惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

文字の大きさ
65 / 99

女神の慈悲は試練と共に4

 ユピテルが開き直った笑顔で差し出してきたものは、確かに「ロバートらしきもの」だった。


「あぶぅ」 


 いや、本当にロバートかしらねこれ。

 私の目がおかしいのか可愛らしい赤ん坊にしか見えないけれど。


「グレイ前伯爵って……もう少しで四十……現在三十代の筈ですよね?」


 アレス王子が恐る恐る疑問を口にする。台詞の所々から私に対しての気遣いが感じられるのが逆にきつい。

 そうだ、ロバートは当たり前だが赤子ではない。私と同年代の男性だ。

 確かに髪と瞳の色は似ているけれど、そしてそのことに対して非常に嫌な予感しかしないのだけれど。

 抱かれている赤ん坊からユピテルに視線を移す。彼女は少しだけ遠い目をして語った。


「この人間を私の癇癪で大怪我をさせてしまったのだけれど、どうしても治したくなくて

 ……でも放置すると死んでしまうし……眷属じゃない精霊憑きを勝手に殺すとアグニスが怒るしぃ……」


 どの姿なら妥協して治癒できるのかを探っていった結果、赤ん坊まで若返らせてしまった。

 そうユピテルは私たちに説明した。そんな理由で若返った人間なんて初めて見た。恐らくどの伝承にも存在しない理由だと思う。


「もう、なんか……人格がダメだった♡」

「肉体以外の全てを否定……?!」
  
「だってこの坊や、自分に憑いていた精霊にまで見放されていたのよぉ♠」


 ユピテルが呆れた声で告げる。

 精霊に見放されるとはどういうことなのだろうか、私は尋ねた。


「この人間と混ざり合っていた精霊の部分が、もうこの人間として生きていることが嫌になっちゃったのよ

 だから私が怒って力を発動した時にあえて魔力で防御をせず無抵抗でいたのね。ある意味自殺みたいなものだわ」


 本当は打撲と軽い骨折程度で済む筈なのに。そう溜息を吐きながら語られる内容に、発見時のロバートの惨状を考えて止めた。

 しかしユピテルがそういった計算をして暴れたなら気を失っていた侍女の無傷そうな様子にも納得はいく。

 元凶のマリアは全身打撲ぐらいはしているかもしれない。

 しかし精霊に見放されるとは。

 幼い頃読んだお伽噺で欲深くなった男が幸運の精霊に見放されて無一文になる話を読んだことがあるが、今回の件はそういった道徳的な教訓話とも又違う。


「炎の精霊は人間に情がわきやすいから中々こういったことは起きないのよねぇ……

 ディアナちゃんと身勝手な理由で別れた時点で大分愛想は尽きていたかもしれないけれど……トドメは何かしらぁ?」


 不思議そうに言うユピテルに私もアレスも一緒に悩む。ロバートに炎の精霊が完全に愛想を尽かす理由。……正直あり過ぎでは。

 いや、精霊と人間の倫理観はまた違うものかもしれない。自らの考察をひとまず置き対象人物の行動を並べてみる。

 ロバートはシシリーに惚れて私を屋敷から追い出した。その後シシリーに騙されていたことに気づいてショックを受けた。

 だけど自分の父親が彼女を殺そうとした時は必死に庇っていた。ここまではもしかしたら炎の精霊的にはありなのかもしれない。

 ただその後、正確には今日の事だがロバートはシシリーを激しく拒絶した。理由は彼女が人間とは思えないぐらい肥え太っていたから。

 正直気持ちは判る。けれどあれだけの騒ぎを引き起こして、外見が好みではなくなったから嫌だはいい加減にしろと当然だが思った。

 その後マリアにシシリーと一緒に国から出ていけと言われて必死にマリアの脚に縋って嫌がった。その時にユピテルが出現して……。
 
 私がこれまでロバートの行動を語ると躊躇いがちにアレス王子が口を開いた。  


「多分……外見が醜くなったことを理由に恋人を捨てたのが致命的だったんだと思います

 炎の精霊神アグニスの娘は人間との結婚を許して貰う為に自らの顔を焼いて、それで恋人に捨てられたという逸話があります」


 王族かつ、炎の魔力持ちということもありアレスのアグニス神に対する知識は私以上だった。

 私もアグニス神に対して貴族としての一般的な知識はあるが、その娘御の存在までは絡めて考えようとしなかった。

 しかし人間と結婚する為に顔を焼かなければいけないとは、異種婚姻とはそこまで敷居の高いものなのか。  

 私はユピテルのことを考える。先程の告白を聞いた限りだと雷神が千年前に愛していた男性もの種族も人間らしかった。 

 もしその人物が性別を理由にユピテルの愛を拒まなかったなら、どういった結果になっていたのだろう。
 
 そして、炎の精霊が外見の変化を理由に恋人を捨てる者を許さないと言うのなら。

 もしアレス王子と恋人になったとして、老いてしまった私と別れたくなった時に彼は困ってしまうのではないか。

 私のせいでこの国の大切な王子から炎の魔力が失われてしまうのではないか?

 それを考えると胃の辺りが焼いた鉄棒で殴られたようにじくじくと痛くなった。


あなたにおすすめの小説

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」