惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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王妃の裁き35

 突然私たちの前に顕現した雷女神ユピテル。

 彼女は超越者というその一点のみで瞬く間に場の支配者になった。

 長かった気がするこの離婚劇。思い返せば色々なことがあった。

 しかしその終わりが、騒動に全く無関係な神によるシシリーの処刑で幕を閉じるとは誰が予想していただろう。


「…この沢山の矢って、ユピテル様から人への下賜として神殿に納められるのかしら」

「どうせならこのでかい針山ごと持って行って欲しいけど……」


 私はマリアと肩を並べてシシリーであったものを眺めた。

 だが目視できるのはその体に突き刺さっている夥しい数の矢ばかりだ。

 マリアが針山と例えていたが、その場合針が過重積載過ぎる。シシリーの体が全く見えない。 

 オーバーキルという単語がなぜか頭に浮かんだ。

 だがそれも仕方がないのかもしれない。

 王家よりも高位の存在である精霊神、それも好戦的で有名な存在に無礼を働いたのだから。

 シシリーにもし家族がいたなら、その者たちも国外追放程度の裁きは受けるだろう。

 それ程、神に対し「命令」をするのは罪深いことなのだ。

 殆どの人間は神と会話することなどなく寿命が尽きる。

 だが万が一その機会が巡ってきたとしても遥か高みの存在を前にそのような無礼は働けないだろう。 

 マリアはユピテルに対しかなり砕けた口調で話してはいるが、それは女神が許しているだけ。

 そして許さなかった場合は目の前の光景のように容赦なく裁きが下されるのだ。

 まさかこのような亡くなり方をするとはシシリー本人も予想していなかっただろう。

 唯一の救いは叫び声すら上げる暇もなく速やかな死を迎えられたことだと思う。

 私はシシリーの亡骸を前に手を祈りの形に組んだ。

 そんな私を見てユピテル神は首を傾げる。


「あのねディアナちゃん、わたくし別に殺してなんかいないわよ?」

「えっ」


 女神の言葉に私は思わず驚きの声を漏らす。

 矢が毛皮のように全身を覆っている状態のシシリーが生きている?

 それはそれで死んだ方がましな程辛い状態ではないだろうか。


「わたくしたち精霊神は魔力を持たない人間を殺してはいけない取り決めになっているもの♠」


 ほら、血が一切流れていないでしょう。早とちりさんね。そう笑われて少しだけ頬が赤くなる。

 精霊にそのような取り決めがあるなんてそんな情報初めて聞いた。

 何より意外なのはこの女神がそのような取り決めを律儀に守っているということだ。

 ただシシリーと同じ目には遭いたくないのでそのことは口には出さなかった。

 感情の共有をしたくてマリアを横目で見たが、彼女は何故か納得したような顔をしていた。

 知っていたなら棺がどうとか言わないで欲しかった。お陰で笑われてしまったではないか。

 私の抗議の視線を感じたのかマリアは言い訳を口にする。


「いやだってユピテルがそんな大昔の約束を守るタイプだって思わないじゃない?」


 無礼さという面で見ればマリアがお咎めなしでシシリーが矢達磨になっているのは少し理不尽かもしれない。そう思った。

 けれど私が感じた不条理さは次のユピテルの言葉によって打ち消される。


「彼女には罰も与えたけれど、加護を与えたわぁ♡」


 ほら、よく見ていなさい。整えられた指先に示されるまま私はシシリーに視線を遣る。

 元々金色だった矢の数々が先程のユピテルの髪のように強く光を放ち始める。

 見るようにと言われたけれど、じっと見ていられる光景ではない。輝きに目を焼かれてしまう。

 けれど幸いなことに強烈な発光現象はそこまで長く続かなかった。

 輝き始めた時と同じように急激に輝度が下がる。そしてそこに存在したのは、一匹の豚だった。

 豚のような人間ということでなく、種族としての豚だ。


「……シシリー?」

「ぶう」


 こちらを見るユピテルは得意げな表情をしている。確かに人間を家畜に変えるなんて神でなければなし得ないことだろう。

 だが聞きたい。この御業は罰と加護、どちらの意図でなされたのかと。


「よかったわねぇ、先程までの姿よりずっと可愛らしいわぁ♡

 わたくしの加護を受けたのだもの。これからは精霊界で永遠に暮らしましょうねぇ♠ 」


 そうか、そっちの方か。

 身も心もペットにされる恩寵など御免だ。

 私は今すぐ女神に加護を返上したくなった。


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