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王妃の裁き31
ディアナに愛されるのは覚悟がいる事になるかもしれない。
そう母から真剣な顔で言い渡されたのはアレスが襲われる事件があったすぐ後だった。
彼女は己がディアナに長く片想いをし続けていた事を知っている。
だからと言って友人夫婦の関係を壊してまで息子の想いを優先させる、そんな親ではマリア王妃はなかった。
そしてアレス自身もディアナの不幸を望んではいなかった為、長くその恋は家族以外に知られずにいた。
けれど彼女の夫であるロバート伯爵がある日突然その関係を一方的に破棄した。
その時に積極的に息子の背を押したのはマリアだった。
配偶者に屋敷を追い出され自尊心が傷つけられている今ならば年の離れた彼からの求愛を受け入れるかもしれない。
そう母に告げられた時アレスは、そのような弱みにつけ込む真似はしたくないと断った。
けれどマリアはそれをせせら笑った。傷心から回復したディアナは今後は自分の力だけで生きていくだろう。
そしてもう二度と異性に心を開くことはない。臆病さと誇り高さ、それを奇妙に併せ持つそれがディアナなのだからと。
何よりも、お前は傷ついた彼女に寄り添いその傷を癒したくはないのか?
そう母に問われアレスは自らのプライドを捨てた。たとえ一時の気の迷いだとしても、彼女に近づきたい。
そして貴女を捨てた伯爵よりもずっと今の貴女を愛している男はこの世界にいるのだと告げたいと思った。
誇り高い淑女が傷を隠してしまう前にその想いだけは胸に届けたい、そうアレスは決心した。
だが元々打ち明ける予定のなかった恋心、ディアナへのアプローチなど全く想定していない。
母親の玩具にされているのではという疑念もあったが指示通りに強引な男を演じてディアナに迫った。
文字通り手痛い反撃を受けてアレスは気絶した。けれど易々と男の思い通りにならない強さと気高さはアレスの憧れどおりだった。
美しい、薔薇のような人。その刺々しさを奇妙な喜びとともに受け入れてアレスは激痛に意識を散らした。
そして次に目覚めた時ディアナは大怪我を負って昏睡状態にあった。刃物を持った相手からアレスを庇って戦った結果だと説明された。
愛する人がそのような目に遭っている時に眠り続けた自分の不甲斐なさに胸が張り裂けそうだった。
彼女のすべすべした美しかった手が傷一つなく治癒されるようマルコー医師に必死に頭を下げた。
そんな彼をマリア王妃は自室に呼んだ。そして真剣な顔でディアナへの恋についてどうするかを尋ねてきた。
答えは一度逡巡した際に決まっている。アレスはディアナを愛したいと母に告げた。
けれどマリアはその返答に対し思い悩むような表情を見せた。それは息子であるアレスも初めて見る表情だった。
ディアナを愛することは許されるだろう。長い沈黙の後母はそう言った。
許されるとは一体誰にだろう。ディアナ本人にだろうか。アレスが問うとマリアは首を振った。
ロバートは契約する『前』だから許された。ただ今後の身の振り方で罰は受けるかもしれない。
なぜか急にディアナの前夫の名前を出されアレスは困惑する。そんな息子にマリアは決心したように告げた。
「ディアナは厄介な存在に気に入られたわ。強くて我儘で一般常識など通用しない存在に」
だから今後、彼女を手酷く傷つける人間が現れた場合天罰が下るかもしれない。
そう重々しく告げられアレスが真っ先に浮かべたのは目の前の王妃の顔だった。
強くて我儘で一般常識の通用しない存在。成程見事に当てはまる。
それにそもそもアレスはディアナを傷つけるつもりなど毛頭なかった。当然だ彼女を愛しているのだから。
