66 / 99
女神の慈悲は試練と共に5
アレス王子がロバートと同じ振る舞いをするとは限らない。
いや、恐らくはしないだろう。
けれどロバートだって、その時が来るまで私は彼がそんなことをするとは思わなかった。
怖い。アレス王子の好意が本物であることを知っているから怖い。
私がアレス王子に惹かれ始めているから怖い。
二人が相思相愛になったとして、それが悲劇に終わるのが怖いのだ。
自らの半身である精霊から見捨てられる。よりにもよって母譲りの膨大な魔力を持つ彼が。
それは余りにも大きすぎる罰だ。
そもそも王家がこのことを知ったら私と恋仲になること自体を許さないだろう。
マリアは許すかもしれない、国王やルーク王子もアレス王子の望んだことだからと許すかもしれない。
けれど王家を守る者たちが許さないだろう。
ただでさえ親子ほどの年齢差がある。更にそれが原因でアレス王子に魔力剥奪のリスクがある。
アレス王子は絶対そんなことにはならないと言うだろう。自分を信じてと言うだろう。
そして私がそれを信じたとして、その責任を取ることはできないのだ。精霊に罰されるのは老いた私ではなく彼なのだ。
だからディアナ、貴女がちゃんとした大人なら。この国の貴族としての責任があるのなら。
この恋になりかけたものはおしまいにしなければいけない。
「ディアナさん?」
横から肩を掴まれて思わず体が跳ね上がる。
私の大袈裟な挙動にアレス王子は酷く恐縮して謝ってきた。
「すみません、力を入れ過ぎました!」
「ちょっとぉ、女の子の華奢な肩に何してくれるのよぉ……♠」
「ち、違うのよ。痛くなんてないわ。少し考え事をしていたの」
ユピテルの声が一段と低くなったことに慌てて私はアレス王子をフォローする。
実際肩を掴む力は全く強くなかった。謝るようなことは何もないのだ。
「考え事ぉ?」
「ええ、赤子になったロバートはどうなってしまうのかと」
「グレイ前伯爵、ですか」
「マリアは追放するって言ったけれど、この状態じゃ流石に一人で旅立つのは無理よ」
ユピテルに元の年齢まで戻せるかと聞くと、戻したくないという回答が返ってきた。
「それに肉体だけじゃなく中身も赤ん坊にしちゃったもの、その状態で戻しても悪趣味なだけよぉ♡」
「ということは、今までのことも、シシリーのことも……私のことも覚えていないのですか」
「そうねぇ、もしかしてディアナちゃん…この赤ん坊を育てたいのぉ?」
ユピテルの発言に私よりも隣で話を聞いていたアレス王子の方がギョッとした顔をした。
私は静かに首を振る。赤子となったロバートに対して恨みつらみを抱える気はない。
けれど自分を捨てた男を母親代わりに育てる程倒錯した人間でもない。
「お許しいただけるなら、ロバートの父親に預けたいと思います」
私の元義父であるジェームズ。彼は父の親友でもある。
だからこそ、この歳まで跡継ぎを産めなかった私に対し離縁を迫ることはなかったのかもしれない。
シシリー登場後、彼が息子可愛さに私を批判する側に回ったことについて何も思わないわけではない。
けれど、彼だってシシリーに騙された被害者ではある。
息子可愛さに流されて騙されたことこそが義父の最大の罪ともいえるが。
「ジェームズ様には不出来な子を一から育て直すと言う償いをして頂きたいと思います」
「ディアナさん……」
「……いいわ。好きになさい」
どうでもよさそうに言うユピテルから赤子を手渡される。
なぜか自分が代わりに抱くといって聞かないアレス王子に抱き方を教えながら私は彼にロバートを抱かせた。
まだ学生のせいか、赤子を抱いている姿は父親というよりも年の離れた兄だ。
そして今のロバートとアレス王子の年齢差よりも、私とアレス王子の年齢の方が離れている。赤子を笑顔が引きつるのが自分でもわかった。
そんな私たちをユピテルはつまらなそうに見ている。女神を放置して赤ん坊に構うのもよくないかもしれない。
ユピテルは先程嫌がっていたが暇つぶしに外見だけ元のロバートに戻される可能性だってある。
私はアレス王子にロバートを任せ雷女神へと向き直った。そうすると途端に機嫌がよくなったようだ。スイッチがよくわからない。
「ねえねえディアナちゃん」
「はい、なんでしょうか」
「ディアナちゃんもあの赤ん坊みたいに若返りたい?」
「……は?」
なぜかわくわくした様子のユピテルが妙な提案をしてきたと同時に背後でアレス王子の慌てた声が聞こえる。
とっさに振り向くと赤ん坊を取り落としそうになったのか不自然な姿勢でロバートを抱いていた。
そのままだと若いといっても腰を痛めてしまう。私は赤ん坊を預かる為にアレス王子の元へ近寄ろうとした。
「記憶はそのままで。できるわよ。ねぇ、ディアナちゃんったら!」
ユピテルは返事をしない私に対して更に声を張り上げる。三十七歳の私に。若返ることができると言い募る。
それは悪魔の囁きに聞こえた。
いや、恐らくはしないだろう。
