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王妃の裁き38 回想の始まり
「うーん、甘酸っぱいわね♡」
「私の前で友人と息子を堂々と出歯亀するの止めてくれない?」
先程からニマニマと笑い続ける女神にマリアは辛辣な言葉を投げつけた。
雷神ユピテルが何を『視』ているのかなど聞かなくてもわかる。
女神がここまでにやついているのだからアレスとディアナは余程良い雰囲気になのだろう。
そのこと自体は母として喜ばしいが、それはそれとしてユピテルに対し毒づくのは忘れない。
「なによぉ、マリアちゃんだって似たようなことした癖にぃ♠」
「……呆れた。あんたいつから覗き魔してたのよ」
頬を膨らました女神に言い返されてマリアは言葉通り呆れた表情を浮かべた。
ディアナとアレスのいる部屋をルークと共に監視していた事をユピテルは今当て擦った。
けれどそれはマリアが雷撃で床を叩き割る前のことで、つまりこの女神はもっと前から自分たちを視ていたのだ。
「王家を見守るのは精霊神の役目だものぉ♡」
「見守るじゃなく、見てるだけでしょあんたらは」
冷めた瞳でマリアは女神相手に皮肉を言う。
初代国王と精霊神たちの間にそのような守護契約があるのは知っている。
そして精霊界とパスが繋ぎやすい場所にこの城が建てられていることも。
何より神クラスの精霊たちにとって精霊界にいながら人界を好きに見渡すなど大した労苦ではないのだ。
但し彼らが直接人界に降り人間に手助けをした記録などここ数百年の間に滅多に存在しない。
マリアだって精霊神の姿をここまで近い距離で見たのは数十年ぶりだった。
国が平和な証だと夫である国王は言っていたが。
「大丈夫よぉ、これからはディアナちゃんの守護精霊として頑張る所存だからぁ♡」
「……何もしないであげるのが一番あの娘の為だと思う」
毒舌ではなく純粋に親友の身を案じてマリアは言う。
けれどそれがこの女神に受け入れられる筈がないということも既に分かっていた。
寧ろ今までユピテルを抑え込めていたこと自体が奇跡のようなものだ。マリアは遠い目をして当時の苦労を思い出す。
______
シシリーが胎の子を殺し、その事でディアナが怒りに我を忘れていた頃、呼応するように城内の一角から魔力が溢れ出した。
それは津波のように、或いは火薬の爆発のようにマリアの精神に襲い掛かった。イメージだけで膝をつきそうになるほどの衝撃だった。
尋常ではない事態が起きた事を察したマリアはアレスに親友を任せ現場に急行する。
強い魔力に対抗することが出来るのは、同じく強い魔力の持ち主だからだ。
そして近付く程に膨大な力の質が魔力ではないことに気づく。人間を介することで生じる不純物がないのだ。
つまりこれは人の力ではなく、恐らくは最高位クラスの精霊が発しているものだ。
「……属性は雷、しかもイメージは黄金…まさかね……」
予想通りの相手なら尚更王妃であるマリアが相対しなければいけない。
なんでこんな時に、そう思いながら部屋の扉を開ける。
「こんな時だからよぉ」
口に出していないマリアの憤りに当たり前のように答えて、女神は其処に居た。
ディアナが穿った穴を精霊界と人界を繋ぐゲート代わりにして。
その声と口調には聞き覚えがある。雷女神ユピテル。
性別に対して疑念はあるが、思念を読まれるなら女神と認識しないと不味い気がした。
雷の最高神は人間に対し親しげに話しかけると記述があるが、風の神のように親切という話は聞かない。
その気まぐれが人間にとって幸運になったり災厄になったりするだけだと言われる。
友人であるディアナは自らの属性の神という事でそれなりに崇めてはいる様だった。主に強そうという理由で。
けれど、その神がなぜ今ここに顕現したのかマリアにはわからなかった。
「今精霊の子が人間に殺されたわねぇ。しかも……人間嫌いの氷妃の眷属が」
このままではこの国に氷の魔力を持つ子が産まれてこなくなるわよ。
そう淡々と告げられてた内容に王妃は顔面を蒼白にした。
氷妃とは氷の精霊神アイドラデュースの異名だ。確かにシシリーの胎に宿っていた子供は氷の魔力を持っていた。
この国の貴族の子供は一定の年齢になるまでは半精霊扱いされる。
昔は子供が死にやすく、夭折した幼子は精霊界に帰ったのだと考えることで親の心痛を和らげる意図があったと一般的には考えられているが。
どうやら、そうではなかったようだ。
よりにもよって魔力など一つも持たない人間の女が、氷神の眷属を殺めたということになる。
マリアの決断は早かった。
「すぐにそいつの首を氷妃に捧げるわ」
「足りないわ。死の苦しみなんて精霊には一瞬。人間は簡単に転生するもの」
そんなものは償いになどならない。少なくとも人間嫌いのアイドラは満足しないだろう。
死に死で返して終わるのは人間同士だけだ。
そう冷たく告げられ、ならどうすればいいのだとマリアは弱音を漏らした。
「簡単よぉ、アイドラが飽きるまで罰を受けさせるの。何百年も何千年も、ずうっと」
「そんなことできないわ。人間はそんなに長く生きられない」
「できるわよぉ、わたくしならねぇ♡」
その為にこうやって助けに来てあげたのよ。黄金色の精霊は慈悲深く微笑んだ。
つい少し前に罪人に永劫の責め苦を与える事をを提案した時と全く同じ表情だった。
マリアは絶対することがないと思っていたシシリーへの同情をしたが、親友の涙を思い出すと気の迷いは簡単に消え去った。
そうして王妃は自らの城に雷帝を共犯者として招いたのだった。
