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夢の園のシシリー・上
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「ねえ、お腹が空いたわ」
そんな風に一言口にするだけで、今まで食べたことのない上等なお菓子が私に捧げられる。
この部屋はまるで夢の国みたい。私は綺麗な細工をされたマカロンをくしゃりと頬張りながら思った。
少し前の気分は最悪だった。折角伯爵夫人になれると思ったのに、年増女が逆恨みしてきた。
子供も産めないまま年老いたから捨てられただけなのに、私に侮辱されたなんて大騒ぎしてみっともなかった。
挙句自分の味方ばかり集めた場所に私と、誰だっけ、そうあの女の元夫やその父親たちを呼び出した。
それで私たちのことを詐欺呼ばわりして怒っていた。なんだか小難しい事を言っていたけれど結局私に負けたのが悔しいだけだと思った。
侮辱されたって喚いていたけれど、そういう無駄なプライドの高さで離縁されたのだと思う。
賢ぶる女はみっともないって、私が抱かれたことのある男たちは大抵言っていた。
にっこりと微笑んで、男性の言葉に頷いて、貴方は凄いわって言ってあげられる私の方が余程素晴らしい女だって皆誉めてくれたわ。
「マカロンをもっと頂戴。ラズベリーがいいわ」
でも男の人たちはそれで良いって言ってくれても意地悪な女相手には分が悪かったみたい。
貴族の血を引く子供はお腹の中にいる時から魔力があるなんて、誰も教えてくれなかった。
だから私はあの年増女に口喧嘩で負けてしまった。赤ちゃんはいらなくなったから嫌がらせで下ろした。
本当は娼館で皆がやっているように薬を使ったりお医者さんを呼びたかったけれど、急いでいたから乱暴な方法しかなかった。
もしかしたら死んでしまうかもしれないと思ったけれど私は運がいいから大丈夫な気がした。
昔から仲間の娼婦に考え無しだとか能天気だとか言われていたけれど、でも私は彼女たちの誰よりも娼館で大切にされたし、もう少しで伯爵夫人にだってなれるところだった。
それによく考えたら、赤ちゃんを産んでから父親が違う男の人だってばれた方が危なかったわ。きっと私は伯爵やその恐ろしい父親に殺されてしまったでしょう。
だからやっぱり私は運がいいのよ。あの年増女に首を絞められた時は死ぬかと思ったけれど、そのおかげで王妃からお姫様のような扱いを受けている。
この国で一番のお医者様を用意して王妃は仰った。親友の罪を許して欲しいと。なかったことにしてほしいと。彼女は私の大切な人だからと。
正直女同士でそこまで仲がいいなんて気持ち悪いと思ったけれど、とても都合のいい話が転がり込んできたと思った。
子供を下ろしたばかりの体で娼館には戻れないし、もしかしたら伯爵に殺されてしまうかもしれない。
だから王妃の申し出通り、お城の中で私は匿われて安静にしている。寝て、食べて、退屈になったら吟遊詩人を呼んで綺麗な歌声を堪能する。
きっとこの国のどんな貴族の娘より贅沢な生活よ。
「ねえ、マルスの歌が聞きたいわ」
さっさと呼んできて頂戴。
私は呼び鈴を鳴らして召使にそう命ずる。きっと私よりもいい生まれの彼女は文句も言わず従順に畏まりましたと頭を下げる。
なんて気持ちのいい毎日かしら!
ああ髪を整えさせて化粧もしてもらわなきゃね。私は別の召使を呼ぶためにもう一度卓上のベルを鳴らした。
そんな風に一言口にするだけで、今まで食べたことのない上等なお菓子が私に捧げられる。
この部屋はまるで夢の国みたい。私は綺麗な細工をされたマカロンをくしゃりと頬張りながら思った。
少し前の気分は最悪だった。折角伯爵夫人になれると思ったのに、年増女が逆恨みしてきた。
子供も産めないまま年老いたから捨てられただけなのに、私に侮辱されたなんて大騒ぎしてみっともなかった。
挙句自分の味方ばかり集めた場所に私と、誰だっけ、そうあの女の元夫やその父親たちを呼び出した。
それで私たちのことを詐欺呼ばわりして怒っていた。なんだか小難しい事を言っていたけれど結局私に負けたのが悔しいだけだと思った。
侮辱されたって喚いていたけれど、そういう無駄なプライドの高さで離縁されたのだと思う。
賢ぶる女はみっともないって、私が抱かれたことのある男たちは大抵言っていた。
にっこりと微笑んで、男性の言葉に頷いて、貴方は凄いわって言ってあげられる私の方が余程素晴らしい女だって皆誉めてくれたわ。
「マカロンをもっと頂戴。ラズベリーがいいわ」
でも男の人たちはそれで良いって言ってくれても意地悪な女相手には分が悪かったみたい。
貴族の血を引く子供はお腹の中にいる時から魔力があるなんて、誰も教えてくれなかった。
だから私はあの年増女に口喧嘩で負けてしまった。赤ちゃんはいらなくなったから嫌がらせで下ろした。
本当は娼館で皆がやっているように薬を使ったりお医者さんを呼びたかったけれど、急いでいたから乱暴な方法しかなかった。
もしかしたら死んでしまうかもしれないと思ったけれど私は運がいいから大丈夫な気がした。
昔から仲間の娼婦に考え無しだとか能天気だとか言われていたけれど、でも私は彼女たちの誰よりも娼館で大切にされたし、もう少しで伯爵夫人にだってなれるところだった。
それによく考えたら、赤ちゃんを産んでから父親が違う男の人だってばれた方が危なかったわ。きっと私は伯爵やその恐ろしい父親に殺されてしまったでしょう。
だからやっぱり私は運がいいのよ。あの年増女に首を絞められた時は死ぬかと思ったけれど、そのおかげで王妃からお姫様のような扱いを受けている。
この国で一番のお医者様を用意して王妃は仰った。親友の罪を許して欲しいと。なかったことにしてほしいと。彼女は私の大切な人だからと。
正直女同士でそこまで仲がいいなんて気持ち悪いと思ったけれど、とても都合のいい話が転がり込んできたと思った。
子供を下ろしたばかりの体で娼館には戻れないし、もしかしたら伯爵に殺されてしまうかもしれない。
だから王妃の申し出通り、お城の中で私は匿われて安静にしている。寝て、食べて、退屈になったら吟遊詩人を呼んで綺麗な歌声を堪能する。
きっとこの国のどんな貴族の娘より贅沢な生活よ。
「ねえ、マルスの歌が聞きたいわ」
さっさと呼んできて頂戴。
私は呼び鈴を鳴らして召使にそう命ずる。きっと私よりもいい生まれの彼女は文句も言わず従順に畏まりましたと頭を下げる。
なんて気持ちのいい毎日かしら!
ああ髪を整えさせて化粧もしてもらわなきゃね。私は別の召使を呼ぶためにもう一度卓上のベルを鳴らした。
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