惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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王妃の裁き32

 それは雷鳴の僅か前、大量の光の洪水と共に顕現した。

 突然場の支配者として君臨したその存在は、恐らくは美しい女のかたちをしていた。

 今どき神話を題材にした演劇でしか見かけないような簡素で古風な衣装。

 しかし手足に身に着けている装飾品の数々は舞台の小道具ではありえない。

 ふんだんにあしらわれている宝石はどれも一級品以上の魔宝石だ。もしかしたら値段などつけられないかもしれない。

 彼女の足首まである長い豊かな髪は比喩ではなく眩かった。室内の照明を反射してのことではない。

 文字通り髪の内側から鮮やかに光り輝いているのだ。

 さらに絶妙な加減で光の強弱を入れ替えているため常にきらきらと瞬いている。

 瞬間ごとに変化するそのグラデーションは非常に美しい。

 だがどうにも光が強すぎる。大量の毛髪が高速で点滅する様を見ていると目が焼け付き、次第に吐き気がしてきた。

 なんだか時間が立つほどに光の量が増している気がする。

 目を瞑るかせめて腕で光を遮りたいのにそれが出来ない。突然現れたこの存在のあまり高位さに体が緊張し硬直しているのだ。

 いっそ気絶してしまえたら。そんな拷問のような時間から救ってくれたのは扉を乱暴に開ける音だった。


「ディアナさん、大丈夫ですか?!」

「そこはまず母親わたしを心配しなさいよね!アイアム王妃よ!!」


 アレス王子の叫びに応じる様にマリアも吠える。流石精霊のいとし子と呼ばれる魔力量だけある。マリアは場にいた人間の中で真っ先に威圧感による拘束から抜け出したようだ。

 そう、この光は物理的な輝きではない。けれど魔力量の少ない者からもはっきりと認識できるだろう。それだけ質と量の双方が膨大なのだ。

 これは大量の精霊力だ。人間の体を介して存在する魔力よりもずっと濃い。長く浴びていいものではない。

 そんな私の危惧を察するようにアレス王子が羽織っていたマントを視界を隠すように被せてくれた。

 けれどそれでは彼がこの危険な光を直接浴びてしまう。何とか体を動かして彼こそ目隠しするよう言わなければいけない。 

 いっそ自らに電撃を浴びせ気付けとしてみようか。私がそう決意した頃、マリアは既に自由に動き回れたらしい。

 そんな彼女が真っ先にやったことは、なんと壁の破壊だった。シシリーがそれに驚いてぶふぅ!と鳴くのが聞こえた。

 鋭利な風魔法で隣室の間の壁をチーズのように切り抜き、そこから入り込んで膨大な面積のベッドからシーツを剥ぎ取る。

 それを今度は魔力を使って私たちの前に衝立のように広げた。これは物質を伴う光ではないから本来なら布での目隠しで防げるものではない。

 だが、マリアの操る風の力がシーツをコーティングするかのように発動し続けている。完全に防ぐことは出来なくてもそれがフィルターになることで明確に受ける衝撃は和らいでいた。

 何よりも物理的な目隠しを与えられたことに対し肉体は現金なほどに安堵をしていた。私は先程よりは滑らかに動くようになった腕でシーツへと触れる。

 そして彼女の魔力に合わせる様に雷の魔法を発動させた。撒かれた油に火をつけるイメージだ。

 私はマリアの風魔法を養分に自らも『光』を生み出した。それは優しい緑色をしていた。だが輝き自体は強い。


「うおっ、眩しっ」

「そのままシーツを天井に張り付けさせて。そうしたらもっと光量を上げるわ」


 太陽の下で蝋燭の火は目立たない。相手との力量差を考えればこちらが蝋燭側だが理論自体は変わらない。

 マリアが風魔法を使って精霊の光を弱めたように、こちらも雷の光を使い相手の光の強烈さを薄める。

 私の意図を察したらしい王妃がそれでも唇を尖らせて不服を言う。


「それって光で光の眩しさを相殺させるって奴?それより直接相手を潰す意味での相殺した方がよくない?」


 出来る筈ないでしょう、私は苦々しく返す。

 シーツが取り払われた今、目の前の美女は感情を伺わせない微笑みを浮かべて私たちを見ている。意外と大柄だ。アレス王子よりも長身かもしれない。

 私はその笑みを知っている気がする。何よりもこの暴力そのものの絢爛さを。雷の魔力を持つ私は、覚えている。

 様々な権能よりも真っ先に語られるは支配と制裁の象徴であること。

 破壊による再生の神。暴虐の貴婦人。もっとも神らしい神。

 つまり、目の前にいるのは人間よりも上位の化け物だ。


「雷女神、ユピテル様……」


 再びお会いできて光栄です、そう軽口を叩ける程の度胸は私にはなかった。

 女神はやはりにっこりと私たちを見ていた。


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