惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

文字の大きさ
89 / 99

夜が明ければ新しい朝が始まる9


 落ち着きを取り戻したアレス王子を私は卓に招いた。

 それから本物の侍女を呼んで茶の用意をさせる。

 彼女は自分と同じ制服を着た相手に給仕をするのはきっと不思議な感覚だっただろう。

 最初の一杯だけ世話してもらい、後は自分たちですると告げ私は侍女に退室を促した。 

 ゆっくりと紅茶を味わってから、会話を考える。

 とりあえずアレス王子が女性の姿になっているなら聞いておくべきだろうか。

 私とロバートの離婚騒動の中、ちょくちょくその姿で彼が存在していた理由を。 


「……俺の知らないディアナさんを知るようにと、母が言ったんです」

「それで魔法道具で侍女に変装して私を観察していたって訳ね」

「はい……騙すような真似をしてすみません」

「構わないわ。きっと必要なことだったのでしょう」


 アレス王子が知らない私の一面。

 それをマリアはあえて息子に見せようとしたらしい。
 
 彼女の考えはなんとなくだがわかる。私とアレス王子はそもそも接点が余りない。

 私にとって彼は親友である王妃の息子、彼にとっての私は母の親友の女貴族。

 誕生日などに贈り物はするけれど、二人で仲良く遊んだりなどはしない間柄だ。 
 
 つまりアレス王子が見ていた私は『母の友人』という一面だけだ。

 関係を深めるなら、それだけの情報だは足りないとマリアは判断したのだろう。


「だからといって私とロバートの醜態劇を見せたのはどうかしらね……」


 知らない一面どころか、知りたくなかった私の一面が山盛りあったことだろう。

 夫婦と愛人の絡んだ離婚騒動なんて。いや男性からしてみたら女同士の諍いの方が見苦しかったかもしれない。

 シシリー相手には私も感情的に振舞ってしまった自覚が大いにある。暴走すらしてしまった。

 それを止めてくれたのは今目の前にいるアレス王子だった。


『もう、止めるんだディアナさん』


 そう静かな声で私の狂気を宥めて、泣きじゃくる私に胸を貸してくれた。
 
 アレス王子は優しくて立派な青年だと思う。学校で女子生徒に追い回されるのは王子の立場とその美貌だけではないだろう。

 マリアの目論見通り、確かに私は彼に色々な表情を見られた。  

 感情的に泣き叫び、人を陥れて冷たく笑う顔も見せた。

 幻滅されても仕方がないが、そうでないから彼は今この部屋にいるのだろう。

 それが少しだけ、ほっとした。


「しかし、随分と妙な性能の魔法道具ね。マリアの持ち物と聞いて納得したけれど」


 私は手袋を外したアレス王子の指の一本をなぞる。

 そこにはめられている指輪は確かに微細な魔力を纏っていた。

 この魔法の指輪を装着すれば、別人に変身することができるのか。

 盗まれて悪用されたら非常に面倒だろうなと思った。

 まあ、持ち主がマリアだという時点で悪用はされていたに違いない。

 王宮を抜け出して街へ遊びに行く為とかに。

 そういえばマリアはこれを使って男性に変身していた。アレス王子とは違うタイプの美形だったと思う。

 大輪の花のような美貌と華やかさがあった。遠くで見れば目の保養だが近づくと疲弊するタイプだ。

 よく考えると今のマリアと中身のイメージは変わらない。 

 マリアは『自分が男になったら』で想像して変身したらいけれど、アレス王子もそうなのだろうか。

 私はメイド服を着たままの彼、いや彼女を見つめる。

 髪はきっちりと清潔に纏め上げられている。化粧も薄く地味で真面目な印象を受ける。

 けれどその顔は紛れもなく美しい。太陽よりも月の光が似合う静謐な美貌だ。

 その顔を見ていると、何やら心がむず痒くなってくる。若さと健康さゆえの肌の瑞々しさ。

 自身を飾ることなど一切考えてなさそうな無防備さ。なのにその顔立ちは極上で。

 きっと着飾れば、神の娘のように美しくなるだろうに。


「アレス王子……」

「はい」

「ちょっと髪形を変えたり、化粧をしてみる気にはならないかしら?」

「……はい?」 


 できたらドレスも着て欲しいのだけれど。

 私の懇願にアレス王子は固まった。

あなたにおすすめの小説

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」