惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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女神の慈悲は試練と共に1

 遠くから爆発音が聞こえた。

 城の侍女に手伝って貰いドレスを着替え終わったばかりの私は礼を言うのもそこそこに室外へ飛び出た。

 廊下にいたアレス王子は私がすぐに部屋から出てくることを分かっていたようだった。


「マリアの元に大急ぎで戻るわ」

「わかりました」


 私の宣言に彼が賛同する。その後急にしゃがみ込んだと思ったら次の瞬間にはアレス王子は私の体を抱き上げていた。


「この方が絶対早く到着できるから」

「……絶対、でしょうね」

「うん、絶対に。できるし、約束します」


 男らしくなった顔に子供っぽい笑顔を浮かべるとアレス王子は凄まじい勢いで走り出した。

 確かに私が息を荒げながらヒールで駆けるより余程スピーディに辿り着けそうだ。

 しかし女性一人を抱きかかえてこの速度が出せるのは凄いと思う。

 うっかり話しかけたら舌を噛んでしまいそうなので私は口に出さずアレス王子に感心した。

 それとも男性は皆こういうことが軽々と出来るのだろうか。

 いや、それはない。元夫の貧弱さを思い出し私はその考えを否定した。

 先程の轟音の出処がマリアたちのいる部屋だと私は決めつけているが、それならばロバートたちは無事だろうか。

 確か私が部屋を出ていく直前までシシリーの面倒を見ていた侍女と同じく気を失って床に伏せていた気がするが。

 そもそもあの爆音は一体何が起こったのだろう。今日一日だけで色々なことが起こりすぎている。

 シシリーが魔物と間違える位肥大化していた。

 変わり果てたシシリーを見たロバートは気絶した。

 そしてシシリーは謎の吟遊詩人に恋をしているらしい。  

 ロバートがマリアを激怒させて国外追放を命じられた。
 
 そうしたら伝説の精霊神の一人であるユピテルが突然顕現した。

 更にそのユピテルは外見は輝くような美女だが声は男性そのものだった。

 親友のマリアと雷女神ユピテルはどうやら以前からの知り合いのようだった。

 そうして何故か私にユピテルは加護を与えるつもりらしい。

 ちなみにユピテルから加護を与えられたシシリーは豚になった。

「俺から、告白されたも入れておいてください」    

 シシリーに話しかけたら襲いかかられてドレスが血で汚れた。


「え?」


 今、私の思考の中に誰かの声が入り込んだ気がする。

 この距離で声が届くとしたらアレス王子しかいない。私は自分を抱き上げている青年の顔を見上げた。

 予想以上に真剣な顔をしている。私との約束だけでなく本当に早く現場に到着したいのだろう。  

 恐らく自分の母親がいる部屋で何かが起こっているのだから焦るのも当然か。

 ならば先程の声も私の幻聴だろう。そもそも私の思考を彼が読める筈もない。

 つまり、私に対してアレス王子からの告白を忘れるなと告げたのは……私だ。

 意識をすると首の後ろが熱くなった。こんなことを考えている場合ではないのに。

 それよりもマリアは無事だろうか。あの王妃にダメージを与えるのはかなり難しいと思うけれど万が一もある。

 それに現在はマリアの悪い意味で上位互換のような雷女神もあの部屋にいるのだ。

 人間の常識など顧みない神らしい自由さと天災のような攻撃力を有した制御不能の存在。

 そんな厄介な相手をまさか馬鹿なことを言って怒らせたりしていないでしょうね。

 だが私とアレス王子が退出した後、あの部屋で意識があるのはマリアとユピテルだけだ。大分嫌な予感がしてきた。

 しかし流石にマリアもいい年齢の大人だしぎりぎりの分別はついているだろう。

 間違えてもユピテルの声弄りという見える地雷に踏み込んで激怒させたりなどは絶対しない筈だ。頼むからしないでいて欲しい。

 そう願う私の目に見慣れた扉の残骸が飛び込んできた。壊れた扉の隙間から中が見え声も漏れ聞こえてくる。
 

「もうっ、失礼しちゃうわねぇ、誰がおカマ女神よぉ♠」


 ユピテルのこの台詞だけでもうなんだかわかってしまった。マリアが百%悪い。

 マリアは凄い。誰もやろうとしないことをあっさりとやってしまう。

 そして誰もやろうとしないことは大抵やると痛い目に合う事なのだ。それを神相手に躊躇わないとは命知らずにも程がある。仮にも王妃なのだから命は投げ捨てるものみたいな生き方は自粛して欲しい。

 しかし、それでこそ自分の親友だという気持ちもある。

 奔放で怖いもの知らずで何だかんだで生き残る天運を持っている。

 けれど犠牲となったこの部屋の修繕費はマリアの私財から出すべきだと強く思った。

 室内で女神を怒らせてはいけない。

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