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王妃の裁き36
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やはり、神と言う存在は恐ろしい。
命を奪うことはしないと言いながら、殺すよりも残酷なことをしてみせるのだから。
雷女神から大量の矢で穿たれたシシリーは、大きな一匹の豚に身を変えられていた。
「…人間の時よりも、スリムになったわね」
シシリーをトロール並みに太らせた張本人であるマリアが言う。
確かにこの姿なら先程までの巨体と比べ身動きが楽そうだ。
ロバートも今の彼女とだったら一緒に追放刑を受けるかもしれない。
先程のように同じ部屋に入れられても魔物と間違えて気絶などしないだろう。
そう考えると人間を一匹の豚に変えるより、巨大な肉の塊に仕上げたマリアの方が恐ろしいのかもしれない。
「わたくし牛も好きだけれど豚も好きなのよねぇ、この子はとくに脂がのって美味しそうだわぁ♡」
「ぷぎぃ?!」
前言撤回だ、やはり女神の方が恐ろしい。
微笑みながら食肉として己を品定めし始めたユピテルにシシリーが悲鳴を上げた。
「大丈夫よぉ、わたくしの加護があるから多少肉が削り取られたぐらいでは死んだりしないわぁ♠」
それは加護ではなく呪いの間違いではないだろうか。
シシリーと同じくユピテルから加護を授けられた身としてはどうにも見ていてハラハラする。
そういえば強引に与えられた私はともかく、シシリーは何故彼女からの加護をあそこまで欲しがったのだろうか。
腹の中の子の件といい、精霊に関する知識は一般人以下であるようなのに。
単純にユピテルが顕現した時の威容から力の巨大さを感じ取り権力として頼ろうとしたのだろうか。
そう推理してみたが今一釈然としない物がある。そのような勘の良さと立ち回りが出来るならそもそも豚になどなったりしていない気がする。
ユピテルを前にぶるぶると震えているシシリーを見つめ私は思った。
「自分の子供は平気で殺すのに、自分が食われるのは嫌なのね」
呆れた様にマリアが言う。先程シシリーに突き刺さったどの矢よりも鋭い怒りがその言葉には込められていた。
私だけでなく彼女もまたシシリーのあの所業に怒りを覚えていたらしい。
マリアは子供を数人持つ母親だ。そしてユピテルとの距離感から察せる通り精霊たちとの距離が近い。
シシリーは氷の魔力を宿した子供を無理やり下ろした。
運悪く子供が流れてしまった時、そして幼くして亡くなった時この国の人間は慰める言葉を二つ持つ。
貴族の子に対しては、精霊神に呼ばれて帰った。
魔力を持たない平民の子に対しては、精霊に気に入られて連れていかれた。
どちらも別世界で愛されていて欲しいという願いから生まれた思想だ。
けれどシシリーの子供は、母親によって人間界から追い出されたのだ。
マリアの口調が刺々しくなるのも当然である。
他人事のようにしているが、そもそも私はそれを理由にシシリーを殺めようとした。
「ぷぎぃ……」
けれど豚の姿になった彼女を、改めて殺したいかと言われると迷う。
だが、可哀想だから食べるのは止めてあげてと庇うのも違う気がする。
しかし死ぬことも許されずその体を女神に食され続けるという罰は悲惨すぎる。
もし彼女が腹の子に対しての行いを悔いて、償いの道を歩むというなら。
「シシリー」
私は彼女に呼びかける。
「貴女、どうして自分がこのような姿になったかわかる?」
お前のせいだとばかりに突進を喰らう。
わかっていた。絶対反省などする女でないと。
「何やってるのよ、ディアナ」
「ぶぎぃっ!!」
マリアが難なく放った風の刃が彼女の豚鼻を切り落とす。
顔から血を吹き出しながら私に激突したシシリーは痙攣を起こしながら盛大に倒れた。
私が体の前に盾のように張り巡らせていた雷の魔力に触れ、感電したのだ。
結局私自身さえシシリーが変わるだなんて思っていなかった。
魔力では防げなかった豚の血が私の灰のドレスを汚す。なぜかそれに懐かしさを感じた。
無理だろうと思いながら改心を願い、そして裏切られた時の疲労感。
そして私の愚かさと諦めの悪さに呆れる親友。私はそれを知っている気がする。
「汚いわね、着替えて来なさいよ」
アレス、衣裳部屋に案内してあげて。
