惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

文字の大きさ
71 / 99

女神の慈悲は試練と共に10

 ユピテルから私へと光の矢が奔る。

 けれどそれは私の体へ触れることはなかった。

 女神の放った矢よりも、もっと眩い輝きが突如部屋を包んだのだ。

 そして部屋が元の色を取り戻した時に光の矢はどこにもなかった。

 
「バッカバカしい……」


 掠れ気味だが美しい声が不機嫌さを伴い耳に届く。

 その声を聞いた者は全員、発言者がいる場所へ視線を移動した。


「外野がえっらそーに人の色恋ホンキを試すんじゃないわよ」


 つい先程まで気を失っていた筈のマリアはベッドから身を起こし、見慣れない剣を片手に私たちを睨み付けていた。 

 恐らく彼女がユピテルの術を妨害したのだろう。

 けれど雷女神は寧ろ愉快そうにマリアへ向かい唇を吊り上げた。


「あらあらあらぁ、記憶だけでなく剣まで取り戻すなんて……本当欲張り屋さぁん♡」

「ユピテルさぁ……中途半端に思い出されるのが気持ち悪かったのはわかるけど、もう少しソフトな方法はなかったわけェ?」


 人間の一生を数十分で追体験させるなとマリアが文句を言う。親友のその発言に私は少し前のことを思い出していた。

 アレス王子を守るために自分の中の魔力を使い切って倒れた私は、数日間眠りの中にいた。

 その夢の中でこれまでの自分の人生を振り返り前向きな気持ちで目覚めることが出来たのだ。

 けれどその時の私の清々しい気分と同じものをマリアが感じたとは、その表情と口ぶりからは思えなかった。


「ったく、頭がまだガンガンする……私が円熟した完璧最強最高淑女じゃなかったら、昔の自分に記憶が乗っ取られてたわよ」

「マリアちゃんがマリアちゃんとして完成していたから、安心して荒療治をしたのよぉ♠」

「だったら、昔の関係なんて持ち出さずに引っ込んでなさいよ……ディアナ」

「はっ、はい?!」


 親密さとも違う密な空気を纏って会話をする二人に介入することも出来ず立ち尽くしていた私を、突然マリアが呼んだ。

 手招きをされて彼女の座る寝台へ慌てて近付く。

 いつのまにかベッドの側の床に無造作に突き刺されていた剣は刀身に雷の魔力を纏わせていたがそれもすぐに消える。

 私にはそれが剣が魔力を吸い取ったように見えた。剣のことも気になるが今は目覚めたマリアだ。


「ここ、座る」


 マリアの隣を指さされて私は言われるままに座った。

 途端間髪入れずに頬を両手でビッタンと押し潰される。

 痛みからくる怒りと変顔をアレス王子に見られているだろう恥ずかしさと。そしてマリアの行動の意味不明さに私は顔を赤くし混乱した。


「あんたさぁ、まだスッピンすら見せてない男に対してシワシワになった数十年後の自分を見てとか順番ぶっ飛ばしすぎでしょ!」

「にゃ、にゃにを……」

「恋愛なんてねぇ、ぶっちゃけ数カ月で別れることもあんのよ!数十年後のことは数十年後に考えなさいよ恋愛下手女!!」


 好き放題言ってくれるじゃない。確かに私はこれまでずっとロバート一筋で、恋愛上手で絶対ないだろうが。

 ただそれだけが理由で回りくどくなっているわけじゃない。私はマリアの掌を渾身の力で引きはがして反論を言った。


「だっ、だって、もしアレス王子が老いた私を捨てたら……炎の精霊神の罰がむぎゅ」

「そんなのは捨てた男とその身内が考えるべきで、あんたが心配することじゃない。あんたは自分以外のことばっか考えてんじゃないの!!」


 炎の精霊神の罰が不当だったら私が親として文句を言ってやるわよ。そうマリアは再度私の頬を拘束すると鼻が触れ合うような距離で言った。


「アレスが万が一ロバートみたいなアホになったならその時は私がぶん殴って性根を叩き直してやるわ、母親ですもの」

「だからこそよ。私はマリアの子供から……魔力を奪いたくないのよ!」


 ルーク王子の時に傷つく貴女を見たから。そう、うっかり口を滑らせてしまう。

 慌てて掌で口元を抑えようとしたが、マリアの真剣な眼差しがそれを許さなかった。



「私だって見栄っ張りでいつもちゃんと綺麗に化粧しているアンタが

 好きになりかけている男にわざと醜く老いた姿を見せようとしているのなんて見たくないのよ……無理、しないでよ」


 親友なら、今度こそわかりなさいよ。

 そうマリアは言うと私を痛いぐらいに強く抱きしめた。

あなたにおすすめの小説

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」