惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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精霊は英雄の記憶を手渡す1

『ねえ、主様マスター

『なんだい、ユピテル』

『主様も、馬鹿マルスみたいに綺麗な女の人が好きなんですかぁ?』

『……まあ、好きだと思うよ』

『えーっ、ぼくたちよりもぉ?』

『はは、好きの種類が違うよ。勿論、お前たち精霊のことも好きで大切だ』


 好きに種類があるなんて、その時まで僕は知らなかった。

 彼はいつだって複雑な感情を僕たち精霊に教えてくれる。


『……わたくしはそっちの好きがよかったのに』


 気づいた時には貴男は冷たくなっていた。



______


 加護を授けると言ってユピテルが自らの額飾りに私の指を触れさせた時、そこから色々な光景が一挙に流れ込んできた。

 もしかしたらそれは彼女の記憶の一部なのかもしれない。

 けれどそれは一瞬の間に何百枚もの絵を見せられたようなもので、全てを覚え忘れず留めておくことは困難だった。

 ただ、壮大でありながら悲しい終わり方をする物語を読んだような切ない虚無感だけは胸にしっかりと残った。


「はい、終わりぃ。これでディアナちゃんの雷の魔力はかーなーりレベルアップしたわぁ♡」


 ユピテルの明るい声が聞こえて現実に引き戻される。

 雷の魔力がレベルアップ? それが加護の効果なのだろうか。かなりとは具体的にどれ位なのだろう。

 というか精霊神の加護を受けるとその精霊の属性魔力がかなり上がるのか。成程、マリアの風魔法が群を抜いている理由が分かった。


「ちょっとディアナ、爛々とした目でこっち見ないでよ。魔法の試し撃ち企んでるんじゃないでしょうね?」 

「そんなことしないわよ。マリアは魔法防御値が高くて参考にならないもの」


 大袈裟に後ろへのけ反る友人に私は呆れて見せる。

 こちらの雷撃魔法で肩凝りを癒している癖に怖がる振りなど白々しすぎる。

 彼女とその近くにある剣を交互に見つめる。先程一瞬見えた光景と流れ込んできた情報でわかったことがあった。


「マリア、貴女の前世って英雄王マルスね?」
 
「……は、」


 私の言葉にマリアは一瞬呼吸の仕方を忘れたようだった。

 先程見た光景の多くにマリアを男性にしたような青年が存在していた。マリアにそっくりだから優先的に記憶に引っ掛かったのだと思う。

 大抵彼は今床に刺さっている物と同じらしき剣を携えていて……美しい女性型の精霊ばかり周囲に侍らせていた。

 それで気づいたのだ。その人物が英雄王だということを。

 ガールズ・マスター。これは偉大な建国の英雄であるマルスの異名の一つだ。悪名ともいう。

 彼は不思議な魅力で多くの精霊に慕われその力を使役したという。

 だが、その精霊は全て彼の趣味で『美女』であったとのことだ。

 マルスの冒険譚が今でも人気なのはそういった俗っぽさがあったからかもしれない。 

 ただその割に王になった後の話は余り残されていないが。

 出会った頃のマリアを思い出す。学生時代の彼女は毎日飽きもせず美形の男子生徒や教師に愛想を振りまいていた。

 ユーノ国王と正式な恋仲になるまではあっちにフラフラこっちにフラフラと花を探す蜜蜂の様だったのだ。

 美しく魅力的な顔立ち、謎のカリスマ性、強大な魔力。そしてその気の多さ。

 マリアがマルス王の生まれ変わりだと言われてもしっくりくる。寧ろそれ以外の選択肢はない。

 私がその考えを今度は口に出して話すとマリア以外の全員が納得してくれた。

 何よりユピテルが正解だとお墨付きをくれたので確実だ。

 実母が伝説の英雄の転生体と知ったアレス王子は年頃の男子らしく感激していて可愛らしさを感じた。

 よく考えると彼はマルス王の血を継いだ上その生まれ変わりを母に持つのか。

 ルーク王子もだけれど、凄い事だと私は思った。

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