マリアの声を聞きながら私はシシリーを見つめる。
生贄の豚という言葉が浮かんだ。
命を奪うことはしないと言いながら、殺すよりも残酷なことをしてみせるのだから。
雷女神から大量の矢で穿たれたシシリーは、大きな一匹の豚に身を変えられていた。
「…人間の時よりも、スリムになったわね」
シシリーをトロール並みに太らせた張本人であるマリアが言う。
確かにこの姿なら先程までの巨体と比べ身動きが楽そうだ。
ロバートも今の彼女とだったら一緒に追放刑を受けるかもしれない。
先程のように同じ部屋に入れられても魔物と間違えて気絶などしないだろう。
そう考えると人間を一匹の豚に変えるより、巨大な肉の塊に仕上げたマリアの方が恐ろしいのかもしれない。
「わたくし牛も好きだけれど豚も好きなのよねぇ、この子はとくに脂がのって美味しそうだわぁ♡」
「ぷぎぃ?!」
前言撤回だ、やはり女神の方が恐ろしい。
微笑みながら食肉として己を品定めし始めたユピテルにシシリーが悲鳴を上げた。
「大丈夫よぉ、わたくしの加護があるから多少肉が削り取られたぐらいでは死んだりしないわぁ♠」
それは加護ではなく呪いの間違いではないだろうか。
シシリーと同じくユピテルから加護を授けられた身としてはどうにも見ていてハラハラする。
そういえば強引に与えられた私はともかく、シシリーは何故彼女からの加護をあそこまで欲しがったのだろうか。
腹の中の子の件といい、精霊に関する知識は一般人以下であるようなのに。
単純にユピテルが顕現した時の威容から力の巨大さを感じ取り権力として頼ろうとしたのだろうか。
そう推理してみたが今一釈然としない物がある。そのような勘の良さと立ち回りが出来るならそもそも豚になどなったりしていない気がする。
ユピテルを前にぶるぶると震えているシシリーを見つめ私は思った。
「自分の子供は平気で殺すのに、自分が食われるのは嫌なのね」
呆れた様にマリアが言う。先程シシリーに突き刺さったどの矢よりも鋭い怒りがその言葉には込められていた。
私だけでなく彼女もまたシシリーのあの所業に怒りを覚えていたらしい。
マリアは子供を数人持つ母親だ。そしてユピテルとの距離感から察せる通り精霊たちとの距離が近い。
シシリーは氷の魔力を宿した子供を無理やり下ろした。
運悪く子供が流れてしまった時、そして幼くして亡くなった時この国の人間は慰める言葉を二つ持つ。
貴族の子に対しては、精霊神に呼ばれて帰った。
魔力を持たない平民の子に対しては、精霊に気に入られて連れていかれた。
どちらも別世界で愛されていて欲しいという願いから生まれた思想だ。
けれどシシリーの子供は、母親によって人間界から追い出されたのだ。
マリアの口調が刺々しくなるのも当然である。
他人事のようにしているが、そもそも私はそれを理由にシシリーを殺めようとした。
「ぷぎぃ……」
けれど豚の姿になった彼女を、改めて殺したいかと言われると迷う。
だが、可哀想だから食べるのは止めてあげてと庇うのも違う気がする。
しかし死ぬことも許されずその体を女神に食され続けるという罰は悲惨すぎる。
もし彼女が腹の子に対しての行いを悔いて、償いの道を歩むというなら。
「シシリー」
私は彼女に呼びかける。
「貴女、どうして自分がこのような姿になったかわかる?」
お前のせいだとばかりに突進を喰らう。
わかっていた。絶対反省などする女でないと。
「何やってるのよ、ディアナ」
「ぶぎぃっ!!」
マリアが難なく放った風の刃が彼女の豚鼻を切り落とす。
顔から血を吹き出しながら私に激突したシシリーは痙攣を起こしながら盛大に倒れた。
私が体の前に盾のように張り巡らせていた雷の魔力に触れ、感電したのだ。
結局私自身さえシシリーが変わるだなんて思っていなかった。
魔力では防げなかった豚の血が私の灰のドレスを汚す。なぜかそれに懐かしさを感じた。
無理だろうと思いながら改心を願い、そして裏切られた時の疲労感。
そして私の愚かさと諦めの悪さに呆れる親友。私はそれを知っている気がする。
「汚いわね、着替えて来なさいよ」
アレス、衣裳部屋に案内してあげて。
マリアの声を聞きながら私はシシリーを見つめる。
生贄の豚という言葉が浮かんだ。
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