けれどロバートだって、その時が来るまで私は彼がそんなことをするとは思わなかった。
怖い。アレス王子の好意が本物であることを知っているから怖い。
私がアレス王子に惹かれ始めているから怖い。
二人が相思相愛になったとして、それが悲劇に終わるのが怖いのだ。
自らの半身である精霊から見捨てられる。よりにもよって母譲りの膨大な魔力を持つ彼が。
それは余りにも大きすぎる罰だ。
そもそも王家がこのことを知ったら私と恋仲になること自体を許さないだろう。
マリアは許すかもしれない、国王やルーク王子もアレス王子の望んだことだからと許すかもしれない。
けれど王家を守る者たちが許さないだろう。
ただでさえ親子ほどの年齢差がある。更にそれが原因でアレス王子に魔力剥奪のリスクがある。
アレス王子は絶対そんなことにはならないと言うだろう。自分を信じてと言うだろう。
そして私がそれを信じたとして、その責任を取ることはできないのだ。精霊に罰されるのは老いた私ではなく彼なのだ。
だからディアナ、貴女がちゃんとした大人なら。この国の貴族としての責任があるのなら。
この恋になりかけたものはおしまいにしなければいけない。
「ディアナさん?」
横から肩を掴まれて思わず体が跳ね上がる。
私の大袈裟な挙動にアレス王子は酷く恐縮して謝ってきた。
「すみません、力を入れ過ぎました!」
「ちょっとぉ、女の子の華奢な肩に何してくれるのよぉ……♠」
「ち、違うのよ。痛くなんてないわ。少し考え事をしていたの」
ユピテルの声が一段と低くなったことに慌てて私はアレス王子をフォローする。
実際肩を掴む力は全く強くなかった。謝るようなことは何もないのだ。
「考え事ぉ?」
「ええ、赤子になったロバートはどうなってしまうのかと」
「グレイ前伯爵、ですか」
「マリアは追放するって言ったけれど、この状態じゃ流石に一人で旅立つのは無理よ」
ユピテルに元の年齢まで戻せるかと聞くと、戻したくないという回答が返ってきた。
「それに肉体だけじゃなく中身も赤ん坊にしちゃったもの、その状態で戻しても悪趣味なだけよぉ♡」
「ということは、今までのことも、シシリーのことも……私のことも覚えていないのですか」
「そうねぇ、もしかしてディアナちゃん…この赤ん坊を育てたいのぉ?」
ユピテルの発言に私よりも隣で話を聞いていたアレス王子の方がギョッとした顔をした。
私は静かに首を振る。赤子となったロバートに対して恨みつらみを抱える気はない。
けれど自分を捨てた男を母親代わりに育てる程倒錯した人間でもない。
「お許しいただけるなら、ロバートの父親に預けたいと思います」
私の元義父であるジェームズ。彼は父の親友でもある。
だからこそ、この歳まで跡継ぎを産めなかった私に対し離縁を迫ることはなかったのかもしれない。
シシリー登場後、彼が息子可愛さに私を批判する側に回ったことについて何も思わないわけではない。
けれど、彼だってシシリーに騙された被害者ではある。
息子可愛さに流されて騙されたことこそが義父の最大の罪ともいえるが。
「ジェームズ様には不出来な子を一から育て直すと言う償いをして頂きたいと思います」
「ディアナさん……」
「……いいわ。好きになさい」
どうでもよさそうに言うユピテルから赤子を手渡される。
なぜか自分が代わりに抱くといって聞かないアレス王子に抱き方を教えながら私は彼にロバートを抱かせた。
まだ学生のせいか、赤子を抱いている姿は父親というよりも年の離れた兄だ。
そして今のロバートとアレス王子の年齢差よりも、私とアレス王子の年齢の方が離れている。赤子を笑顔が引きつるのが自分でもわかった。
そんな私たちをユピテルはつまらなそうに見ている。女神を放置して赤ん坊に構うのもよくないかもしれない。
ユピテルは先程嫌がっていたが暇つぶしに外見だけ元のロバートに戻される可能性だってある。
私はアレス王子にロバートを任せ雷女神へと向き直った。そうすると途端に機嫌がよくなったようだ。スイッチがよくわからない。
「ねえねえディアナちゃん」
「はい、なんでしょうか」
「ディアナちゃんもあの赤ん坊みたいに若返りたい?」
「……は?」
なぜかわくわくした様子のユピテルが妙な提案をしてきたと同時に背後でアレス王子の慌てた声が聞こえる。
とっさに振り向くと赤ん坊を取り落としそうになったのか不自然な姿勢でロバートを抱いていた。
そのままだと若いといっても腰を痛めてしまう。私は赤ん坊を預かる為にアレス王子の元へ近寄ろうとした。
「記憶はそのままで。できるわよ。ねぇ、ディアナちゃんったら!」
ユピテルは返事をしない私に対して更に声を張り上げる。三十七歳の私に。若返ることができると言い募る。
それは悪魔の囁きに聞こえた。
あなたにおすすめの小説
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」