けれどマリアは息子の力強い返答に少しだけ悲し気な目をした。
「昔のロバートなら同じようなことを言うかもしれない」
人は変わるわ。そう寂し気に言う母に変わった時は滅ぼしてもらって構わないとアレスは告げる。
ディアナを心変わりで傷つけるような己などこの世界に必要ないと、アレスは自らが庇護を受けている神の名に誓って宣言した。
それでもマリアはアレスを試した。
彼女の持つ魔法道具をアレスに渡し侍女の姿に化けさせるとディアナに無断で離婚騒動の場に居させた。
ロバートの見苦しさはディアナはこの男のどこがよくて夫婦になったのだろうと思う程だった。
そしてその中でディアナはロバートの連れてきた愛人の腹の子の父親が彼ではないと公開した。
その時の彼女はアレスに見せたことのない刺々しく冷酷な表情をしていた。氷の女神が乗り移ったのかと思う程に。
そしてシシリーの自傷により一旦場は解散された。その後にマリアは息子を再度呼び出した。
「貴方の知らなかったディアナを見てまだ愛せる?」
アレスは迷いなく頷いた。そして今日マリアは再度アレスを呼び出した。
貴方への確認はこれで最後になるかもしれない。けれどそうはならないかもしれない。
すべてはあの男の愚かさ次第。そう言われた日、城に訪れたのはロバートだった。
茶を用意するようにと言われて一旦彼やディアナから遠ざけられる。
それはつまりアレスとしてではなく再度変装して戻って来いという意味なのだろう。
元夫を前にしたディアナを息子に観察させる為に。
しかし不思議なのはマリアがそうやってアレスを何度も試そうとすることだった。
まるでディアナに対して幻滅してしまえばいいとでもいうように。それは当初の母の姿勢から酷く矛盾していた。
いや違う。恐らくマリアはアレスの恋の炎を消そうとしているのではない。入念にその覚悟を試そうとしているのだ。
しかし、何のために。
そう何度目かの疑問をアレスが頭に浮かべた時それは起きた。
城が揺れたと錯覚するほどの轟音、そして何よりも雷に打たれたようなこの凄まじい魔力の放出は。
アレスは茶器を投げ捨て駆け出す。ディアナたちの部屋に近づけば近付く程足は竦みそうになる。鳥肌は立ちっぱなしだ。
他人よりも魔力量の多いアレスだからこそわかる。これは人の持つ魔力ではないということを。
「強くて、我儘で、一般常識の通用しない存在ってこれかよ……!!」
そんなのは当然だ。人外の存在に人の常識など通用しない。
しかし何故。
なぜ今この城に 神 が 降臨した?
アレスはその疑問の答えを得る為、何よりも愛する人の安否を確認する為ディアナの元へ全速力で駆けた。
そう母から真剣な顔で言い渡されたのはアレスが襲われる事件があったすぐ後だった。
彼女は己がディアナに長く片想いをし続けていた事を知っている。
だからと言って友人夫婦の関係を壊してまで息子の想いを優先させる、そんな親ではマリア王妃はなかった。
そしてアレス自身もディアナの不幸を望んではいなかった為、長くその恋は家族以外に知られずにいた。
けれど彼女の夫であるロバート伯爵がある日突然その関係を一方的に破棄した。
その時に積極的に息子の背を押したのはマリアだった。
配偶者に屋敷を追い出され自尊心が傷つけられている今ならば年の離れた彼からの求愛を受け入れるかもしれない。
そう母に告げられた時アレスは、そのような弱みにつけ込む真似はしたくないと断った。
けれどマリアはそれをせせら笑った。傷心から回復したディアナは今後は自分の力だけで生きていくだろう。
そしてもう二度と異性に心を開くことはない。臆病さと誇り高さ、それを奇妙に併せ持つそれがディアナなのだからと。
何よりも、お前は傷ついた彼女に寄り添いその傷を癒したくはないのか?
