惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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王妃の裁き28

 シシリーの体調が回復したので前回の仕切り直しを行う。

 そうマリアから通達が来たので私は久し振りに王城へと赴いた。

 今回は父とイザベラは一緒に来ない。グレイ伯爵家も呼ばれているのはロバートだけだ。

 自業自得とはいえ身も心もボロボロになった彼が一人で城まで辿り着けるのかが非情に不安ではあるが。

 ジェームズ前伯爵とシシリーを会わせた場合、また怒りが再燃し凶行に及ぶ可能性がある。

 もし息子に同伴して来たとしてもそれこそ門前払いされる筈だ。

 私は馬車から降りると慣れた足取りで王宮へと歩を進めた。

 その際に御者が私の格好を見て物言いたげにしていたが何も言ってこなかったので無視をした。

 そして今城内で擦れ違う者たちも大体が怪訝そうな顔をして私に頭を下げるのだ。

 当然と言えば当然だろう。私は今薄灰色のドレスを身に纏っている。簡単に言えば罪人の衣装だ。

 かなり昔にあつらえさせた物だが無事着られてよかった。少し腰回りがきついのがショックだったが、着られたから勝ちだと思っておく。

 過去の私に肌質は兎も角まだスタイルは負けていない筈だ。そう思いたい。

 途中でマルコー医師とばったり会う。いや恐らく彼も同じ部屋に呼ばれているのだ。女性の看護師を二人連れていた。

 何となく見覚えがある。彼女たちも私のドレスの色を見て驚いた表情を浮かべたがマルコー医師だけは朗らかな笑顔を崩さなかった。


「ほっほ、ディアナ嬢。またマリア王妃と殴り合いの喧嘩でもしましたかな?」

「しておりません!」

「懐かしいですな、そのごめんなさいドレス」

「罪人用ドレスをハートウォームな名称で呼び変えるのはおよしになってください!」


 己の昔の振る舞いを知っているお年寄りと言うのはまっこと厄介な存在である。特に恥の部分まで丹念に知られている人物はラスボス級の脅威だ。

 彼の発言のせいで先程まで私の異装を緊張感を持って見つめていた女性看護師たちもすっかりリラックスしてしまっている。

 でも冷静に考えて欲しい。王妃との殴り合いも結構な重罪だということを。というか私は当時彼女を一方的に手加減なしで殴った。普通に死罪である。

 なのに当のマリアも手当をしたマルコー医師もこの調子だ。寧ろマリアにいたっては「私達の関係ってやっぱりこれよね!!」と頻繁なファイティングを要求するようになってきた。

 徐々にそれに慣らされ数十年今では学生時代のように普通にマリアに対して雷撃を流すなどしているが、冷静に考えるとやはり異常だ。


「王妃とのじゃれあいも結構ですが儂が治癒できる程度で頼みますぞ」

「程度の問題ではないと思いますわマルコー先生」

「そういやディアナ嬢の雷魔法を受けると肩凝りが非常に和らぐというのは本当ですかのう」

「そんな健康魔法の使い手になった覚えはないですわ……」


 駄目だ。これ以上彼と話していると私からも緊張感が失われてしまう。私は足早にマルコー医師から遠ざかった。

 あのまま場に留まれば多分マルコー医師を始め看護師たちに心地いい程度の雷魔法を施術する羽目になってしまう。肩凝りが和らぐという台詞で女性たち二人の目が猛禽類になったことを私は見逃さなかった。

