君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ

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62.もしかして愚かですか

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「そんなことより話の続きを仰ってください!」
「あ、ああ……君は怒るかもしれないが」
「もう怒っているので大丈夫です、続きを」

 私が笑顔で促すとフェリクスはそろそろと話し始めた。

「先々月、王太子殿下が、その、君は妊娠しているのでは無いかと」
「はあ?!」
「体調不良が続くのはそのせいではと仰って……」

 苦虫を千匹噛み潰したような気持ちになる。
 王太子に対し余計なお世話だ人の家庭にずけずけ口出しするなという不快感が頂点に達しそうである。
 しかし王太子の疑い自体は納得できる部分もある。

 私とフェリクスが新婚として熱々の蜜月を過ごしていると王太子は勘違いしている。
 その上で妻の私の体調不良が続いているとフェリクスから報告を受ける。
 時期的には結婚してから一年。
 既婚者で子供がいるなら新婚夫婦に対しそういう下世話な想像をしてしまうのも理解はする。
 それを口に出して言ってしまうデリカシーの無さは理解出来ないけれど。そんなのが将来の国王とか嫌だな。

「で、フェリクス様はどう返されたのですか」
「それは……妊娠は無いだろうと」
「ですよね私が妊娠するようなこと一切してませんものね」

 私が一息に言うとフェリクスは一瞬ぎょっとした後に気まずそうな顔をした。
 悪いとは思っていたのか、それとも私が怒っているから悪いことだと気付いたのかわからない。

「今が機会だと思うので質問しますが、フェリクス様は何故夫婦生活を頑なに拒まれるのですか?」

 私の質問に向かいに座る男は固まる。女である私が明け透けな質問をしたからかもしれない。
 だとしても質問自体は何一つおかしいところは無い。
 事前に何の説明もなく籍を入れて伯爵家で暮らすようになって初めて共寝拒否の表明をされたのだから。

「フェリクス様の行ったことって悪質な詐欺行為ですよ」
「詐欺……?」
「……もしかして私を騙して結婚したという認識すらお持ちでなかったのですか?」

 子供をつくる気が無いなら結婚を考えるパートナーに事前申告はすべきだろう。
 夫婦だから必ず子孫繁栄に励まなければいけないとは思わないが、それは両者が同意見だった場合だ。
 もし結婚してから言い出したなら多分離婚理由として認められるだろう。

 この世界でも女性側が妊娠を拒否したなら離縁される筈だ。貴族という立場なら尚更。
 私が答えを待っていると、フェリクスは長い沈黙の後小さな声で言った。


「……君の為だと、思っていた」
「は?」
「もしかして、違っていたのか?」


 フェリクスの責任逃れのような台詞に怒鳴りつけたくなる 
 しかし困惑したようにこちらを見つめる赤い瞳に怒鳴っても理解できないだろうと言う気持ちも同時に感じた。
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