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夜が明ければ新しい朝が始まる4

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「ユピテルがさ、あんたに対して最初は無関心だったって言ってたじゃない」


 絶対嘘よ。マリアは両手で湯を掬いながら言う。


「だってそれなら何でこのタイミングで人間界に出張ってきてんのって話でしょ」


 別にあんたが『誰か』に似てきたわけでもないし。

 そう口にした後マリアは暫く黙っていた。

 確かに無関心だったというのは彼女の嘘だと思う。

 けれど無関心であろうとしたなら、間違いではないのかもしれない。


「……ユピテルは一途だったのよ」


 私は湯に映る自分の顔を見ながら言った。

 優しげでも可憐でもないけれど男性的ではない。普通の女の顔だ。

 多分私はユピテルが愛した人間と顔も中身も似ていない。

 前世の記憶もない、そうでないただの『ディアナ』である私。

 生まれ変わりとはいえそんな存在に心を動かすことを雷女神は不義だと感じたのかもしれなかった。

 もしかしたら女性として男性を愛したかったというのもあるかもしれない。

 だから私はユピテルが消える直前に知らない『誰か』を演じてみたのだ。きっと似ていなかっただろうけれど。


「あーあ、男は男、女は女で別腹で愛せばよかったのに、アイツ不器用すぎじゃない?」

「その倫理観には異を唱えたいわね……ただ、不器用だったとは思うわ。きっと、真面目なのよ」

「真面目な性格の坊やが精一杯努力してはっちゃけたのがあの女神の姿ってわけね……まあ、美人ではあったわね」

「ええ、綺麗だったわ」


 まるで雷光のように鮮烈で一瞬のような邂逅だった。

 人の身である私でさえそうなのだから、女神の身であるユピテルなら尚更そう感じただろう。

 一つの恋の為に身を変え千年を生きて、散った。想い人との再会は叶わないままに。 


「……彼女には、もう会えないのかしら」


 マリアに頭を撫でられて喜んでいたティティスを見て思った。

 もし私が前世の記憶を取り戻していたなら、彼女はあんな風に笑ったのかもしれない。


「……いつかは会えるんじゃないの、別に死んだわけじゃないし」


 ユピテルは死んでないけど、泣きたいなら泣けばいいわよ。

 そう言った後マリアは浴室から去った。

 私は彼女の言葉に甘えて湯に沢山の涙を落とした。



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