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精霊は英雄の記憶を手渡す3
「そろそろ女神もおしまい? ハッ、男に戻ってディアナにでも迫るつもり?」
ユピテルの衝撃的な発言に一番最初に反応したのはマリアだった。
その棘のある言葉に再度雷を落とされるのではないかと私は冷や冷やする。
けれど雷女神は怒りもせず穏やかな表情でマリアの悪趣味な揶揄いに答えた。
「戻らないわ。確かにきっかけはあの方だけれど、わたくしはこの姿の自分が一番好きだもの」
あの方と、彼女が愛おし気に言った瞬間パリンと氷を割るような音が聴こえた気がした。
当然この部屋に氷なんてない。空耳だと結論づけて私は目の前の光景に意識を戻した。
ユピテルは相変わらず淡く輝きながら優雅に浮いていて、マリアはそれを不機嫌そうに見ていた。
この二人はもしかしたら仲が悪いのだろうか。マリアの固い表情にそんなことを思う。
けれど本当に嫌いな相手にならマリアは寧ろ感情を見せることはしない。
それに好き嫌いの感情を抜きにした部分で二人は通じ合っている気がした。
ただ、その理由が私にはわからない。二人を繋いでいる者の正体が私にはどうしても見えない。
「マリアちゃん、いいえマルス。あなたたちの話をしてみて」
ユピテルの言葉にマリアが首を振る。雷女神は少しだけ気落ちしたようだった。
無言のままマリアが口を開く。そこから覗く舌を見て私は小さく悲鳴を上げた。
「……やっぱりこの方法でも駄目なのね」
マリアの淡い紅色の舌。その赤色を侵食するように大量の穴が穿たれている。まるで杭の刺し後のように。
それは悪夢のような光景だった。ふらつきそうになるのをアレス王子が背後から支えてくれた。
「あの方の思い出だけでなく、あの方が含まれる思い出さえ語ることを許さない……悲しくも忌々しい事
わたくしがディアナちゃんに加護と共に授けた記憶だって、きっと虫食いだらけにされてしまったのでしょうね」
残念そうにユピテルが言う。先程加護を授けられた時に見せられた大量の光景を私は思い出す。
虫食いかどうかはわからないが、確かにマルスやユピテルの映る光景に混じり何枚か黒塗りの絵が存在する気がした。
もしかしたらそれこそが、私が思い出せないでいる何かなのかもしれない。
「思い出す必要ってあるの?」
マリアが言う。自分に話しかけられたのかと思ったがどうやら違うようだ。
ユピテルに話しかけたマリアはその後こちらへ向き直った。そして子供をあやすようなおどけ顔で舌を突き出す。
「あ……」
私は安堵の声を漏らす。
その時に見えた舌は先程のおぞましい特徴が嘘のように消え去っていた。
しかし、ならば先程の夥しい穴は何だったのだろう。
「思い出す必要はあるわね。ディアナちゃんが呪縛から解放されるには」
「呪縛ねぇ……今更解く意味ある? ディアナの身の安全や、アンタの神性を犠牲にして」
「意味はあるわ。ディアナちゃんはあの方の生まれ変わりだけれどあの方じゃない」
「そうね、当たり前のことだわ。私もマルスもそう。完全に別人よ。千年前に繋がる人生なんて送っていない」
「けれどそう思わない連中もいる。はっきりいいましょう。精霊の半数以上は割り切れていないわ」
二人は恐らく私について話している。けれどまるで他人事のように感じるのが不思議で少し不快だった。
自分の勘が鈍く「されている」と感じる。誰がどんな目的でそうしているかはわからない。
もしかしたら加護を受ける前からそうだったのかもしれない。
けれど私に呪縛がかけられている? 生憎三十七年間生きていて、そのような心当たりはない。
ユピテルが行儀悪く舌打ちをする。
「ディアナちゃんが子供を産むことが出来ないのは、闇の精霊たちがそう仕向けているからよ」
あいつら特に歪んでいるわ。
吐き捨てるように告げたユピテルに私は知らず詰め寄っていた。
ユピテルの衝撃的な発言に一番最初に反応したのはマリアだった。
その棘のある言葉に再度雷を落とされるのではないかと私は冷や冷やする。
けれど雷女神は怒りもせず穏やかな表情でマリアの悪趣味な揶揄いに答えた。
「戻らないわ。確かにきっかけはあの方だけれど、わたくしはこの姿の自分が一番好きだもの」
あの方と、彼女が愛おし気に言った瞬間パリンと氷を割るような音が聴こえた気がした。
当然この部屋に氷なんてない。空耳だと結論づけて私は目の前の光景に意識を戻した。
ユピテルは相変わらず淡く輝きながら優雅に浮いていて、マリアはそれを不機嫌そうに見ていた。
この二人はもしかしたら仲が悪いのだろうか。マリアの固い表情にそんなことを思う。
けれど本当に嫌いな相手にならマリアは寧ろ感情を見せることはしない。
それに好き嫌いの感情を抜きにした部分で二人は通じ合っている気がした。
ただ、その理由が私にはわからない。二人を繋いでいる者の正体が私にはどうしても見えない。
「マリアちゃん、いいえマルス。あなたたちの話をしてみて」
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無言のままマリアが口を開く。そこから覗く舌を見て私は小さく悲鳴を上げた。
「……やっぱりこの方法でも駄目なのね」
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それは悪夢のような光景だった。ふらつきそうになるのをアレス王子が背後から支えてくれた。
「あの方の思い出だけでなく、あの方が含まれる思い出さえ語ることを許さない……悲しくも忌々しい事
わたくしがディアナちゃんに加護と共に授けた記憶だって、きっと虫食いだらけにされてしまったのでしょうね」
残念そうにユピテルが言う。先程加護を授けられた時に見せられた大量の光景を私は思い出す。
虫食いかどうかはわからないが、確かにマルスやユピテルの映る光景に混じり何枚か黒塗りの絵が存在する気がした。
もしかしたらそれこそが、私が思い出せないでいる何かなのかもしれない。
「思い出す必要ってあるの?」
マリアが言う。自分に話しかけられたのかと思ったがどうやら違うようだ。
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「あ……」
私は安堵の声を漏らす。
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しかし、ならば先程の夥しい穴は何だったのだろう。
「思い出す必要はあるわね。ディアナちゃんが呪縛から解放されるには」
「呪縛ねぇ……今更解く意味ある? ディアナの身の安全や、アンタの神性を犠牲にして」
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「けれどそう思わない連中もいる。はっきりいいましょう。精霊の半数以上は割り切れていないわ」
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もしかしたら加護を受ける前からそうだったのかもしれない。
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ユピテルが行儀悪く舌打ちをする。
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