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精霊は英雄の記憶を手渡す4
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私は子供が産めなかったのではない。
子供を産めなくされていたのだ。
「……何なのよ、それ……何なのよそれぇっ!!」
「ディアナさん!!」
「じゃあ私が、どれだけ欲しがっても、邪魔をされていたから、全部無駄だったって言うの?! ……何十年も!!」
「……申し訳ないわね」
ユピテルに対し声を荒げるなんて間違っている。そう理解していても感情を声に出すことを止めることは出来なかった。
なんで、なんで私がそのようなことをされなければいけないのか。
精霊にそこまで恨まれる心当たりなんてない。
いや、心当たりがないから恨まれているのか?
「……高位の精霊連中はいつから私たちを見張っていたわけ?」
マリアの冷静な声が聞こえる。精霊が私たちを見張る? 私が疑問を口にする前にユピテルが答えた。
「転生を把握したのは生れ落ちた直前かしらね。その時は結構方針で揉めたわ」
「方針? 何のよ」
「貴女たちに転生前の記憶と人格を与えるか、ね」
「ハ、何様過ぎるわ? ああ、神様か」
「意地悪言わないで。結局それは短き命に対して僭越な行為だとなったのだから。貴女たちは前世の続きではなく新しい今生を始めるべきだって」
「……でも納得してない奴がいたってわけでしょ。闇の精霊とか」
闇の精霊。マリアから出た言葉に唇を噛みしめる。先程のユピテルの発言だけで対象に憎悪が膨れ上がっていくのを感じた。
それは良くない事だとわかっている。憎しみは判断を誤らせ剣先を滑らせる。昔から言われていることだ。
けれど、感情が上手く抑えられない。だから黙っていることにした。口を開けば呪詛しか零れない。
「納得していなくても決定には従わなければいけない。違えれば契約の精霊から罰を受けるもの」
「契約の精霊ミトラース……拘束の精霊やら従属の精霊やらを従えていたあの堅物女ね。まあ美人だったけど」
融通が利かない割に間が抜けている。辛辣なマリアの言葉にユピテルは苦笑いをしたようだった。
「それでも彼女の契約に関する権能の強さには変わらないわ。その穴を上手くすり抜けられたわーやったわーと思っても……こうだもの」
雷女神が繊手を私達の眼前に差し出す。真っ白で陶器のように滑らかな肌だ。
けれど、彼女がゆるやかに腕を動かす度に霜柱が割れるような音がするのは何故だろう。
「ミトラースなりの慈悲かしら。完全に砕け散る瞬間までこの姿を保てるのは」
「中途半端な慈悲ね。あんたら精霊神連中は極力私とディアナに関わらない。理由は前世を思い出させない為。破った場合はペナルティあり。これで合ってる?」
「あん、急がないでマリアちゃん♡ まあ合っているけれど」
「あんたが寧ろ焦りなさいよ。私は魔竜を倒さなければいけない運命だったから精霊がそれなりに関わる必要があった。でもただの貴族のディアナにはなかった。なのに高位精霊が関与すればすぐわかる筈だけれど?」
「……ディアナちゃんには指一本触れていないのよ。だから長いこと気づかれなかったのね」
「は?」
さりさりと、ユピテルの体の中から音がする。まるで内側から削られているように。
彼女が話すのを止めるべきだと思った。けれど私は止められなかった。
「あいつらはディアナちゃんの子供として生まれる筈だったものたちの運命を捻じ曲げ続けていたのよ」
だからディアナちゃんの元には誰一人宿ることはなかった。
そう告げた途端ユピテルの腕が、脆い人形のようにぽとりと落ちた。
子供を産めなくされていたのだ。
「……何なのよ、それ……何なのよそれぇっ!!」
「ディアナさん!!」
「じゃあ私が、どれだけ欲しがっても、邪魔をされていたから、全部無駄だったって言うの?! ……何十年も!!」
「……申し訳ないわね」
ユピテルに対し声を荒げるなんて間違っている。そう理解していても感情を声に出すことを止めることは出来なかった。
なんで、なんで私がそのようなことをされなければいけないのか。
精霊にそこまで恨まれる心当たりなんてない。
いや、心当たりがないから恨まれているのか?
「……高位の精霊連中はいつから私たちを見張っていたわけ?」
マリアの冷静な声が聞こえる。精霊が私たちを見張る? 私が疑問を口にする前にユピテルが答えた。
「転生を把握したのは生れ落ちた直前かしらね。その時は結構方針で揉めたわ」
「方針? 何のよ」
「貴女たちに転生前の記憶と人格を与えるか、ね」
「ハ、何様過ぎるわ? ああ、神様か」
「意地悪言わないで。結局それは短き命に対して僭越な行為だとなったのだから。貴女たちは前世の続きではなく新しい今生を始めるべきだって」
「……でも納得してない奴がいたってわけでしょ。闇の精霊とか」
闇の精霊。マリアから出た言葉に唇を噛みしめる。先程のユピテルの発言だけで対象に憎悪が膨れ上がっていくのを感じた。
それは良くない事だとわかっている。憎しみは判断を誤らせ剣先を滑らせる。昔から言われていることだ。
けれど、感情が上手く抑えられない。だから黙っていることにした。口を開けば呪詛しか零れない。
「納得していなくても決定には従わなければいけない。違えれば契約の精霊から罰を受けるもの」
「契約の精霊ミトラース……拘束の精霊やら従属の精霊やらを従えていたあの堅物女ね。まあ美人だったけど」
融通が利かない割に間が抜けている。辛辣なマリアの言葉にユピテルは苦笑いをしたようだった。
「それでも彼女の契約に関する権能の強さには変わらないわ。その穴を上手くすり抜けられたわーやったわーと思っても……こうだもの」
雷女神が繊手を私達の眼前に差し出す。真っ白で陶器のように滑らかな肌だ。
けれど、彼女がゆるやかに腕を動かす度に霜柱が割れるような音がするのは何故だろう。
「ミトラースなりの慈悲かしら。完全に砕け散る瞬間までこの姿を保てるのは」
「中途半端な慈悲ね。あんたら精霊神連中は極力私とディアナに関わらない。理由は前世を思い出させない為。破った場合はペナルティあり。これで合ってる?」
「あん、急がないでマリアちゃん♡ まあ合っているけれど」
「あんたが寧ろ焦りなさいよ。私は魔竜を倒さなければいけない運命だったから精霊がそれなりに関わる必要があった。でもただの貴族のディアナにはなかった。なのに高位精霊が関与すればすぐわかる筈だけれど?」
「……ディアナちゃんには指一本触れていないのよ。だから長いこと気づかれなかったのね」
「は?」
さりさりと、ユピテルの体の中から音がする。まるで内側から削られているように。
彼女が話すのを止めるべきだと思った。けれど私は止められなかった。
「あいつらはディアナちゃんの子供として生まれる筈だったものたちの運命を捻じ曲げ続けていたのよ」
だからディアナちゃんの元には誰一人宿ることはなかった。
そう告げた途端ユピテルの腕が、脆い人形のようにぽとりと落ちた。
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