そう母に問われアレスは自らのプライドを捨てた。たとえ一時の気の迷いだとしても、彼女に近づきたい。
そして貴女を捨てた伯爵よりもずっと今の貴女を愛している男はこの世界にいるのだと告げたいと思った。
誇り高い淑女が傷を隠してしまう前にその想いだけは胸に届けたい、そうアレスは決心した。
だが元々打ち明ける予定のなかった恋心、ディアナへのアプローチなど全く想定していない。
母親の玩具にされているのではという疑念もあったが指示通りに強引な男を演じてディアナに迫った。
文字通り手痛い反撃を受けてアレスは気絶した。けれど易々と男の思い通りにならない強さと気高さはアレスの憧れどおりだった。
美しい、薔薇のような人。その刺々しさを奇妙な喜びとともに受け入れてアレスは激痛に意識を散らした。
そして次に目覚めた時ディアナは大怪我を負って昏睡状態にあった。刃物を持った相手からアレスを庇って戦った結果だと説明された。
愛する人がそのような目に遭っている時に眠り続けた自分の不甲斐なさに胸が張り裂けそうだった。
彼女のすべすべした美しかった手が傷一つなく治癒されるようマルコー医師に必死に頭を下げた。
そんな彼をマリア王妃は自室に呼んだ。そして真剣な顔でディアナへの恋についてどうするかを尋ねてきた。
答えは一度逡巡した際に決まっている。アレスはディアナを愛したいと母に告げた。
けれどマリアはその返答に対し思い悩むような表情を見せた。それは息子であるアレスも初めて見る表情だった。
ディアナを愛することは許されるだろう。長い沈黙の後母はそう言った。
許されるとは一体誰にだろう。ディアナ本人にだろうか。アレスが問うとマリアは首を振った。
ロバートは契約する『前』だから許された。ただ今後の身の振り方で罰は受けるかもしれない。
なぜか急にディアナの前夫の名前を出されアレスは困惑する。そんな息子にマリアは決心したように告げた。
「ディアナは厄介な存在に気に入られたわ。強くて我儘で一般常識など通用しない存在に」
だから今後、彼女を手酷く傷つける人間が現れた場合天罰が下るかもしれない。
そう重々しく告げられアレスが真っ先に浮かべたのは目の前の王妃の顔だった。
強くて我儘で一般常識の通用しない存在。成程見事に当てはまる。
それにそもそもアレスはディアナを傷つけるつもりなど毛頭なかった。当然だ彼女を愛しているのだから。
けれどマリアは息子の力強い返答に少しだけ悲し気な目をした。
「昔のロバートなら同じようなことを言うかもしれない」
人は変わるわ。そう寂し気に言う母に変わった時は滅ぼしてもらって構わないとアレスは告げる。
ディアナを心変わりで傷つけるような己などこの世界に必要ないと、アレスは自らが庇護を受けている神の名に誓って宣言した。
それでもマリアはアレスを試した。
彼女の持つ魔法道具をアレスに渡し侍女の姿に化けさせるとディアナに無断で離婚騒動の場に居させた。
ロバートの見苦しさはディアナはこの男のどこがよくて夫婦になったのだろうと思う程だった。
そしてその中でディアナはロバートの連れてきた愛人の腹の子の父親が彼ではないと公開した。
その時の彼女はアレスに見せたことのない刺々しく冷酷な表情をしていた。氷の女神が乗り移ったのかと思う程に。
そしてシシリーの自傷により一旦場は解散された。その後にマリアは息子を再度呼び出した。
「貴方の知らなかったディアナを見てまだ愛せる?」
アレスは迷いなく頷いた。そして今日マリアは再度アレスを呼び出した。
貴方への確認はこれで最後になるかもしれない。けれどそうはならないかもしれない。
すべてはあの男の愚かさ次第。そう言われた日、城に訪れたのはロバートだった。
茶を用意するようにと言われて一旦彼やディアナから遠ざけられる。
それはつまりアレスとしてではなく再度変装して戻って来いという意味なのだろう。
元夫を前にしたディアナを息子に観察させる為に。
しかし不思議なのはマリアがそうやってアレスを何度も試そうとすることだった。
まるでディアナに対して幻滅してしまえばいいとでもいうように。それは当初の母の姿勢から酷く矛盾していた。
いや違う。恐らくマリアはアレスの恋の炎を消そうとしているのではない。入念にその覚悟を試そうとしているのだ。
しかし、何のために。
そう何度目かの疑問をアレスが頭に浮かべた時それは起きた。
城が揺れたと錯覚するほどの轟音、そして何よりも雷に打たれたようなこの凄まじい魔力の放出は。
アレスは茶器を投げ捨て駆け出す。ディアナたちの部屋に近づけば近付く程足は竦みそうになる。鳥肌は立ちっぱなしだ。
他人よりも魔力量の多いアレスだからこそわかる。これは人の持つ魔力ではないということを。
「強くて、我儘で、一般常識の通用しない存在ってこれかよ……!!」
そんなのは当然だ。人外の存在に人の常識など通用しない。
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