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王妃の裁き19
「ああもう、腹が立つわ。妊婦じゃなければ幾らでも茨の籠手をお見舞いするのに」
「厄介なのはそういう此方側の躊躇いを見透かしてまんまと利用されてるって事よね」
出血はシシリーの真っ赤な嘘だった。それを知った私は当然彼女に問い質しに行こうとした。
しかしそれを止めたのはマリアだ。彼女は適当な空き部屋に私を連れ込んで言った。
彼女はかなりの曲者だわ、冷静になってから会った方がいい。
確かにそうかもしれない。
殺されかけたあの場で即「出血している」なんて嘘をついて逃げ出して見せるぐらいには大胆で狡猾だ。
今後も彼女は自分が妊婦であることを大いに利用するだろう。いやもしかしたらもっと前からか。私はマリアに問いかける。
「シシリーがお腹が膨らんでから初めて私の前に姿を見せたのってそういう理由もあるのかしら」
「貴女が噂通りの悪の伯爵夫人なら躊躇せず魔法で攻撃仕掛けそうだけどね」
「馬鹿言わないで、万が一それで子供が流れたら私は重罪人よ」
「それが狙いだったのかもしれない」
「まさか」
そんな計画、折角授かった子供を殺すような物ではないか。有り得ない。
私がそう言うとマリアは少しだけ苦し気な表情を浮かべた。
「貴女は怒るだろうけどね、ディアナ……。自分の為なら子供の命なんてどうでもいいという女はいるのよ」
「…信じられない」
「でもいるのよ」
「許せない、死ねばいい。いいえ、殺してやりたい」
子供の命が要らないなら、私に寄越せばいい。
私はずっと、ずっとずっと欲しかったのに。
腹から湧いてくる闇色の感情に蓋をするようにしてマリアは告げた。
「でもシシリーがそうかは、まだわからない」
「……そうよね」
「ただ彼女がロバートの子でないと気づいた今、どうするつもりなのかは分からないわ」
「本当の父親の元にでも押しかけるんじゃないの、心当たりがあるならね」
「相手は氷属性持ちの貴族の男よね、それで多分カラーリングはロバートと一緒でしょ。騙せると思ってたんだから」
「そこまで特徴があるなら私たちなら絞り込めそうよね、絞り込んでどうするのかって話だけど」
「奥さんが嫌な奴なら本宅にシシリー母子を送り込むとか」
「それって悪の元伯爵夫人たる私に対する嫌味かしら王妃様。…でもその可能性もあるのね」
そうか、これはもしかしたら作為的な物なのかもしれない。
誰かが私が世間に嫌われていると彼女に吹き込んでシシリーに伯爵夫人になれるという夢を見させた可能性はあるのだ。
恐らくイザベラの姉たちの関係者だろう。もしくは姉妹が人を使ってシシリーに情報を届けたのかもしれない。
そして同じぐらい気になるのがロバートとシシリーの出会いだ。
シシリーが私の評判をどこから聞いたのか。
ロバートとシシリーはどういう出会い方をして愛し合うようになったのか。
シシリーはそもそも何者なのか。
この三つの質問だけは確実に聞く必要がある。
私がそう語るとマリアは頷いた。話が纏まった所で部屋から出る。
途端慌ただしく目の前を使用人たちがかけていくのが見えた。
何事なのとマリアがその中の一人を呼び止める。
彼女は相手が王妃だと気づき礼の形を取ろうとしたが「いいから」とマリアに言われ簡潔に理由を告げた。
「女性が、女性が先ほど階段から落ちたのです。命はあるみたいなのですが、妊婦の方で……!!」
嘘でしょう、珍しくマリアの心底狼狽した声が聞こえる。
私は彼女を置いて使用人たちの後を追った。
「厄介なのはそういう此方側の躊躇いを見透かしてまんまと利用されてるって事よね」
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彼女はかなりの曲者だわ、冷静になってから会った方がいい。
確かにそうかもしれない。
殺されかけたあの場で即「出血している」なんて嘘をついて逃げ出して見せるぐらいには大胆で狡猾だ。
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「それが狙いだったのかもしれない」
「まさか」
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「…信じられない」
「でもいるのよ」
「許せない、死ねばいい。いいえ、殺してやりたい」
子供の命が要らないなら、私に寄越せばいい。
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「でもシシリーがそうかは、まだわからない」
「……そうよね」
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