惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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夜が明ければ新しい朝が始まる5

 湯に浸かり過ぎたのか少し逆上せてしまった。

 侍女が持ってきてくれた冷たい水が喉に心地よかった。

 少しだけバスローブで休ませてもらってから用意されたドレスに着替える。

 与えられた部屋に案内されてから食事は二時間後になると告げられた。

 時間になったらお呼びしますと頭を下げて侍女は静かに退出していった。

 この後マリアが来室するか、それとも呼び出してくるのかと思い待っていたがその様子はない。

 一人でじっくりと考えろということなのだろうか。

 確かに考えることは幾らでもある。

 ロバートが赤子になった件をどう元義父に切り出すか。ユピテルが私に授けた加護とは具体的にどういうものなのか。

 自分の前世だって当然気になるし、前世の記憶を取り戻したマリアのことも心配している。

 マリアに呼び出されたティティスは無邪気に再会を喜んでいた。

 それを見て思ったが、ティティス以外の精霊だってマルスの記憶を取り戻したマリアとの再会を望むのではないだろうか。


「……まあ、マリアなら上手くやれるわね」  


 そう無責任なことを呟きながら侍女が置いていったワインと一緒に枝付きの干し葡萄をつまんだ。

 大変そうなら当然手助けはする気だが、不器用な性格の己が役立つことはあるのだろうかと疑問に思う。 
 
 今回だってマリアに恋愛下手だと指摘されてしまった。

 確かに幼い頃にロバートと婚約したきりの私に豊富な恋愛経験などない。

 けれど、それは貴族の女として普通ではないだろうか。

 だが夫と妻、それぞれに公認の愛人がいる貴族もいると噂で聞いたことがある。

 私だって、もしロバートがシシリーを愛人として紹介してきたなら受け入れていたかもしれない。

 そうなっていたなら恐らく出産するまでロバートの子ではないと気づけなくて大変なことになっただろう。

 シシリーは罰せられ、生まれた子は……もしかしたら私が引き取っていたかもしれない。

 それぐらい私は、我が子が欲しかった。


「でも、無理なのよね」


 理由は判らないが闇の精霊が邪魔をしているとユピテルは教えてくれた。

 伝えるのが遅くなってすまなかったとも。

 けれど、もっと早くそれを知っていたら何か変わったのだろうか。


「十代の内なら、変わっていたかもしれないわね」


 血の気が多く怖いもの知らずのあの頃なら単身で精霊界に殴り込みぐらいはしたかもしれない。

 きっとその時にもマリアは一緒についてきてくれただろう。

 十代の若者が闇の精霊打倒の為旅をする。

 まるで英雄の冒険譚のようだ、クスリと笑った。 

 二十年前なら、そう出来ていたかもしれない。

 なら、今は?


「そこまでして、子供を産めるようになっても、私の体が産めるかどうか……」


 子供が出来なかった原因は自分のせいじゃなかったと、心安らいで生きていくべきなのかもしれない。

 何より子供は一人では作れない。

 自嘲して笑おうとしたら、年若い青年の顔が浮かんで戸惑う。

 これは、とても、恥ずかしい事だ。恋人でもない相手に対して、そんなことを考えるなんて。

 私は火照る頬を冷やす為に窓を開けた。
 
 夜の始まりに吹く風はどこか艶めかしい匂いを孕んでいて逆効果だった。 

 私は窓を閉めて椅子に再び座る。一人きりの部屋なのになんだか気まずかった。

 仕方なくうろうろと歩き回っていると扉を遠慮がちに叩かれる。 

 表情と気持ちを引き締めると私は入室を許す声をかけた。 

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