惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

文字の大きさ
33 / 99

王妃の裁き22

 女性の細指とは思えない程、シシリーの力は強かった。

 何よりも悪霊が憑いたようなその表情。

 上げかけた悲鳴を口をきつく閉じて飲み込む。


「よかったぁ、貴女がいなくなる前に、体が動かせるようになって……」

「…体力が回復したなら何よりだわ。今医者が来るからそれまで安静にしているのね」

「いしゃ……?」

 にたりと笑う彼女に出来るだけ平静を装って返す。

 だが、先程からさりげなく外そうとしている指は未だ私に食い込んだままだ。

 雷撃を食らわせる訳にはいかないし、恐らく本人に頼んでも命じてもその手を離すことはないだろう。

 仕方ない、看護士に協力してもらうしかないか。

 私がそう考えていると唐突にシシリーがけたたましく笑いだした。

 その異常な光景に私だけでなく看護士たちも呆気に取られている。


「医者?医者なんて呼んだんですか?私の為に?貴女が?…お綺麗過ぎて本当に反吐が出ますよ!」


 吐きたければ勝手に吐けばいいが医師を呼んだのは私ではない。この城の者だ。

 そう説明しようとしたがシシリーのヒートアップは止まらない。

 子供が駄目になったショックで錯乱しているのかと思ったが、侍女の発言を思い出す。

 シシリーは笑いながら階段から飛び降りたのだと巻き込まれた少女は言っていたのだ。


「…もしかして貴女、死にたかったの?」


 だから生かそうとする行為に、強く反発しているのか。

 しかし私の質問にシシリーは訝しげな表情を返しただけだった。


「死ぬ気なんてありませんわ、但し…元奥様は私を殺したいのかもしれませんけどねぇ」

「勝手な事言わないで。貴女なんて殺す価値もないわ」

「そう、流石貴族様ね。私なんて虫けらにしか見えないのでしょう」

「それもまた勝手な言い分よ。そこまで見下す程の興味すら持ってないわ」

「ふ、ふ、嘘つき」


 私、貴女の表情を覚えていますのよ。シシリーは不気味に笑む。

 彼女の異様な迫力に押されたのか、それとも干渉して暴れられることを危惧したのか。

 看護士達は饒舌に話し続けるシシリーに声をかけることからできないようだった。

 もしかしたら私が人質に取られていると危うんでいるのかもしれない。


「ロバート様に女として失格だと言われた時より、私の膨らんだお腹を見つめていた時の方が奥様貴女、余程かなしそうなお顔をしていた」

「……勝手な想像をしないで」

「貴女の噂なんて嘘ばかり。その時私は気づきました。そう、気づいたの。貴女は子供を欲しくない訳じゃない、寧ろ欲しくてたまらないんだって!!」


 あははははは!!完全にこちらを嘲る笑い声に思わず空いた手で彼女に頬を叩いてしまう。

 それに怒るどころか嬉しげにしながらシシリーは私に詰め寄った。濃い血の匂い。こちらの体まで汚れていきそうだった。


「貴女は誇り高い貴族のお嬢様で、でも下賤な私に出来ることができない。私と違って孕むことも出来ない可哀想な年増女」

「…侮辱が過ぎるわよ」

「私が憎くて堪らないのに貴女は私を傷つけられなかった。暗殺者さえ倒したらしいのに、夫を寝取った私を殴ることすらできなかった」


 お腹の中の子供に障るといけないから。そうシシリーは私から離した手で自らの腹部を撫でる。いとおし気な仕草におぞましさを感じてぞっとした。

 もうその膨らみの中にもう命は存在しないのだ。先程潰えた。


「でも、もうこの子の役割は終わり」


 あっさりと、使った後の塵紙を捨てるような思い入れのなさで母親おんなが言う。

 耳を疑うような台詞だったが、やはりと納得する感情が心の奥底にあった。

 シシリーはやはり腹の子の正体が暴かれたことに絶望して死を選ぼうとした訳ではない。


「ディアナ様、貴女のせいで赤ん坊が一人死ぬことになりました。…貴女が黙っていれば生まれてこられたのにねぇ?」


 私に罪の烙印を、赤子の血で刻みつける為に。

 それだけに我が子を殺したのだった。

 全部、貴女のせいよ!忌々し気に叫ぶ声は悲痛だった。恐らく本当にそう思っているからだろう。

 
 だから私は彼女の首を絞めた。


あなたにおすすめの小説

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」