惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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王妃の裁き11

 女王のいないこの国で現在最も高位の女性、それがマリアだ。

 そしてその高貴な王妃の発した『愚息様の愚息』という最下級発言にその場にいた者はそれぞれ異なる反応を示した。

 先程扉を開け、今は茶の用意をしていたメイドはくぐもった声を漏らしながら危うく茶器を取り落としかけた。

 我が父、ダナンは阿呆みたいに爆笑していた。伯爵家の品位が疑われるから今すぐ止めて欲しい。

 マルコー医師は涼しい顔で聞き流している。フォロー司祭は何を言っているのかわからないと言った顔だ。

 イザベラは素直にドン引いている。彼女と気が合う日など来ないと思っていたが奇跡は起きた。今この時私と義妹の気持ちは一つだ。

 ロバートはひたすらおろおろしていた。その隣の女性はつまらなそうな表情だ。

 そしてマリアに言い返された元義父のジェームズ。

 これはもう、怒・怒・怒 としか例えられない表情をしている。当たり前だ、彼は軽いジョークすら嫌うのだ。

 前伯爵が本日帯剣してなくて良かったと私は内心胸を撫で下ろした。

 しかしそんな怒りの魔人と化した彼を前にマリアは余裕綽々である。というか恐らくマリアはマリアでボルテージが上がっているのだ。


「…見目だけは麗しき王妃よ。王の伴侶であることを驕ればいずれ断頭台が待っていますぞ」

「ご存じなかったかしら?寧ろ私がこの国の断頭台そのものよ」


 ちょっと待て。会話が血生臭くなる速度が速すぎる。私は焦った。確かにマリアは風魔法の名手だ。

 やろうと思えば野菜だろうと鉄棒だろうと人間の首だろうとスパスパ切り放題だろう。

 でも待って欲しい、二人とも落ち着いて欲しい。この会議場に血を流す必要は別にない。

 私は急いで口を開いた。


「皆さん、とりあえずお茶を飲みましょう!」


 イザベラがこちらを見ている。こんな時に何言ってるんだこいつという台詞がその顔面に張り付いている。

 仕方ないでしょ、ちんたら空気なんて読んでいたら次の瞬間王妃対前伯爵のバトルが始まってもおかしくないのだから。

 それに先程からメイドがお茶を淹れてくれているのだ。少しぎこちない動きが気になるが、この最悪な空気に呑まれているのかもしれない。

 彼女がそれぞれの前にカップと小皿に置いた茶菓子をを配膳する。私はまず賓客たちにそれを勧めた。「嫌です」速攻で断られた。

 発言者はなんと今まで沈黙を守っていたロバートの新配偶者だ。彼女はわざとらしくお腹を撫でながら人形のような表情で言った。


「毒が入っていたら死んでしまいます。私が死んだらお腹の子も死にます。だから私は飲みません」


 場の空気が凍る。

 マリアとジェームズ前伯爵の散らす火花でひりついた熱を瞬時に冷却せしめたのはある意味凄いかもしれない。

 ただ、それを褒めようとは間違っても思わない。だってこれはただの、自殺行為だ。

 私は彼女の前に置かれたティーカップを手に取り一気に中身を喉奥に流し込む。舌が熱湯に痺れた。

 そして空になったカップの代わりに自分のものを彼女を差し出した。


「毒見はしましたわ。お飲みになって」


 私はにっこりと微笑む。マリアが私を睨んでいたが無視した。

 王妃に呼ばれたこの場所で供された飲み物をあのような理由で断れば、正直それだけで罪人扱いできる。

 ただ私はそんな理由でこの女が裁かれるのはどうしても気に食わなかった。

 彼女よりは場の空気を読めているロバートが必死に妻に対し口をつける様に促している。

 ジェームズ前伯爵も先程の怒気を納め事の成り行きを見守っているようだった。

 女はそれでもカップに口をつけない。

 安心なさって。私は重ねて言った。


「貴女の命をどうにかする気なら、あの場でロバートごと消し炭にしていたわ」


 雷に打たれた木をご覧になったことはあるかしら。

 私の台詞に悲鳴を上げたのは彼女の夫の方だった。

 助け船のように、医者のいる場所で毒なんて使う間抜けがおるかのとマルコー医師が不思議そうに言う。

 彼女は私を睨みながらようやく一口飲んだ。


「……苦いわ」


 王妃のお茶をこの小娘が不味いと言い出さなくて良かったとだけ私は思った。

 彼女の断頭台の刃はそれはもう鋭利なのだ。


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