惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

文字の大きさ
81 / 99

夜が明ければ新しい朝が始まる2

 王妃の私室で軽い食事を摂ってから座って体を休めていると、入浴の準備が出来たと侍女が呼びに来た。

 当然マリアに順番を譲ったが「残り湯に入るのも一緒に入るのも同じことでしょ」と連れていかれた。

 その二つは大分違うと思うが、マリアの強引さには慣れている。

 それに王妃専用の浴場はかなり大きめの作りになっていることは前から知っていたから抵抗は止した。

 成人女性なら五人ぐらいが体をぶつけずに入れる浴槽に張られた湯は淡い紅色に色づいていて湯気からは薔薇の香りがする。

 体を軽く洗ってすぐに湯に浸かったマリアは「傷にしみて痛い!」と元気に叫んだ。


「治療して貰えば良かったのに」 

「だってただの掠り傷と打撲よ、人呼んで治してもらってとか、面倒じゃない」


 沢山食べて沢山眠れば数日で治るわよ。マリアが豪快に言い切る。

 昔の様にはいかないわよ。私が窘めると耳を塞いで聞こえない振りをした。

 マリアは自分の美に自信があり身を飾ることも好きだが、こういう所が昔から大雑把だ。

 だから強引にでも体の手入れをして貰える王妃の地位にいるのは良い事なのかもしれない。

 私も湯を汚さない程度に全身を洗うと、マリアと向かい合うようにして大きな湯船に入った。

 こうやって彼女と一緒に入浴するのは初めてではない。

 王妃特権で珍しい入浴剤が少量手に入った時などに呼びつけられてこうやって恩恵に与る時があった。

 馨しいが強すぎない花の匂いが心地よい。そこまで希少な物でなければ自宅でも使いたいぐらいだ。
 

「あ」


 私がそんなことを考えているとマリアが何かを思いついたように小さく叫ぶ。

 その両手で浴槽から湯を掬うと彼女は目を閉じて呪文を唱えた。


「心優しきネレイスよ、癒しの水を与え給え」


 その言葉が終わった瞬間、マリアの掌に満ちた湯が光り輝く。

 静かに目を開けた彼女はゆっくりと両手を離しそれを湯船へと戻した。

 マリアが裸体であることも関係してその一連の動作はまるで聖なる儀式のようだった。

 私は神聖な行為に立ち会ったようなときめきを僅かに覚え、彼女の次の動きを見守る。

 マリアは肩まで一気に湯に浸かると深く息を吐いた。


「ふお~めっちゃ治癒キュアされる~サイコ~~。前世の記憶取り戻して一番良かったの確実にこれ~~」


 落差に耐えきれず湯船に頭から沈む。

 その後湯から顔を出した私にマリアは呆れたように告げた。


「別に全身浸からなくても、普通に効果はあるわよ?」

「そういう理由ではないわ」


 髪の毛から大量の水を零しながら私は言う。

 その後手渡された布で顔を拭った。


「ありがとう」

『ドウイタシマシテ』


 マリアの声ではない、ガラスのベルを鳴らしたような可憐な声で返事をされる。

 不審に思いながら目を見開くと、湯と同色をした透き通った少女が私にむかってニコニコと微笑みかけていた。

あなたにおすすめの小説

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」