26 / 99
王妃の裁き15
チリ、と髪の先が焼けるような感覚がした。
誰かがこの場で炎魔法を発動させた。気づいた時には目の前にメイドの背中があった。
私を守ろうとしている、そう察した瞬間私は叫んだ。
「違う!」
この憎しみの炎は、何者かを焼き滅ぼそうとする狂気は私に向けられたものではない。
魔法の発動者、ジェームズ前伯爵が屠ろうとしているのは。
シシリーだ。
彼は紅蓮の炎を自らの右腕に纏わせて彼女に殴りかかろうとしていた。
炎の出力が異常だ、腕を中心に紅蓮の竜巻のように燃え盛っている。あんなのを当てられたら火達磨だ。
舌打ちをしながらマリアが風魔法を発動するのが分かった。
「マリア炎に風は不味いわ、下手したら延焼するわよ!」
「違うわよ、鎌鼬で腕を切り落とすの!!」
緊張で真っ青になった顔でマリアは私に叫び返した。
風を刃として使うつもりか。私は彼女の集中をこれ以上妨げない為口を噤んだ。
そんな私たちの間をのんびりとした声が通り過ぎていく。
「いやいや、王妃の御力を汚すことはござらんよ」
通り過ぎていったのは声だけではない。
振り向いて見た父の手には空のカップが握られている。
そしてその視線の先を追えば氷の刃を存分に纏ったティーソーサーが義父の腕に食い込んでいた。
キドニーパイを切り分けるよりも余程容易く男の腕を切り落とした刃はブーメランの様に父のところに戻っていく。
術者から切り離された腕から炎が消える。魔力の供給が絶えたからだ。
私は安堵の息を漏らしたが次の瞬間唾を飲み込んだ。
「ああ……」
何かを惜しむような声を漏らしたのはマルコー医師だろうか。
床に落ちたジェームズ前伯爵の腕は衝撃に負けボロボロと砕けていた。
これではどれだけの名医だろうと再生は難しいだろう。
落とした腕だけでなく、その傷口の方も凍らせたのは父のせめてもの慈悲だろうか。
失血死を免れた義父の顔色は死人のように真っ白だった。
「ダナン……俺は」
「子を弄ばれて憤るは貴様ばかりでないぞ、ジェームズ」
ティーソーサーに空のカップを置いて父が言う。抜き身の刃のような鋭さが存在していた。
ジェームズ前伯爵はその言葉に目を見開き、そして唇を血が出るまで噛みしめる。
そして再び父を見つめると、間違えたかのように首を振って今度は私を見据えた。
「…ディアナ嬢、許されないことをした。息子の罪はこの老いぼれの命で償おう」
「…ジェームズ前伯爵、貴方が償うのは今犯した貴方の罪ですわ」
ロバートと貴方は別の人間です。私はそう言ってジェームズ前伯爵から目を逸らす。
視線の先では老人のような髪色になりながらも自分の妻を庇うように抱きしめている元夫の姿があった。
償いというなら、義父があの二人を殺すことこそが私への償いとなったのかもしれない。
それはもしかしたら先程訪れたかもしれない結末の一つだ。
けれど私はあの時、心からそれを望んだろうか。
気付いたら私のことをマルコー医師が物言いたげに見ていた。
どうか職務を全うなさってください、私が告げると安心したように元義父の所へ足を運ぶ。
偽善者なのだろうか私は。違う、他人の死を背負うのが怖いだけだ。
マリアがひどく疲れた声で、甘いものが食べたいと言った。
同感だわと私は答えた。
誰かがこの場で炎魔法を発動させた。気づいた時には目の前にメイドの背中があった。
私を守ろうとしている、そう察した瞬間私は叫んだ。
「違う!」
この憎しみの炎は、何者かを焼き滅ぼそうとする狂気は私に向けられたものではない。
魔法の発動者、ジェームズ前伯爵が屠ろうとしているのは。
シシリーだ。
彼は紅蓮の炎を自らの右腕に纏わせて彼女に殴りかかろうとしていた。
炎の出力が異常だ、腕を中心に紅蓮の竜巻のように燃え盛っている。あんなのを当てられたら火達磨だ。
舌打ちをしながらマリアが風魔法を発動するのが分かった。
「マリア炎に風は不味いわ、下手したら延焼するわよ!」
「違うわよ、鎌鼬で腕を切り落とすの!!」
緊張で真っ青になった顔でマリアは私に叫び返した。
風を刃として使うつもりか。私は彼女の集中をこれ以上妨げない為口を噤んだ。
そんな私たちの間をのんびりとした声が通り過ぎていく。
「いやいや、王妃の御力を汚すことはござらんよ」
通り過ぎていったのは声だけではない。
振り向いて見た父の手には空のカップが握られている。
そしてその視線の先を追えば氷の刃を存分に纏ったティーソーサーが義父の腕に食い込んでいた。
キドニーパイを切り分けるよりも余程容易く男の腕を切り落とした刃はブーメランの様に父のところに戻っていく。
術者から切り離された腕から炎が消える。魔力の供給が絶えたからだ。
私は安堵の息を漏らしたが次の瞬間唾を飲み込んだ。
「ああ……」
何かを惜しむような声を漏らしたのはマルコー医師だろうか。
床に落ちたジェームズ前伯爵の腕は衝撃に負けボロボロと砕けていた。
これではどれだけの名医だろうと再生は難しいだろう。
落とした腕だけでなく、その傷口の方も凍らせたのは父のせめてもの慈悲だろうか。
失血死を免れた義父の顔色は死人のように真っ白だった。
「ダナン……俺は」
「子を弄ばれて憤るは貴様ばかりでないぞ、ジェームズ」
ティーソーサーに空のカップを置いて父が言う。抜き身の刃のような鋭さが存在していた。
ジェームズ前伯爵はその言葉に目を見開き、そして唇を血が出るまで噛みしめる。
そして再び父を見つめると、間違えたかのように首を振って今度は私を見据えた。
「…ディアナ嬢、許されないことをした。息子の罪はこの老いぼれの命で償おう」
「…ジェームズ前伯爵、貴方が償うのは今犯した貴方の罪ですわ」
ロバートと貴方は別の人間です。私はそう言ってジェームズ前伯爵から目を逸らす。
視線の先では老人のような髪色になりながらも自分の妻を庇うように抱きしめている元夫の姿があった。
償いというなら、義父があの二人を殺すことこそが私への償いとなったのかもしれない。
それはもしかしたら先程訪れたかもしれない結末の一つだ。
けれど私はあの時、心からそれを望んだろうか。
気付いたら私のことをマルコー医師が物言いたげに見ていた。
どうか職務を全うなさってください、私が告げると安心したように元義父の所へ足を運ぶ。
偽善者なのだろうか私は。違う、他人の死を背負うのが怖いだけだ。
マリアがひどく疲れた声で、甘いものが食べたいと言った。
同感だわと私は答えた。
あなたにおすすめの小説
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」