマリア王妃の爆弾投下は止まらない。


「わざわざお呼び立てしてごめんなさい。ジェームズ伯爵様」


 ディアナの父であるダナン前伯爵の目が光った気がした。いやそりゃそうだろう。
 
 よりにもよってマリアは現伯爵であるロバートがいる場でその父であるジェームズを堂々と伯爵呼ばわりしたのだ。

 しかも王宮に呼びつけて王妃の立場を盛大にアピールしてである。不味いなんてものではない。

 だが抗議すべき立場にあるロバートはおろおろとしているだけで何も言えそうにない。

 恐らく自分がまだ彼の妻なら猛然とマリアに対して意見していただろう。だが彼の現配偶者はひたすら黙して座っているだけだった。

 それは泰然としているというよりは単純に問題点に気づいていない無知さ故の気がしてディアナは首を傾げる。

 どれだけ末席でも貴族の娘ならば、マリアの分かりやすい嫌味に気づかない筈がない。

 あれはひたすらシンプルに『ロバートを伯爵だと思っていない』という宣言に他ならない。

 もしかして、この娘貴族ですらないのか。マリアだって平民から王妃にはなったが平民の立場のままではない。

 爵位持ちの貴族の養子になることで現国王との婚姻が果たされたのだ。

 ディアナは冷たい汗をかいた。元義父であるジェームズはディアナに対し厳しく当たることはなかったが、それはディアナ側の努力もあってのことである。

 彼は己にも他人にも厳しい武人だったと聞く。最悪、自分がジェームズ前伯爵から妊婦である彼女を守らなければいけないかもしれない。胎の子に罪はないのだから。



「家督は十年前に愚息に譲りましたが、王妃はご存じありませんでしたかな?」
 
「ジェームズ様は愚息様の愚息の愚行ぶりをご存じないようですわね」


 じっくり今からお聞かせいたしますわ。

 そう笑顔でえげつないことをのたまうマリアに今すぐこの王妃を雷撃で気絶させるべきかとディアナは心底迷うのだった。


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