君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ

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8.結婚してあげないって言われても眼中にないです

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「ぼ、僕はまだ二十代だよ……?」
「でも三年後には三十路ですよね」

 冷や汗を流しながら言われ私は冷静にそう返した。
 二十七歳は三年後には三十歳になります。
 小学校の算数レベルの回答だがラウルは変な呻き声を上げる。
 
「えっもしかしてそんなこともご存じなかったんですか?」
「だって……三年後なんてずっと先だよぅ!」
「いや二十歳過ぎたら結構あっと言う間ですよ」

 私は前世の記憶を思い出しつつ答える。
 二十歳超えたらというより、働き始めると一年は本当に短い。
 ただ目の前のラウルは就労経験というのがどうも無さそうだ。
 今だって兄に建てて貰った家で暮らしている訳だし。
 そんなことを考えてるとラウルが恨みがましい目でこちらを見つめてきた。

「マリアンちゃんはさ、自分がまだ十代だからって平気で酷いこと言うよね」
「ラウルさんこそギリギリ二十代の立場で三十代を馬鹿にしてましたよね」

 私はにっこりと微笑んで返す。ギリギリじゃないと叫ばれた。
 こういう人、前世の同僚にもいたな。ちょっと懐かしい気分になる。
 というか元カレの浮気相手がこういうタイプだったわ。
 十九歳で二十代の私をおばさん呼ばわりしてきた。
 しかし二十七歳無職が三十歳の伯爵家当主な兄を中年呼ばわりしつつ自分は若者だと主張するのは拗らせ過ぎでは。

「酷い、僕は兄さんを馬鹿にしてなんて……」
「フェリクス様をおじさん扱いしたのに自分がおじさんだと言われたら嫌がったじゃないですか?」
「それは、僕は全然おじさんじゃないから……」

 涙目でもじもじしながら言われて心底げんなりしている。
 フェリクスが彼を離れに隔離していたことに感謝したが、その理由も理解できた。
 こんな兄弟と一つ屋根の下で暮らしてたら毎日嫌な気持ちになりそうだ。
 しかしよくこんな人物が結婚できたものだ。

 確かに顔はとても良い。前世だったら余裕で男性アイドルとかモデルをやれそうだ。
 きっとファンになった女の子は「全然アラサーに見えない」「余裕で十代」とか持ち上げるだろう。
 私だって彼がフェリクスをおじさん呼びしなければ、二十七歳をおじさん扱いなんてしない。
  
「そもそも二十七歳で兄に養われていることが問題なんですよね」
「はうっ」
「養ってくれてる兄をおじさんって馬鹿にしたけど、あなたみたいな人って確か……子供おじさんって言うんですよ?」
「僕おじさんじゃないもん!マリアンちゃんの意地悪!」

 ラウルは叫びながら椅子から立ち上がる。
 そしてこちらへとずかずか歩いてくる。
 危険を感じたのか今まで見守るだけだったシェリアが私の前に立った。

「邪魔、どいて!」
「っ」
「お嬢様!」

 直前私とシェリアの立ち位置を入れ替えたので、彼は私に肩をぶつけてきた。
 もやし体型の癖に結構な威力だ。ふらつくのを真っ青な顔をしたシェリアが支える。  

「このパラサイトぶつかりおじさんがよ……」 
「だからおじさんじゃない!もうっ、母さんに言われても絶対結婚してあげない!!」

 そう捨て台詞を吐いてラウルは応接室から出て行った。

「お嬢様、どうして私なんかを庇って……」
「気にしないで、私はあいつに公爵家の人間に当て逃げした過失を作りたかっただけだから」

 侍女のシェリアにぶつかられて泣き寝入りするぐらいなら、痣の一つぐらい作るわ。

「しかしラウル変な事言ってたわよね」
「はい、お嬢様相手に結婚してあげないなんて何様なのでしょう!」
「そうね」

 半泣きで憤るシェリアに同意しつつ、私は彼の口から母親という単語が出てきたことが気になっていた。
 アンベール前伯爵夫人。伯爵邸の東棟に引きこもっているフェリクスたちの母。
 一応私も義理の娘だが可愛がられた記憶もいびられた記憶も無い。

「もしかしてラウルをけしかけたのって、彼女なの……?」

 私は義弟が開けっ放しにした扉を見つめながら呟いた。
 暫くすると大きな足音が聞こえ出す。リズム的にかなりの早足だ、走ってるのかもしれない。

 怒りの冷めないラウルが戻って来たのかと思い身構えたが、応接室に入って来たのは彼の兄だった。
 
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