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王妃の裁き17

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「質問です。私を悪の伯爵夫人と呼んでるのは貴女以外に誰?」

「誰ってみんなあ゛あ゛あ゛あ゛」

「皆なんて人間はいません、ちゃんと名前を言いなさい」

「ね゛、ね゛えさま、ね゛えさまたちです」

「姉様…というとそちらのドロテアさんとアザレアさんのことかしら」

「ぞ、ぞうです…もう、やめて…」

「皆ってことだから当然その二人だけではないわよね?他の人の名前を教えて」

「ぎゃあああ…じ、知りません、あっ、ししり…痛い痛いいたいぃぃ」

「知らないじゃないでしょ、貴女の頭と耳に問いかけなさい。他に誰が貴女に私の悪口を吹き込んでいたのかを」

「ぎ、ぎいてないです、二人から以外、聞いてないですっ!!」

「まあ、たった二人しか言ってなかった事をあれだけ自信満々に私に話して聞かせたの?」

「ごめんなざい、ごめんなざい、ごめんなざいっ」

「駄目よ、悪い子ねイザベラ。貴女は軽率過ぎるから痛みで躾ける必要があります。三百秒数えなさい」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛いや゛あ゛あ゛あ゛」


 最初は言葉だけで話し合いをしようとは思った。

 けれどとうの昔に成人しているのに小娘を通り越して幼女のように感情と思い込みだけで騒ぐイザベラに私は早々に匙を投げた。

 人を悪の伯爵夫人だと決めつけて罵倒するなら彼女のリクエストにお応えするのもいいだろう。

 というわけで久しぶりにマリア以外に対して『毒薔薇令嬢』時代のスキンシップを本格的に行うことにした。

 流石にこの義妹相手に抱擁をするのはぞっとしないので、私は彼女の手首を優しく両の手で包むようにして雷撃を流してあげた。

 今回は腕の血管を大量のフォークでグサグサと刺され続ける程度の痛みに調整している。痛みに慣れないように時々威力は弱める。

 当然イザベラは私の握手から全力で逃げようと抗ったが、逆らおうとする度に痛みのレベルを上げていった。  

 雷撃の威力を激痛だが気絶はしない程度に留め私はイザベラに質問をする。

 泣きじゃくりながら話すので聞き取りづらいが先程よりもぐっと会話らしくなった。

 いいことだと思う。


「いやー相変わらず、相変わらず…えっぐいわね……」

「そんなことないわよ、この娘が大袈裟に騒いでいるだけだわ」

「体に雷撃流されて悲鳴上げない人間の方が希少だと思うけど」


 王妃自ら盆に載せた菓子と茶を持参してきたマリアは、扉を開けて室内の光景を見るなり『懐かしえぐい』と言い放った。

 王族のみ使える魔法鍵があるからといってノックもせずに入るのは品がないと私は彼女に注意した。

 私の城なんだけどと唇を尖らせたので一般常識の話をしていると更に叱った。他人の城で拷問を始める方が余程一般常識がないと言い返された。

 拷問ではない、円滑な話し合いの為の準備体操をしているだけだと私が言うと失禁だけはさせないでねと溜息を吐いてマリアは風を利用した防音魔法を発動させた。 

 そして今は空いている椅子に座ってクッキーをボリバリと食べながら観客の立場を決め込んでいる。

 マリアのそんな姿を見ていると確かに学生時代に戻ったようで懐かしいと私も感じた。 

 生徒時代、マリア程でもないが私もそれなりに校内で陰口を叩かれたことがある。

 私を嫌いな人間が私を悪く思うのは勝手だが出鱈目を事実のように吹聴するのには辟易したし腹が立った。

 なので時折このように犯人を捕まえては心から反省するまで話し合いをいたしたりしたのだ。

 当然その時交わされた会話は口外厳禁である。当事者だけの秘め事だ。死んでも誰にも話さないと誓わせるレベルまで言葉を尽くすのがコツだ。  

 学園生活の後半は何故か私とマリアが爛れた関係であると吹聴する連中が出て来たので、マリアも私の話し合いに同伴していたのだ。

 しかしイザベラの悲鳴にはどこか聞き覚えがある。まあ気のせいだろうと私はそれを流した。


「後遺症が残らない程度に雷の出力は抑えているわ。もう少し強くすれば鼓膜に穴は開くかもしれないけど」

「いやあ゛あ゛あ゛おねがいっ、なんでもするからぁっ、ころさないでぇっ」

「もう大袈裟ね、私が貴女を殺す筈ないじゃないイザベラ」


 私は雷撃を放つ手を止めてにっこりと義妹に微笑んだ。

 その笑顔に許されたと思ったのか彼女は目に見えて安堵した表情を浮かべた。鼻汁が口にまで垂れている。

 この素直さ、この単純さ。この浅はかさ。義姉として心配になる。


「だって、殺したらもう二度と痛めつけることが出来なくなるでしょう。勿体ないわ。人間命あってこそよ」


 はい、あと五百秒頑張りましょうね。そうしてすっかり良い子になったら話し合いの続きをしましょう。

 数が増えてるぅと涙をぼろぼろ零す義妹に泣けば泣くほど痛みは増すわよと教えてあげる。

 イザベラは氷属性なのだから、いっそ大量に泣いてその涙で手の表面を完璧に凍らせればこの程度の雷なら防げるかもしれない。

 ただそんなことを考え実行できる娘なら今私にこのように雷撃を流されてはいないだろう。


「ねえディアナ、私も後で貴女の義妹さんに質問していい?」

「いいわよ」

「じゃあお仕置きしている間に聞くこと纏めておくわね」


 私がマリアと会話をしていると、唐突にイザベラが割り込んでくる。

 あれだけ泣き叫んでいたのに元気なものだ。彼女は縋るような目でマリアに叫んだ。
 

「王妃様、マリア様、私をお助けくださいっ!!」

「え、なんで?」


 割と素の反応で返されてイザベラは本当に絶望した顔をした。

 雷撃を流すのは四百秒だけにしてあげようかと私は思った。 


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