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7.貴方のこと一度も好きじゃないですけど
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応接室に通したラウルは当たり前のように私の隣に座ろうとした。
「向いに座るか帰ってください」
「あっ、ごめん。僕ってマリアンちゃんを本当の妹みたく思っているから……」
「私は貴方の義理の姉です」
事実を言っただけなのに泣きそうな顔をされて追い出したくなる。
まるで私が虐めているみたいじゃないか。
実際彼を猫可愛がりしている様子の執事がこの場にいたら説教でもしてくるかもしれない。
フェリクスに対しては普通の対応をしていた彼がラウルに対しては孫を溺愛する祖父みたいな態度だったのは驚きだった。
確かに彼にとっては息子ぐらいの年齢かもしれないが、だとしても異常だ。
当主の実弟なのに離れを作ってそこに住んでいるのも関係あるだろうか。
私の対面に座ったラウルは寂しげな笑みを浮かべ口を開いた。
「マリアンちゃん変わったよね、昔はもっと優しくて良く笑う女の子だったのに……」
「私と貴方は今回含めて数回程しかお会いしたことは無いですが?」
「そうだったかな、ごめん僕だけマリアンちゃんと仲良くなれたと勘違いしていたのかな……」
「そうですね勘違いです」
なんだろう、話してて苛々するしモヤモヤする。
目の前の青年は何でこう全ての会話で思わせぶりなのか。
フェリクスが彼を離れに住まわせていてくれて良かった。一つ屋根の下なんて耐えられない。
「私は貴方の兄の妻で何より成人しているのでちゃん付けするのを止めて頂けますか?」
「酷い……マリアンちゃんが僕に冷たいのは兄さんと離婚するつもりだから?」
悲し気にそう言われ内心驚いた。
離婚を切り出したのは昨夜なのに何故既にラウルが知っているのか。
確かに同じ敷地内で暮らしてはいるが離れの彼に聞こえるような声で宣言したつもりは無い。
それともフェリクスから実弟に伝え済みなのだろうか。
ならば私に彼が会いに来たのも少しは理解できる。
離婚するなと説得する気か、それとも逆か。とりあえず誤解は解いておこう。
私がラウルに冷たいのは離婚するからではない。
「違いま」
「でもマリアンちゃんが僕を好きになったせいで兄さんに責められてるなんて……」
「は?」
「もっと早く相談してくれたら良かった、僕も兄さんに逆らうことは出来ないけど……」
ラウルがガタリと椅子から立ち上がる。私はとっさに鈍器を探した。
しかし彼は別に私に近づこうとせず自分の胸に手を当てる。
まるで舞台に立つ役者のようだ。実際外見は美男子なので様になっているのが悔しい。
「いつもそうなんだ。兄さんの婚約者は皆僕を好きになってしまう、僕は何もしていないのに……」
それは初耳だ。でも何もしていないという言葉に対して絶対嘘だと突っ込みたくなるのは何故だろう。
悩んで答えを見つけた。こいつ前世の元カレに似ているんだ。
浮気がバレた時いつもこうやって被害者ぶってた。自分は何もしてないのに向こうが勝手に惚れてくるのだと。
「そりゃ彼女たちに優しくはしたよ? でも兄さんは不器用で誤解されやすいから僕が潤滑油になってあげようとしただけなのに……」
「確かにヌルヌルしてそうですけど」
「マリアンちゃんはすぐ兄さんと結婚したから大丈夫だと思ったけど、やっぱりこうなってしまうんだね……」
「いや貴方とどうにかなる気は全くありませんけど、絶対それ以上近づかないでくださいね」
「それとも僕に近づく為に兄さんと結婚した?あの時はまだ僕は結婚していたから……」
「そうでしたっけ」
確かに私が結婚するのと入れ違いにラウルは返品されて来た気がする。
その頃の伯爵邸では離れを突貫で建てていたような。
あまり覚えていないのはフェリクスに初夜を拒まれたショックの方が大きいからだ。
つまりラウルのことなんて一切頭に無かった。彼の方は何か巨大な勘違いをしているようだが。
「じゃないと三十歳のおじさんに十代の公爵令嬢が嫁いだりしないよね……全部わかってたよ」