 急ぎ足でヒールを鳴らし続けていく内に私は冷静さと沈痛な感情を取り戻す。今日裁きを受けるのはシシリーだけではない。シシリーを殺めかけた私自身もだ。

 マリアに対しても友人ではなく、臣下の立場を強く前面に出して接しなければいけない。

 そう考えていると正面に王妃本人の後ろ姿が見えた。あの蜂蜜色の豪奢な髪はマリア以外に有り得ない。

 しかし扉にぺたりと張り付いて何をしているのだろう。隣に困惑顔のアレス王子が立っていなければ完全に不審者だ。今の姿でも不審者の基準は十分に満たしている。


「何をしていらっしゃるのですか、マリア王妃」


 私は彼女から若干距離を取り声をかけた。あまり近くで話しかけると扉の向こうに声が聞こえてしまうかもしれないという配慮だ。

 王妃は声に反応し振り向くと無言で私を手招きした。罪人用ドレスに対して一切の感想はなかった。付き合いの長さで私の思考など駄々洩れなのだろう。

 彼女が体を離した為空いたスペースにやはりジェスチャーで入れと言われる。扉の中央。少し背伸びをすると覗ける部分には穴が開いていた。

 流石に今開けたものではなく元々施工されていたものだ、外から中にいる客人の姿を確認する為のものである。

 使用人たちはこれを使って客人の数に合った茶器や菓子を用意できているかを確かめることが出来るのだ。

 そう発案者のマリアは主張していたが絶対言い訳である。現に今全く別の意図で覗き穴を利用していた。

 私も同じようにしろと無言で迫られ渋々レンズに焦点を当てる。最初は目が混乱したが慣れると部屋の中が把握できるようになる。

 その結果として私は更に混乱することになった。

 何かはいる。ソファーに腰かけているのが一人いる。いや、一人か。菓子を両手で掴みながらむしゃむしゃと口らしき部分に詰め込んでいる何かを人間を扱いしていいのか。

 成人女性四人は楽に座れそうなソファーに「助けてください」と言わせてそうなあの巨体は人型モンスター、恐らくは変異種の肌色トロールではないだろうか。

 うんざりした顔で菓子を手渡し続けるメイドの女性の救出も急いだほうがいいかもしれない。菓子が切れたら彼女が食べられてしまう恐れがある。

 多分服を着せられているのだと思うが、服と自信をもって判断できる表面積ではない。布の色合い的にあの生物は雌だろうか。

 身長は恐らく私と変わらない程度だろうが片足がこちらの胴体ぐらいである。

 食べ物を運んでいる事から人間の顔面に相当すると思われる箇所の中央に存在する目鼻口らしきものに見覚えがある気がする。


「フフフ…私が全力で育てたシシリーよ。いつでも出荷できるわ」


 後ろからひそやかに囁かれ私は色々な意味で悲鳴を上げそうになった。振り向いて見つめたマリアは何故か得意げな表情を浮かべている。

 いやどう見ても育成失敗だろう。人間を魔物にしてどうする。邪教の女教主か。

 しかし私も彼女と長い付き合いだからこそわかる。やりきったと言わんばかりのその表情の中に戸惑いが隠しきれていないということを。


「いや、やり過ぎでしょうよ」

「うん…育て過ぎちゃった。次回から気を付けるわ」

「次回などないわ」


 育成失敗に対し落ち込みを見せるマリアは幼い少女のように庇護欲を掻き立てる雰囲気を纏っていたが出した結果は極悪極まりないものである。

 私は扉から離れ廊下の隅で彼女と額を突き合わせこそこそ話をする。アレス王子には見張りに立ってもらった。

 とりあえず、ロバートが来たら部屋に突っ込んで様子を見よう。部屋の中の存在との対話が可能なら私たちも合流することにする。

 打ち合わせ終了後、私は彼女に恐る恐る質問をする。有り得ないと思うが念の為だ。


「マリア、貴女…もしかしてあれをペットにするつもりじゃ、ないわよね?」


 もし頷かれたら国外逃亡してでもこの王妃と絶縁しよう。幸いにも私の決意が実行されることはなかった。

 そして到着後速やかにトロール部屋に突っ込まれたロバートは気絶した。せめて会話してから戦線離脱して欲しかった。 


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告知が大分遅れましたがアルファポリス様の恋愛小説大賞にエントリーさせて頂いております。
この作品を気に入っていただけたら投票くださると幸いです。(~2/29まで)

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