惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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女神の慈悲は試練と共に8

「俺を、できるならディアナさんと同じかそれよりも年上にしてください」

「……そんなことはぁ、出来るけどぉ♡」

「駄目よ!!」


 アレス王子の発言にユピテルが楽し気な表情を浮かべる。ただその瞳はどこか冷めたものだった。

 思わず制止した私の声は予想以上に大きな物になった。


「まだ十代なのに、一気に四十近くにまで年老いたいなんて何を考えているの……!!」

「俺はディアナさんを老いていると思ったことはありません」


 こちらをまっすぐに見つめながら断言するアレス王子にそんな事態では無いのに少しだけ喜びを感じる。  

 いや、嬉しがっている場合ではないのだ。確かに三十七歳は決して老人ではない。

 だが外見だけとはいえ、彼がこれまで生きた年数より多い歳月をスキップさせる訳にはいかない。

 もし私のせいで息子の外見がその親と同世代になってしまったらマリアやユーノ国王に何と詫びればいいのだ。

 それにアレス王子を慕っているという学園の女生徒たちに殺されても文句は言えない。

 しかし私の混乱を他所に彼は迷いのない清々しい眼差しをしていた。アレス王子を母親似だと思ったことは余りないが、その目はマリアそっくりだ。

 名案を思い付いたとばかりにキラキラと輝くろくでもない美しさに何度魅せられ巻き込まれたことか。


「確かにディアナさんが若さだけを求めているなら俺の提案は全くの無意味です」

「そうねぇ、老け損ねぇ♠」

「でも、ディアナさんが俺の隣にいる自分を意識して、年齢に拘っているなら……俺は凄い嬉しい、あ、違っ」

「あらぁ初心でお可愛いことぉ。可愛いから二十年といわず贅沢に五十年ぐらいプレゼントしようかしらぁ♡」

「絶対止めて!!」


 発言を間違えて照れているアレス王子にユピテルがすかさず悪魔のような提案をしていく。それを私は大慌てで止めた。

 理由は判らないけれどユピテルはアレス王子に対して若干当たりが強いような気がする。

 いやシシリーやロバートへの対応を考えれば少し毒があるぐらいがこの女神の通常運転なのかもしれないが。


「俺は構わないです。ディアナさんが構わないなら俺は自分の年齢も外見もどうだっていい」

「はぁ~~むかつく~~♡ 顔がいい癖にこういうこと言う男子って逆にむかつくわよねぇ、ディアナちゃん?」

「え、ええ?」


 私に話を振られても正直困る。アレス王子の主張は止めるべきだが、その発言自体は……本音を言えば少し嬉しい。

 ただこういう向こう見ずで大胆なことを言えることこそが若さなのだろうなと思うと彼の眩しさに複雑な気持ちにもなった。

 アレス王子の少年のような身と心に拘っているのはもしかしたら私の方なのかもしれない。


「年齢差が気になるなら俺が合わせればいい。王子の俺が急に年を取ったら騒ぎにはなるかもしれないけれど、羨ましがったり真似したがる奴はいない筈だ」

「確かにそうねぇ♠」

「たとえ呪い扱いされて大事になりかけても、雷女神の御業でそうなったと説明すれば納得して貰えそうですしね」

「んん?それってどういう意味かしらぁ?」


 笑顔のまま迫力だけを増すユピテルに一歩も退かずアレス王子は対峙している。

 その腕の中にはロバートだった赤ん坊がすやすやと眠っていた。最新版雷女神の御業の被害者だ。

 急激に加齢させられるのも嫌だろうが赤子になるまで幼くされるのも普通に罰や呪い扱いになるだろう。

 確かにアレス王子の言い分には一部の理がある。外見だけでも同じ年になれば相手の若さにも自らの老いにも怯えることはなくなるだろう。

 そして、彼のまっすぐな主張を聞き続けて気が付いたことが有る。

 ロバートは私と同世代だけれど、自らの年齢なんて省みず若い娘に全力で走ったのよね。

 そう、そういうことなのだ。確認すべきはそこなのだ。

 私は深呼吸をした。そして美男美女の間に割り込む。


「ユピテル神、私を老婆に変えてください」

「「……は?」」


 今度は女神とアレス王子の声が重なる。

 変わるべきはアレス王子ではなく、私の方なのだ。

 私一人が拘っていることなのだから。私が勇気を出さなければいけない。


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