「いや三十歳がおじさんなら二十七歳もおじさんですからね?」
何若者ぶってるんですか。
私の言葉にラウルが固まった。
「向いに座るか帰ってください」
「あっ、ごめん。僕ってマリアンちゃんを本当の妹みたく思っているから……」
「私は貴方の義理の姉です」
事実を言っただけなのに泣きそうな顔をされて追い出したくなる。
まるで私が虐めているみたいじゃないか。
実際彼を猫可愛がりしている様子の執事がこの場にいたら説教でもしてくるかもしれない。
フェリクスに対しては普通の対応をしていた彼がラウルに対しては孫を溺愛する祖父みたいな態度だったのは驚きだった。
確かに彼にとっては息子ぐらいの年齢かもしれないが、だとしても異常だ。
当主の実弟なのに離れを作ってそこに住んでいるのも関係あるだろうか。
私の対面に座ったラウルは寂しげな笑みを浮かべ口を開いた。
「マリアンちゃん変わったよね、昔はもっと優しくて良く笑う女の子だったのに……」
「私と貴方は今回含めて数回程しかお会いしたことは無いですが?」
「そうだったかな、ごめん僕だけマリアンちゃんと仲良くなれたと勘違いしていたのかな……」
「そうですね勘違いです」
なんだろう、話してて苛々するしモヤモヤする。
目の前の青年は何でこう全ての会話で思わせぶりなのか。
フェリクスが彼を離れに住まわせていてくれて良かった。一つ屋根の下なんて耐えられない。
「私は貴方の兄の妻で何より成人しているのでちゃん付けするのを止めて頂けますか?」
「酷い……マリアンちゃんが僕に冷たいのは兄さんと離婚するつもりだから?」
悲し気にそう言われ内心驚いた。
離婚を切り出したのは昨夜なのに何故既にラウルが知っているのか。
確かに同じ敷地内で暮らしてはいるが離れの彼に聞こえるような声で宣言したつもりは無い。
それともフェリクスから実弟に伝え済みなのだろうか。
ならば私に彼が会いに来たのも少しは理解できる。
離婚するなと説得する気か、それとも逆か。とりあえず誤解は解いておこう。
私がラウルに冷たいのは離婚するからではない。
「違いま」
「でもマリアンちゃんが僕を好きになったせいで兄さんに責められてるなんて……」
「は?」
「もっと早く相談してくれたら良かった、僕も兄さんに逆らうことは出来ないけど……」
ラウルがガタリと椅子から立ち上がる。私はとっさに鈍器を探した。
しかし彼は別に私に近づこうとせず自分の胸に手を当てる。
まるで舞台に立つ役者のようだ。実際外見は美男子なので様になっているのが悔しい。
「いつもそうなんだ。兄さんの婚約者は皆僕を好きになってしまう、僕は何もしていないのに……」
それは初耳だ。でも何もしていないという言葉に対して絶対嘘だと突っ込みたくなるのは何故だろう。
悩んで答えを見つけた。こいつ前世の元カレに似ているんだ。
浮気がバレた時いつもこうやって被害者ぶってた。自分は何もしてないのに向こうが勝手に惚れてくるのだと。
「そりゃ彼女たちに優しくはしたよ? でも兄さんは不器用で誤解されやすいから僕が潤滑油になってあげようとしただけなのに……」
「確かにヌルヌルしてそうですけど」
「マリアンちゃんはすぐ兄さんと結婚したから大丈夫だと思ったけど、やっぱりこうなってしまうんだね……」
「いや貴方とどうにかなる気は全くありませんけど、絶対それ以上近づかないでくださいね」
「それとも僕に近づく為に兄さんと結婚した?あの時はまだ僕は結婚していたから……」
「そうでしたっけ」
確かに私が結婚するのと入れ違いにラウルは返品されて来た気がする。
その頃の伯爵邸では離れを突貫で建てていたような。
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つまりラウルのことなんて一切頭に無かった。彼の方は何か巨大な勘違いをしているようだが。
「じゃないと三十歳のおじさんに十代の公爵令嬢が嫁いだりしないよね……全部わかってたよ」
「いや三十歳がおじさんなら二十七歳もおじさんですからね?」
何若者ぶってるんですか。
私の言葉にラウルが固まった。
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