ユピテルが顕現した真の目的がディアナだったことを知って後悔したかは定かではない。
「私の前で友人と息子を堂々と出歯亀するの止めてくれない?」
先程からニマニマと笑い続ける女神にマリアは辛辣な言葉を投げつけた。
雷神ユピテルが何を『視』ているのかなど聞かなくてもわかる。
女神がここまでにやついているのだからアレスとディアナは余程良い雰囲気になのだろう。
そのこと自体は母として喜ばしいが、それはそれとしてユピテルに対し毒づくのは忘れない。
「なによぉ、マリアちゃんだって似たようなことした癖にぃ♠」
「……呆れた。あんたいつから覗き魔してたのよ」
頬を膨らました女神に言い返されてマリアは言葉通り呆れた表情を浮かべた。
ディアナとアレスのいる部屋をルークと共に監視していた事をユピテルは今当て擦った。
けれどそれはマリアが雷撃で床を叩き割る前のことで、つまりこの女神はもっと前から自分たちを視ていたのだ。
「王家を見守るのは精霊神の役目だものぉ♡」
「見守るじゃなく、見てるだけでしょあんたらは」
冷めた瞳でマリアは女神相手に皮肉を言う。
初代国王と精霊神たちの間にそのような守護契約があるのは知っている。
そして精霊界とパスが繋ぎやすい場所にこの城が建てられていることも。
何より神クラスの精霊たちにとって精霊界にいながら人界を好きに見渡すなど大した労苦ではないのだ。
但し彼らが直接人界に降り人間に手助けをした記録などここ数百年の間に滅多に存在しない。
マリアだって精霊神の姿をここまで近い距離で見たのは数十年ぶりだった。
国が平和な証だと夫である国王は言っていたが。
「大丈夫よぉ、これからはディアナちゃんの守護精霊として頑張る所存だからぁ♡」
「……何もしないであげるのが一番あの娘の為だと思う」
毒舌ではなく純粋に親友の身を案じてマリアは言う。
けれどそれがこの女神に受け入れられる筈がないということも既に分かっていた。
寧ろ今までユピテルを抑え込めていたこと自体が奇跡のようなものだ。マリアは遠い目をして当時の苦労を思い出す。
______
シシリーが胎の子を殺し、その事でディアナが怒りに我を忘れていた頃、呼応するように城内の一角から魔力が溢れ出した。
それは津波のように、或いは火薬の爆発のようにマリアの精神に襲い掛かった。イメージだけで膝をつきそうになるほどの衝撃だった。
尋常ではない事態が起きた事を察したマリアはアレスに親友を任せ現場に急行する。
強い魔力に対抗することが出来るのは、同じく強い魔力の持ち主だからだ。
そして近付く程に膨大な力の質が魔力ではないことに気づく。人間を介することで生じる不純物がないのだ。
つまりこれは人の力ではなく、恐らくは最高位クラスの精霊が発しているものだ。
「……属性は雷、しかもイメージは黄金…まさかね……」
予想通りの相手なら尚更王妃であるマリアが相対しなければいけない。
なんでこんな時に、そう思いながら部屋の扉を開ける。
「こんな時だからよぉ」
口に出していないマリアの憤りに当たり前のように答えて、女神は其処に居た。
ディアナが穿った穴を精霊界と人界を繋ぐゲート代わりにして。
その声と口調には聞き覚えがある。雷女神ユピテル。
性別に対して疑念はあるが、思念を読まれるなら女神と認識しないと不味い気がした。
雷の最高神は人間に対し親しげに話しかけると記述があるが、風の神のように親切という話は聞かない。
その気まぐれが人間にとって幸運になったり災厄になったりするだけだと言われる。
友人であるディアナは自らの属性の神という事でそれなりに崇めてはいる様だった。主に強そうという理由で。
けれど、その神がなぜ今ここに顕現したのかマリアにはわからなかった。
「今精霊の子が人間に殺されたわねぇ。しかも……人間嫌いの氷妃の眷属が」
このままではこの国に氷の魔力を持つ子が産まれてこなくなるわよ。
そう淡々と告げられてた内容に王妃は顔面を蒼白にした。
氷妃とは氷の精霊神アイドラデュースの異名だ。確かにシシリーの胎に宿っていた子供は氷の魔力を持っていた。
この国の貴族の子供は一定の年齢になるまでは半精霊扱いされる。
昔は子供が死にやすく、夭折した幼子は精霊界に帰ったのだと考えることで親の心痛を和らげる意図があったと一般的には考えられているが。
どうやら、そうではなかったようだ。
よりにもよって魔力など一つも持たない人間の女が、氷神の眷属を殺めたということになる。
マリアの決断は早かった。
「すぐにそいつの首を氷妃に捧げるわ」
「足りないわ。死の苦しみなんて精霊には一瞬。人間は簡単に転生するもの」
そんなものは償いになどならない。少なくとも人間嫌いのアイドラは満足しないだろう。
死に死で返して終わるのは人間同士だけだ。
そう冷たく告げられ、ならどうすればいいのだとマリアは弱音を漏らした。
「簡単よぉ、アイドラが飽きるまで罰を受けさせるの。何百年も何千年も、ずうっと」
「そんなことできないわ。人間はそんなに長く生きられない」
「できるわよぉ、わたくしならねぇ♡」
その為にこうやって助けに来てあげたのよ。黄金色の精霊は慈悲深く微笑んだ。
つい少し前に罪人に永劫の責め苦を与える事をを提案した時と全く同じ表情だった。
マリアは絶対することがないと思っていたシシリーへの同情をしたが、親友の涙を思い出すと気の迷いは簡単に消え去った。
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