惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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閑話 王と王妃と英雄

「元平民だった私が玉の輿に乗って王妃になった結果前世が建国の英雄の片割れだと判明した件」

「……なんだって?」


 突然執務室に乱入してきた妻が神妙な顔で告げた言葉に、ユーノは首を傾げた。

 服装こそちゃんとしているが、しっとりと濡れた髪と馨しい花の香りで湯上りだとわかる。

 長湯をして疲れたのか少し憂いを含んだ瞳が、普段とは違う色気をマリアに纏わせていた。

 この国で一番美しい女性だと、夫としての贔屓目でなく思う。 

 ただ、それでも彼女の発言の奇妙さは拭えなかった。


「元平民美少女で現在はカリスマ王妃な私ですがなんと前世は美女精霊にモテモテの建国の大英雄でした」

「……そういう物語が民の間で流行しているのかい?」

「そんな物語が流行していいと思う?かなりやばいわよ?!」


 急にテンションが上がった妻に、いいんじゃないかなとユーノは鷹揚に返した。

 色々な要素を詰め込み過ぎてタイトルを聞いただけで胃もたれしそうな内容だが面白そうではある。


「しかし元平民で今は王妃だなんて、まるで君みたいな主人公だね」 

「当たり前でしょ、私の事だもの」

「……成程、つまりマリアは自伝を書きたいのかな?」


 学生時代から文よりも武を好む傾向があった彼女だが、そろそろ落ち着いてきたのかもしれない。

 この国の王妃としてだけでなく、マリアの生き方や人となりは稀有で魅力的な物だ。

 その人生を書にして後世に残すのは素晴らしいことだと思う。

 執筆のサポートは惜しまないよ。そうユーノはマリアの肩を叩いて請け負った。


「違う!!!!」


 授業でもないのに作文なんて書きたくない。そう言いながらマリアはユーノに関節技をかける。

 本気ではないだろうが、若者扱いされなくなってから十数年以上経っている肉体にはそれなりに辛い。

 自分と同じ年なのに今もこのように元気に暴れまわるマリアは本当に凄いなあと国王は思った。


「聞いてよユーノ、私の前世が建国のドスケベ英雄だったんだけど!マジ最低!!」

「うん?英雄マルスは僕や息子たちの祖先になるのでドスケベ呼ばわりはマリアでもちょっと」

「だってあいつディアナの裸見て、私の頭の中で鼻の下伸ばしまくってたのよ!殺すわ!!」

「千年以上前の人物だから既に亡くなっていると思うけど」

「そうだ!ふっふっふ、女好きの男嫌いにはこれは耐えられないでしょうね。……ユーノ、私を抱きしめなさい!強くそして激しく!!」

「喜んで」


 妻の命令にユーノは言葉通り嬉々として抱き着いた。柔らかで甘い香りがする。

 接吻もするようにと言われて、彼女の小さな顔を両手で挟む。


「奥歯も凍るような激烈キッスをドカンとやってちょうだい!!」


 そう大砲を打ち込めと命令するかのような指示を妻に出され、国王は忠実にそれを実行した。

 二分、三分、五分と時間が過ぎていくことも気にせずに二人は唇を重ね合う。



「……ふっふっふ奴が泡吹いて気絶したわ、私の勝ちね!」


 英雄討ち取ったり!!

 そうユーノの体を押しやってマリアがガッツポーズをする。

 口元の唾液をハンカチで拭ってやりながら、よかったねとユーノは言った。


「いーい?次にディアナをやらしい目で見たらキスじゃ済まないわよ。」


 そう言いながらマリアは自分の頭を小突いて脅しをかけている

 なるほど、そこに英雄がおわすのか。

 時間が有ったら彼と是非話をしたいな。そうユーノは思った。


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