惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

文字の大きさ
77 / 99

精霊は英雄の記憶を手渡す4

しおりを挟む
 私は子供が産めなかったのではない。

 子供を産めなくされていたのだ。


「……何なのよ、それ……何なのよそれぇっ!!」

「ディアナさん!!」

「じゃあ私が、どれだけ欲しがっても、邪魔をされていたから、全部無駄だったって言うの?! ……何十年も!!」

「……申し訳ないわね」


 ユピテルに対し声を荒げるなんて間違っている。そう理解していても感情を声に出すことを止めることは出来なかった。

 なんで、なんで私がそのようなことをされなければいけないのか。

 精霊にそこまで恨まれる心当たりなんてない。

 いや、心当たりがないから恨まれているのか?


「……高位の精霊連中はいつから私たちを見張っていたわけ?」


 マリアの冷静な声が聞こえる。精霊が私たちを見張る? 私が疑問を口にする前にユピテルが答えた。


「転生を把握したのは生れ落ちた直前かしらね。その時は結構方針で揉めたわ」

「方針? 何のよ」

「貴女たちに転生前の記憶と人格を与えるか、ね」

「ハ、何様過ぎるわ? ああ、神様か」

「意地悪言わないで。結局それは短き命に対して僭越な行為だとなったのだから。貴女たちは前世の続きではなく新しい今生を始めるべきだって」

「……でも納得してない奴がいたってわけでしょ。闇の精霊とか」


 闇の精霊。マリアから出た言葉に唇を噛みしめる。先程のユピテルの発言だけで対象に憎悪が膨れ上がっていくのを感じた。

 それは良くない事だとわかっている。憎しみは判断を誤らせ剣先を滑らせる。昔から言われていることだ。

 けれど、感情が上手く抑えられない。だから黙っていることにした。口を開けば呪詛しか零れない。


「納得していなくても決定には従わなければいけない。違えれば契約の精霊から罰を受けるもの」

「契約の精霊ミトラース……拘束の精霊やら従属の精霊やらを従えていたあの堅物女ね。まあ美人だったけど」


 融通が利かない割に間が抜けている。辛辣なマリアの言葉にユピテルは苦笑いをしたようだった。


「それでも彼女の契約に関する権能の強さには変わらないわ。その穴を上手くすり抜けられたわーやったわーと思っても……こうだもの」


 雷女神が繊手を私達の眼前に差し出す。真っ白で陶器のように滑らかな肌だ。

 けれど、彼女がゆるやかに腕を動かす度に霜柱が割れるような音がするのは何故だろう。


「ミトラースなりの慈悲かしら。完全に砕け散る瞬間までこの姿を保てるのは」

「中途半端な慈悲ね。あんたら精霊神連中は極力私とディアナに関わらない。理由は前世を思い出させない為。破った場合はペナルティあり。これで合ってる?」

「あん、急がないでマリアちゃん♡ まあ合っているけれど」

「あんたが寧ろ焦りなさいよ。私は魔竜を倒さなければいけない運命だったから精霊がそれなりに関わる必要があった。でもただの貴族のディアナにはなかった。なのに高位精霊が関与すればすぐわかる筈だけれど?」

「……ディアナちゃんには指一本触れていないのよ。だから長いこと気づかれなかったのね」

「は?」


 さりさりと、ユピテルの体の中から音がする。まるで内側から削られているように。

 彼女が話すのを止めるべきだと思った。けれど私は止められなかった。


「あいつらはディアナちゃんの子供として生まれる筈だったものたちの運命を捻じ曲げ続けていたのよ」


 だからディアナちゃんの元には誰一人宿ることはなかった。

 そう告げた途端ユピテルの腕が、脆い人形のようにぽとりと落ちた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします

ほーみ
恋愛
 その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。  そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。  冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。  誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。  それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。  だが、彼の言葉は、決定的だった。 「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

処理中です...