惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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王妃の裁き22

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 女性の細指とは思えない程、シシリーの力は強かった。

 何よりも悪霊が憑いたようなその表情。

 上げかけた悲鳴を口をきつく閉じて飲み込む。


「よかったぁ、貴女がいなくなる前に、体が動かせるようになって……」

「…体力が回復したなら何よりだわ。今医者が来るからそれまで安静にしているのね」

「いしゃ……?」

 にたりと笑う彼女に出来るだけ平静を装って返す。

 だが、先程からさりげなく外そうとしている指は未だ私に食い込んだままだ。

 雷撃を食らわせる訳にはいかないし、恐らく本人に頼んでも命じてもその手を離すことはないだろう。

 仕方ない、看護士に協力してもらうしかないか。

 私がそう考えていると唐突にシシリーがけたたましく笑いだした。

 その異常な光景に私だけでなく看護士たちも呆気に取られている。


「医者?医者なんて呼んだんですか?私の為に?貴女が?…お綺麗過ぎて本当に反吐が出ますよ!」


 吐きたければ勝手に吐けばいいが医師を呼んだのは私ではない。この城の者だ。

 そう説明しようとしたがシシリーのヒートアップは止まらない。

 子供が駄目になったショックで錯乱しているのかと思ったが、侍女の発言を思い出す。

 シシリーは笑いながら階段から飛び降りたのだと巻き込まれた少女は言っていたのだ。


「…もしかして貴女、死にたかったの?」


 だから生かそうとする行為に、強く反発しているのか。

 しかし私の質問にシシリーは訝しげな表情を返しただけだった。


「死ぬ気なんてありませんわ、但し…元奥様は私を殺したいのかもしれませんけどねぇ」

「勝手な事言わないで。貴女なんて殺す価値もないわ」

「そう、流石貴族様ね。私なんて虫けらにしか見えないのでしょう」

「それもまた勝手な言い分よ。そこまで見下す程の興味すら持ってないわ」

「ふ、ふ、嘘つき」


 私、貴女の表情を覚えていますのよ。シシリーは不気味に笑む。

 彼女の異様な迫力に押されたのか、それとも干渉して暴れられることを危惧したのか。

 看護士達は饒舌に話し続けるシシリーに声をかけることからできないようだった。

 もしかしたら私が人質に取られていると危うんでいるのかもしれない。


「ロバート様に女として失格だと言われた時より、私の膨らんだお腹を見つめていた時の方が奥様貴女、余程かなしそうなお顔をしていた」

「……勝手な想像をしないで」

「貴女の噂なんて嘘ばかり。その時私は気づきました。そう、気づいたの。貴女は子供を欲しくない訳じゃない、寧ろ欲しくてたまらないんだって!!」


 あははははは!!完全にこちらを嘲る笑い声に思わず空いた手で彼女に頬を叩いてしまう。

 それに怒るどころか嬉しげにしながらシシリーは私に詰め寄った。濃い血の匂い。こちらの体まで汚れていきそうだった。


「貴女は誇り高い貴族のお嬢様で、でも下賤な私に出来ることができない。私と違って孕むことも出来ない可哀想な年増女」

「…侮辱が過ぎるわよ」

「私が憎くて堪らないのに貴女は私を傷つけられなかった。暗殺者さえ倒したらしいのに、夫を寝取った私を殴ることすらできなかった」


 お腹の中の子供に障るといけないから。そうシシリーは私から離した手で自らの腹部を撫でる。いとおし気な仕草におぞましさを感じてぞっとした。

 もうその膨らみの中にもう命は存在しないのだ。先程潰えた。


「でも、もうこの子の役割は終わり」


 あっさりと、使った後の塵紙を捨てるような思い入れのなさで母親おんなが言う。

 耳を疑うような台詞だったが、やはりと納得する感情が心の奥底にあった。

 シシリーはやはり腹の子の正体が暴かれたことに絶望して死を選ぼうとした訳ではない。


「ディアナ様、貴女のせいで赤ん坊が一人死ぬことになりました。…貴女が黙っていれば生まれてこられたのにねぇ?」


 私に罪の烙印を、赤子の血で刻みつける為に。

 それだけに我が子を殺したのだった。

 全部、貴女のせいよ!忌々し気に叫ぶ声は悲痛だった。恐らく本当にそう思っているからだろう。

 
 だから私は彼女の首を絞めた。


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