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精霊は英雄の記憶を手渡す2
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「マルスはねぇ、違う世界からこの世界に召喚された稀人だったのよ」
だから精霊以上に変っていた。そうユピテルは笑う。
マリアの前世が判明した後、ついでだからと女神はマルスについて語り始めた。
私たちは他言しないという約束で雷女神から太古の英雄の話を聞くことになった。
本当はこういう事をしている場合ではないかもしれないけれど、ただ人によっては命に代えても手に入れたい時間だとわかっていた。
当時英雄と共に在ったものからその話を聞けるのだから。そのことを一番喜んでいたのはアレスだった。
彼がマルスの子孫なことを考えれば当然かもしれない。私はそれに水を差す気になれず、マリアも息子の願いを叶えたいのか異議を唱えなかった。
だから私たちはあるものは寝台に座りながら、あるものは椅子に座りながら、空中に浮かぶ女神の話を聞いていた。
マリアは退屈な授業を受けている時と同じ顔をして時折赤子のロバートをあやしていた。
「だからいつも訳の分からない理屈ばかりこねていて、女性の精霊ばかり侍らせるのも確か……そういう拘りじゃなくて……うん『縛り』だって、言ってたわねぇ」
絶対美人しか仲間にしないが口癖だった。そうユピテルは呆れたように言った。
英雄に対して不遜かもしれないが私も恐らく雷女神と同じ気持ちだ。
「ただバイタリティは確かに凄かったわぁ。元の世界から全然理の違うこの世界に来ても怯えるどころか全力で楽しんでいたわね」
精霊は活力に溢れた特別な人間が好きだから、多くの精霊が彼の味方をするようになった。
ユピテルは懐かしそうな表情で当時を語る。
「マルスは変わり者だった。多分元の世界でも変人扱いだったと思う。でもだからこそ、まともな人間では成し得ないことができたのねぇ」
精霊たちの心を開き、人々を動かし、この地を支配していた邪竜の一族を打倒した。
そして人間たちの国をつくったのだとユピテルは彼の功績について語った。
「でも、何より変わっているのはこの世界を不便だ面倒だと言い続けながら結局元の世界に戻らなかったことよねぇ……どうして?」
そうユピテルはマリアを見て尋ねる。いや実際に見ているのはマリアではない。彼女の中の『マルス』に問うているのだ。
マリアは憮然とした表情を浮かべていた。その表情を形成しているのは果たして王妃なのか、それとも英雄なのか。私には判断が難しかった。
「……そんなの、人に話すことじゃないわよ。人にはプライバシーってもんがあるの、平気で心を読む精霊にはわからないでしょうけど」
マリアの返答は正論だが彼女らしくない煮え切らなさだった。私はそこに照れの感情を察したが、その理由については思い至らなかった。
ただユピテルはと言うと目に見えてニヤニヤと笑っていた。それがまるで悪戯小僧のようで不意に見せた幼さを微笑ましく思う。
「それってぇ、今マリアちゃんの心を読んでもいいってことぉ?」
「なんでそういう発想になるのよ……読めるものなら読んでみなさいよ」
「うーん、もう無理ねぇ。わたくしより今のマリアちゃんの方が魔力が上だもの」
あっそうとマリアは淡々と返した。
けれど今ユピテルは聞き捨てならないことを言わなかっただろうか。
精霊神である彼女よりも、マリアの方が魔力が上であるとか。
いや、マリアは先程古代の英雄の記憶を取り戻した。その時に魔力値も英雄並みに上がったのかもしれない。
私の考えを否定するようにユピテルは言った。
「ディアナちゃんの心も、もう読めなくなっちゃった♡」
そろそろ女神もおしまいかもね。そう話すユピテルは何故か楽し気だった。
だから精霊以上に変っていた。そうユピテルは笑う。
マリアの前世が判明した後、ついでだからと女神はマルスについて語り始めた。
私たちは他言しないという約束で雷女神から太古の英雄の話を聞くことになった。
本当はこういう事をしている場合ではないかもしれないけれど、ただ人によっては命に代えても手に入れたい時間だとわかっていた。
当時英雄と共に在ったものからその話を聞けるのだから。そのことを一番喜んでいたのはアレスだった。
彼がマルスの子孫なことを考えれば当然かもしれない。私はそれに水を差す気になれず、マリアも息子の願いを叶えたいのか異議を唱えなかった。
だから私たちはあるものは寝台に座りながら、あるものは椅子に座りながら、空中に浮かぶ女神の話を聞いていた。
マリアは退屈な授業を受けている時と同じ顔をして時折赤子のロバートをあやしていた。
「だからいつも訳の分からない理屈ばかりこねていて、女性の精霊ばかり侍らせるのも確か……そういう拘りじゃなくて……うん『縛り』だって、言ってたわねぇ」
絶対美人しか仲間にしないが口癖だった。そうユピテルは呆れたように言った。
英雄に対して不遜かもしれないが私も恐らく雷女神と同じ気持ちだ。
「ただバイタリティは確かに凄かったわぁ。元の世界から全然理の違うこの世界に来ても怯えるどころか全力で楽しんでいたわね」
精霊は活力に溢れた特別な人間が好きだから、多くの精霊が彼の味方をするようになった。
ユピテルは懐かしそうな表情で当時を語る。
「マルスは変わり者だった。多分元の世界でも変人扱いだったと思う。でもだからこそ、まともな人間では成し得ないことができたのねぇ」
精霊たちの心を開き、人々を動かし、この地を支配していた邪竜の一族を打倒した。
そして人間たちの国をつくったのだとユピテルは彼の功績について語った。
「でも、何より変わっているのはこの世界を不便だ面倒だと言い続けながら結局元の世界に戻らなかったことよねぇ……どうして?」
そうユピテルはマリアを見て尋ねる。いや実際に見ているのはマリアではない。彼女の中の『マルス』に問うているのだ。
マリアは憮然とした表情を浮かべていた。その表情を形成しているのは果たして王妃なのか、それとも英雄なのか。私には判断が難しかった。
「……そんなの、人に話すことじゃないわよ。人にはプライバシーってもんがあるの、平気で心を読む精霊にはわからないでしょうけど」
マリアの返答は正論だが彼女らしくない煮え切らなさだった。私はそこに照れの感情を察したが、その理由については思い至らなかった。
ただユピテルはと言うと目に見えてニヤニヤと笑っていた。それがまるで悪戯小僧のようで不意に見せた幼さを微笑ましく思う。
「それってぇ、今マリアちゃんの心を読んでもいいってことぉ?」
「なんでそういう発想になるのよ……読めるものなら読んでみなさいよ」
「うーん、もう無理ねぇ。わたくしより今のマリアちゃんの方が魔力が上だもの」
あっそうとマリアは淡々と返した。
けれど今ユピテルは聞き捨てならないことを言わなかっただろうか。
精霊神である彼女よりも、マリアの方が魔力が上であるとか。
いや、マリアは先程古代の英雄の記憶を取り戻した。その時に魔力値も英雄並みに上がったのかもしれない。
私の考えを否定するようにユピテルは言った。
「ディアナちゃんの心も、もう読めなくなっちゃった♡」
そろそろ女神もおしまいかもね。そう話すユピテルは何故か楽し気だった。
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