惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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女神の慈悲は試練と共に3

 やっぱり女神ユピテルは男性だったようだ。

 外見だけならどんな美女よりも美しいのに。

 気になるのは彼女、いや、彼……やはり彼女と言った方がいいのだろうか。

 ユピテルが女性として生きる原因。

 それは千年以上前に出会った一人の男性のようだった。

 千年前と言ったらこの国が出来るか出来ないかぐらいの昔。

 その時にまだ男性だったユピテルの心を射止め、女性になりたいと願わせる程の人物。

 そしてその人間はどうやら女性に生まれ変わっているらしかった。

 彼女はそのことに怒っているらしい。ただ怒っていると言いながらその目は悲しみを湛えていた。

 俄かには信じがたいがユピテルの発言は嘘ではないだろう。
 
 彼女の声を聞くまでの私がユピテルを女神だと完全に思い込んでいたように、神話では雷の精霊神の性別は女性であると徹底されている。

 遥か昔その書物が記された時点でユピテルが既に女性として振る舞い、また女性扱いされることを望んだと考えるべきだろう。

 そしてそれは彼女のいう千年前という時期と大体合致する。

 二人の英雄と彼らに力を貸した精霊たちによって土地を支配していた邪竜一族が退治されこの国が創られた頃。

 ユピテルは一人の男を愛し、彼の為に女神になると決めた。雷神にそのような決意をさせる人間は余程の魅力に溢れた傑物だったに違いない。

 そう、たとえば伝説の英雄のような。


「女神ユピテル、マリアの無礼をどうかお許しください」

「……ディアナちゃんはわたくしのこと女装男扱いしない?」  

「はい、絶対にそのようなことは致しません」 


 不安そうに尋ねてくる女神に対し心から誓う。

 確かに当初ユピテルには外見と声のギャップに驚かされたし、実は男性なのではと疑ったりもした。

 しかし彼女がそういった理由で女性として振舞うことを選んだのなら、私もユピテルを女神だと認識し続けるだけだ。

 マリアのことは後でちゃんと叱っておかなければならない。

 私はシシリーの物であったらしい巨大なベッドで熟睡している友人を見つめながら思った。

 彼女から少し離れた場所にシシリーの世話係だった侍女も寝かされている。

 遠目から見た限りだと二人とも大怪我はしてないようだった。ベッドの位置が若干記憶にあった場所と違うが部屋の破壊され具合から見ると奇跡のようだ。

 ユピテルはマリアのデリカシーのない発言に激怒し暴れたようだが、恐らくマリアたちを寝台に移動させたのもユピテルだろう。

 一見矛盾するようなその行動に何かの理由を見つけたような気がして私はまじまじとベッドのある場所を見つめた。

 そして気が付いた。

 シシリーと、ロバートがいない。

 私はユピテルに振り返った。彼女は既に平静を取り戻したらしく、優雅な姿勢で浮いている。


「あの、ユピテル様」

「ユピテルって呼び捨てにして♡」
  
「えっと、女神ユピテル……マリアと侍女以外でこの部屋にいた二人は……」
   
「わたくしが豚に変えた娘なら精霊界に送っておいたわ♠」
  
「そう……ですか」


 あっさりと言われ私は若干複雑な気持ちで頷いた。

 精霊界でシシリーがどのような目に遭うのかはわからない。ただ、もう二度と会うことはない気がした。

 お互い、一度も出逢わずに生きていけたらそれが一番幸せだったのかもしれないけれど。 

 シシリーの末路を知った今、気になるのはロバートだ。

 彼自身はユピテルに対し何のアクションも起こしてはいない。

 マリアの足に縋りついた後、突如起こった雷女神の顕現に巻き込まれて気を失い続けていただけだ。

 私は彼についてユピテルに尋ねた。彼女は何故かばつの悪い表情を浮かべたようだった。


「ごめんなさい、わたくし、彼のことすっかり忘れていて……」

「はあ……」

「気が付いたら吹き飛んだベッドと棚と瓦礫の下敷きになっていたのぉ♡」

「え」


 でも生きているからギリ大丈夫よ。

 そうユピテルは笑顔で告げたがやはり室内にロバートらしきものは見当たらなかった。

 女神基準の大丈夫。それは絶対、大丈夫ではない気がする。

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